12th





「んだとコラァ!」


「やんのか、あん!?」


「………………」


目の前のこの光景から、つい目を背けたくなった。
それはごく自然なことであって、決して私が臆病な訳ではない……筈。

そんなことを思いながら、今回のターゲットであるモモシロ君ともうひとりが、テニスコート脇で胸ぐら掴み合いながら繰り広げている喧嘩を、私たちは固唾を呑んで見つめていた。


「あ……あの、さ……行かなきゃダメ……?」


「モチのロン!……いや、大丈夫だってー、そんな不安がらなくても!へーきへーき」


初めて入るテニスコートの中、私と違ってノリの軽い菊丸君のその言葉によって若干元気と勇気を貰いつつ、私は深呼吸をしてから彼らの元へ近づいていった。

そう、「罰ゲーム中!」の名札をつけて……。



………………



“モモシロ君とカイドウ君に、お互いの印象を訊く”


「えー?何スかその罰ゲーム?」


「フシュウゥゥ……」


「う、うん、ごめんねホント……えと、答えてくれるかな?」


私が話しかけたことによりなんとか喧嘩は中断し、周囲のテニス部員もホッとしている中、テニス部でもないのにコート付近にいる私は2人に罰ゲーム内容を告げた。

そしたらそんな反応をされた訳だけど。
モモシロ君はともかく罰ゲーム初めてのカイドウ君はどう思っているんだろうか……部外者がここにいることについて。


で、先に答えたのはモモシロ君だった。


「コイツの印象?そりゃ、無口で無愛想で目つき悪くて、テニスん時はしつこいしねちっこい、ヘビみてえな野郎ッスよ」


「あァ!?」


モモシロ君の挑発的回答に、また一触即発的雰囲気になったが、睨み合っただけで喧嘩にはならなかった。


「んだよ!お前も言えばいいだろ、俺に対する悪口をよー?」


いやあの、私が訊きたいのは悪口ではなくて印象なんですけど……。


「ケッ……コイツは見て分かる通り、ノリが軽くて口も軽い能天気な野郎ッスよ」


売り言葉に買い言葉、カイドウ君もまた挑発的にそう言った。
そう言われれば勿論、モモシロ君は怒る訳で。


「あん?なんか言ったかマムシ野郎!?」


「マムシって呼ぶんじゃねえよ!やんのかゴラァ!」


「上等だオラァ!」


胸倉を掴み合って……また、喧嘩が始まってしまった。


「いや、え、ちょっ……」


け……喧嘩ヤメテ!
私が困るから!みんなも困ってるから!周り部活中だから2人とも、ちょ!

私がなんとか止めようと思いつつもどうしていいか分からず、わたわたしていると……。


「桃城!海堂!」


「……!」


離れたところから、随分通る声がした。
私達3人はビクッと反応し、そちらに目をやる、と……あ。


「何を揉めている」


部長顔をした手塚君が、腕を組んで立っていた。

手塚君はまず私に目をやり、目が合うとすぐにモモシロ君カイドウ君に視線を移し、ギロリと睨みをきかして、こう言い放った。


「……グラウンド30周してこい!」


「は……はいっ!!」


…………
え、と……怖い部長命令により、2人はグラウンドの方へと猛ダッシュしてってしまった……。

あの…………なんか、ごめん。


「山川。大丈夫か、あの2人に何もされていないか?」


私に近づいてきてそう訊くのは、今部員を走らせたばかりの部長さんである。
いつもの気遣いが部員の対応とは大違いで、ちょっぴり戸惑った。


「う、うん平気。ちょっと質問してただけだから……」


そう答えると、手塚君は私の胸のコレを見て、呆れたように眉をひそめた。


「……今度からは、部員に用がある場合、俺か大石か先生を通すようにしてくれ。いいな?」


「あ、は、はい」


実はここには菊丸君が入れてくれたのだけど、部員の許可だけではいけなかったようだ。

……ていうか手塚君、“今度から”ってそれ、今度また部活中の罰ゲームがあってしかも私がやる羽目になる前提の発言ですよね。止めてよそういうの、もうこんな戦場には赴きたくないよ……。


「うん、ええと、心掛けます」


「……ああ」


すみませんでした的意味合いで頭を下げた。
そしたらそう返され、なんでだろう、頭に手を置かれた。

撫でられた。


「………………」


「………………」


遠くにいる1年生らしき3人組が、こちらを見て驚きながらひそひそ話しているのが見えた。


手塚君……?
……あの、一体何をやってらっしゃるんでしょう、アナタ?

顔を上げてみたが、手塚君の腕が邪魔で彼の表情は見えなかった。

……と思ったら、スッと手を離された。


「……??」


撫でられた頭を手で抑えつつ彼を見上げると、普段通りの仏頂面で「そろそろ帰った方がいい。暗くなるぞ」と言ってきた。


「あ、うん、じゃあ帰るね」


「ああ。気をつけて」


手塚君に手を振って、私は部活中のテニスコートを後にした。



………………



翌日の朝、報告ノートに昨日の結果を書き込んでいる時だった。


「昨日の手塚、お父さんみたいだったね」


「ねー」


朝練帰りのテニス部コンビがやってきて、挨拶より先にそんなことを言ってきた。

お父さんみたい……というと年齢的にアレだけど、見た目的には確かに合ってるかもなあ、と私は2人に同意した。



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