「そろそろ、テニス部レギュラー全員と知り合ってもいいんじゃない?」
ある日、不二君がのたまった台詞だった。
死刑宣告かと思った。
「罰ゲームのターゲットになってないのってさー、あと誰だっけ?」
「タカさんと……越前、かな?」
「そっか!じゃ、次はきっとタカさんだね山川ちゃん!」
私を見てニコッと満面の笑みをたたえる菊丸君に、本気で言いたくなった。
……ふざけんなー!
……言えないけどさ、そんなこと。
くそう、自分のチキンさが時々憎い……。
………………
そんな訳で……ええと、菊丸君は予知能力でも持っているのか、それとも菊丸君の言葉が言霊的に実現したのか。
いま私の目の前には、テニス部員の、気は優しくて力持ちっぽそうな男子、河村隆君が……ラケットを握って、バーニングしていた。
バーニングするって、動詞としてどうなんだろう。不二君が使ってたから使ってみたけど。
「ぬうぉおぉーッ、グレイトーッ!!」
「……ひっ……」
今まで、テニス部関連の罰ゲームで怖い思いをしたことはあるけど(……っていうか毎回ビクビクしてるけど)、今回のは……格別だった。
“河村君にラケットを渡す”
「ふ……ふふふふじくん、ななななになになにアレなに」
罰ゲーム内容を話したら河村君のクラスへと案内してくれた不二君の背後に隠れつつ、私は彼の制服の袖を引っ張った。
「クス、どもりすぎだよ」
あの、全然笑い事じゃないよ不二君!チームメイトが豹変しちゃったよ!
私が慌てふためいていると。
「落ち着いて山川さん。テニスやってる時はコレが普通だから」
「え……えぇぇえぇ……?」
サラリと、さも当然の如く不二君は言ってのけた。
アレが……部活中の通常モード?ええぇ……前からなんとなく思ってたけど、テニス部って何なんだろう……何の集まりなんだろう……。
「おうおう、どうしたんだい罰ゲームガール!この俺に一体何の用だっ!?」
「ひぃっ……ふ、不二君不二君たす、たすたすたすけて……!」
必要以上に怯えまくる私だけれど、いやしかしさっきまで穏やかな笑顔を浮かべていた柔和な男子がラケットを持った途端にこんなになってしまえば、誰だってびびると思います!
「いいけど……」
いいけど何!ホント、早く、なんとかして……!
「タカさん」
言いながら、不二君はバーニングしている彼の右手にスッと手を伸ばしたかと思えば、力強そうに握っている彼の手からいとも簡単に、ラケットを奪い取った。
「あ……」
「クス、山川さんが怖がってるよ」
「ご、ごめんね……?つい、癖で……」
今のバーニング状態は夢だったのかと思えるくらい、いつもの通りの状態に戻った河村君。
いや、そんな、ラケット持たせたのは私だし……。
「い、いえ、こっち、こそ……その……」
不二君の後ろにひっついたまま、コソッと顔を出して眉を下げて困った笑いを浮かべている河村君を見上げる。
そんな私の頭にぽん、と手を置いた不二君は、河村君に向かって「気にしないであげてね、タカさん」とフォローを入れた。
うう……なんか、ごめんなさい……。
「まあ、またあると思うけど」
「えっ……」
不二君……余計なことを言わないで下さい、河村君がやや嫌そうにしています。
そんなこんなで無事に罰ゲームを完遂させた私は、不二君に腕を引かれて(手じゃなくて腕だった)、菊丸君の待つ教室に戻った。
………………
「どうだったー?」
開口一番に菊丸君が尋ねるは、罰ゲームの結果らしい。たまにはもうちょっと違う話題も出して欲しい。
「見ての通りだよ。バーニング状態のタカさんが怖かったみたい」
「へー?まあね、初めてならアレはびびるよねん」
菊丸君の言葉にコクコクと大きく頭を上下させると、不二君も菊丸君もクスクス笑ってきた。いや、だからさ、笑い事違う。
「これで、あとはおちびだけ?」
「うん、だね」
「どんな罰ゲームになるんだろね〜、楽しみだにゃ〜」
「クス」
……今の無駄に楽しげな2人の会話は、聞こえなかったフリをしよう。うん、そうしよう。
「でさー、山川ちゃん?」
「……なに?」
不二君の背からちろりと、何故かニヤニヤ笑いを浮かべている菊丸君を見ると。
「いつまで不二にひっついてんの?」
「……!!」
…………うわあっ!そういやそうだ!
慌ててバッと離れると不二君に「クス、残念」などと可笑しそうに言われ、何が残念なんだとか思いつつ私は自分の席に戻って罰ゲームノートに記録した。
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