15th





たとえ雨の日だろうが風の日だろうが、罰ゲームは敢行されるのである。


「おっ、今日は俺?」


「うん……」


「わー、なになに?どんな罰ゲーム?どんなのでもドンと来い!だよん」


朝からトランプで七並べなんて面倒な遊びをやって、私の手元に残ったハートのエースを睨みつけながら私は、隣席の菊丸君に頭を下げた。


「あの、ね……」


「うん」


「……その……」


「うんうん」


「……ほうしかつどう」


「うんうん……うん?」


ニコニコ笑顔をピタリと停止させる菊丸君。
固まった笑顔のまま「……え、どこで?」と尋ねてきたので、私は外を指差した。


「……えー?めんどくさー……」


窓の外では、ザーザーと雨が地面や建物を叩く音がする。
ぐったりとダルそうに机に突っ伏す菊丸君に、私も激しく同意した。



………………



奉仕活動。
……といえばその内容は様々だけれど、今回の罰ゲームでやるのはベタに中庭の草むしりである。
しかも菊丸君と、しかも雨の中で、などという嫌がらせ。もはや嫌がらせの域だよコレは。


「ううー、ちめたーい……濡れるー……もー、なんで俺がー……」


隣で草をぷっちんぷっちん千切りながらブツクサ言う菊丸君。確かに、この罰ゲームは菊丸君からしたら理不尽極まりない。


「あの、ごめんね……」


「あ、いやいや山川ちゃんが悪いんじゃないよん?」


眉を下げながらも、菊丸君は手を左右に振り笑顔でフォローを入れる。


「悪いのはぜーんぶ……」


と、言っている途中で、何かに気づいたのか喋るのを止める菊丸君。


「……う、あ、」


「?」


一瞬だけ向かいの校舎を横目で見上げ、菊丸君は苦い顔になる。悪いのは全部……の続きはなんだろう?


「……ハア……寒いよにゃあ……」


「え、う、うん……?」


謎の溜め息と共に、台詞の続きは言わないまま、菊丸君は草むしりの手を進めた。
草は根っこから引っこ抜かないと意味がないんだよ、と教えてあげるべきだろうか……。


……開始から、多分10分ほど経過。
雨は止むどころか、ますます勢いが増してゆく。

これは流石にマズくないか?……と思っていたらタイミングよく、友人からメールがきた。


『雨天順延!』


「……んーと……これは、やったー!って喜ぶところ?それとも、また後日やんなきゃなんないっぽいことを嘆くところ?」


「……さあ?どーかにゃあ?」


けどまあ、とりあえずはあがってもいいみたいなので、私たちはここで切り上げることにした。

抜いた草は置きっぱなしにした。大丈夫かな……?



………………



「お帰り」


「たーだーいまー……」


教室に戻るなり、テニスバックの中から乾いた真っ白タオルを取り出し濡れた頭をがしがしと拭く菊丸は、ニコニコ笑顔な不二君に向かって不満だらけな顔を向けていた。


「不二ってば、ヒドいー」


「クス、なんのこと?」


本当になんのことだろうと思える菊丸君の文句を、サラサラした笑顔でかわしながら私にタオルを差し出す不二君。あ、ありがとう……。
そんな不二君を指差しながら菊丸君は、私にこんなことを言った。


「聞いてよ山川ちゃーん、コイツさあ?さっきまでさあ?空き教室にいたんだよ、ヒドくなーい?」


「へ?空き教室?」


何故彼がそんなところにいたのか、何故それがヒドいのか、と疑問に思っていたところに菊丸君は付け足す。


「空き教室から俺たちのこと、ニヤニヤしながら見下ろしてたの。……悪趣味だよね〜」


「…………え」


眉をひそめてこのタオルの持ち主に視線を移すと、「……クスッ」と微笑まれた。……うわあ……。


「いいじゃない、次は当たらないだろうから」


クスクス笑いながらそう言う不二君。
確かにこの罰ゲームのターゲット、連続で当たることなんて今までなかったし、次回の罰ゲームは菊丸君以外の誰かになるのだろう。
しかしそこで菊丸君は、なんでか口を尖らせた。


「俺は当たりたいのー!んでも、雨の中はヤなのー!」


「ワガママだね、英二ったら」


理不尽極まりないことになる可能性大の罰ゲームターゲットに敢えて当たりたいだなんて、菊丸君は菊丸君でとんでもない趣味してるなあ……なんて思った、雨の日だった。


ちなみに、草むしりの続きは後日、日を改めて行われた……。



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