13th





着々と、罰ゲームターゲットにテニス部レギュラーが増えていっている気がする。
気がするというか、確実に増えている。

切実にやめて欲しい。
だって……あの人たち有名人じゃん、格好良くて女の子たちにモテモテじゃん、これ以上そんな知り合い増やしたくないんだけど……。

そんな私の儚い願いなど届く訳もなく、今日もまた、テニス部の知り合いは増えていくのだった。


「ごめん、待った?」


「う、ううん、平気。あ、あの……ごめんね、急に呼び出したりして」


「あ、いや、別に……」


互いに初々しさと少々の気恥ずかしさを漂わせながら、昼休みの校舎裏で、私とテニス部の大石君は向かい合わせに立っていた。
彼の靴箱に呼び出しの手紙を入れるという所業だけでなく、実際に指定の場所で指定の罰ゲームを実行せねばならないという地獄のコンボ。かなりの勇気と気合いが要った。
まあ、人前じゃない分、前の告白や街でデートよりはマシだけどさ……。


「お、大石君。あ……あの、その……」


「う、うん……」


心臓がドキドキバクバク音を立てている後ろで、物陰から「告白前の男女みたいだにゃ」「告白かな?あ、でも前に手塚にやってるよね」とひそひそ聞こえる。
あの、なんでいるんですかあなたたち。どこから嗅ぎつけてきたんですか。

ちなみに、私はいま罰ゲーム中!の名札つきである。
ついでに言うと、大石君の靴箱に入れた手紙にも、罰ゲームであることを明記した。
私はともかく、大石君が若干挙動不審なのは何故だろう……。こういう体験をしたことがないのだろうか?

とまあ、なんやかんやでぐるぐるに絡まった思考の片隅でそんなどうでもいいことを思いつつ、別に告白する訳でもないのに胸を無駄に高鳴らせながら私は、俯きがちに今日の罰ゲーム内容を告げた。


「まっ……前髪、を……引っ張らせ……てくださ……い……」


……あまりの恥ずかしさに、語尾が小さくなってしまう。
なんなのこの内容。一体何が狙いなの。


「………………」


しばしの沈黙。
そりゃそうだ、よりによってこんな謎な……ハア。


ややあって、大石君側から、緊張が解けた時のような「はあ〜……」が聞こえた。

顔を上げて彼を見ると、頬を紅潮させた彼がいた。


「ああ良かった……手塚のと同じだったら、どうしようかと……」


「あー……ははは……」


……すごい心配をする人だなあ。
もしかしたら、たとえ罰ゲームと言えどそういうのは返答に困る人なのかな?実際、手塚君も結構困ってたし。

というか、何気に私の罰ゲーム事情は筒抜けな訳ですね。後ろの2人のせい?それとも、私が罰ゲームで有名になりつつあるせい?後者だったらヤだな……。


「で……あの、その……」


「ん?」


「前髪を……」


「あ……ああっ、そっか、ど、どうぞ」


いいんだ。
テニス部って、割とあっさり了承してくれる人多いよなあ、優しいよなあ……。

初対面の人相手に何故こんなことをしなければならないのだろうか……と今更なことを思いつつ、背伸びして恐る恐る手を伸ばし、ぴょこんと飛び出している彼の前髪をクン、と軽く引っ張った。
後ろから「ぶふっ」と吹き出す音が2つ。……あの、そろそろ怒ってもいいかな?ちょっとそこの2人。


「ご、ごめんなさい」


「い、いや、全然……」


「……え、えと、じゃ、じゃあね」


「あ、ああ、うん、じゃ」


と、こんな終始初々しいノリのまま、私たちは別れを告げた。
めちゃくちゃ恥ずかしかったんだが、彼はどうだったんだろうか……。


教室に戻ろうと校舎の角を曲がった所で、ふるふると笑いをこらえている菊丸君&不二君に出くわして、やっぱりいたよ、全然こっそりする気ないよこの2人、と思った。
私に気づいた2人の第一声が「あー、面白かった」だった。


「なにあの罰ゲームー!奇抜すぎる!あっははっ」


「シチュエーション的にはどう見ても告白なのにね、クス」


酷いよね。前から思ってたけどこの2人、結構酷いよね、意地が悪いよね。

そんな2人に一発グーをお見舞いしてやろうかどうか数秒間だけ悩んで、結局譲歩した。
譲歩っていうか、そんな勇気なかったからだけど。



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