11th





教室の自分の席で、いつものように私はうなだれていた。


「……やだなぁ……」


私がゲームで最下位になるのは、もはやデフォルトなのではなかろうか。
というか、寧ろ誰かに仕組まれているのではなかろうか。

……なんて話を、今回のターゲット3−6コンビに話してみると。


「えー、ナイナイ絶対ナイ!考えすぎだって山川ちゃーん」


「純粋に山川さんがゲーム運ないだけだと思うな」


あっさり否定してくれた。2人ともヒドくね。


「で?今回は何?」


そんなことどうでもいいから、とでも言うように不二君は尋ねる。
久しぶりの出番だから、ワクワクしているのだろう。……しなくていいのに。


「あー……ええっとー、今回……っていうか、その」


「あれっ?そういや今回罰ゲーム中つけないの?」


「いや、だから、今回のは……」


話は最後まで聞こう菊丸君。

罰ゲーム中!の名札だけども、今回はお休みなのだ。
その理由を、私は痛くなる頭を押さえながら告げた。


「……今回は…………、しろって……」


「…………え?」


「俺たち、と?」


予想していなかったであろう罰ゲームに2人は、若干困惑気味に顔を見合わせた。


「…………へーえ」


……直後、こちらを見て、ニンマリ笑いかけてきた。
どうしよう、ヤな予感しかしない。



………………



さて、日付は進んで日曜日。
所変わって公園前。


「お待たせ、山川さん」


「ヤッホー山川ちゃん!お、私服じゃーん、なんか新鮮だねん!」


時間より早めに来ていた私に、不二君菊丸君はそれぞれの笑顔で手を振った。


で、今回の罰ゲームが何かというと……ええーっと……かなり言いにくいんだけど……。


「よーしっ、んじゃ早速だけど、どこ行こっか!」


「え……ここじゃダメなの」


私が指差したのは目の前の公園なのだが、しかし菊丸は首肯しない。


「ダメダメ!せっかくのデートなんだからさ、楽しくいきたいじゃん!ねっ?」


「………………」


学校より、良く言えばテンションが高くて悪く言えばウルサい菊丸君が今言ったが……そう、これはデートなのである。
この2人と、私で。


正直……げんなりする。

デートとは普通、男女1対1で行うものではないのか(いや同性の場合もあるか)。
しかも相手は、天下の男子テニス部レギュラーである。
いくらクラスメートだからといって、あんまり仲良くしていたりあまつさえこの罰ゲームデートを見られたりしたら、ファンの女の子達は黙っていないだろう。


……けれど、そんなことを言ってもデート中断を聞き入れてくれる2人ではなく、また申し出る勇気も元気も私には備わってはいないので、2人に言われるままに私は、日曜の街を出歩くことになってしまった。



………………



11時。ゲームセンターに私たちはいた。


「山川さん、どのぬいぐるみがいい?」


「えー……いや、えと……」


UFOキャッチャーの前で百円玉をスタンバイしながらニコニコしているのは、不二君である。
いらない……って言ったらどうなるかなあ……。


「不二こーゆーの上手いからねー、一発で取ってくれるよん!あ、あのペンギンとかどう?」


「あ、うんじゃあそれで……」


私の後ろで私の両肩に手を置きながらゲーセンの喧騒にも負けない声で喋るのは、菊丸君。
なんで肩押さえてんのかなあ、逃がさないためかなあ……。

菊丸君の予言通りペンギンさんのぬいぐるみを見事百円でゲットした不二君は、私にそれを渡しながらこんなことをのたまった。


「山川さんって、ペンギンみたいだよね」


どういう意味、え、今のどういう意味。
私はこんなに可愛くない……と思いながら、動きのトロそうな水色のペンギンさんを受け取った。



12時。ハンバーガーショップに私たちはいた。


「山川ちゃんはなに食べたい?ラッキーセット?」


「ラッキーセットおもちゃ付いてるけど、どれがいい?」


「いや、普通にチーズバーガーセットで……」


なんかすごい子ども扱いっぽい発言を受けたけど、気にするな紅葉、反論したら負けだ。


こちらでお召し上がっている最中。


「なんていうかさあ、山川ちゃんってすごいよね〜」


ポテトをつまみながら、菊丸君は言った。
すごいって何が。


「引っ込み思案で人と話すの苦手なクセに、罰ゲームちゃんと最後までやるところとかさ」


……今のは、褒められたんだろうかそれとも貶されたんだろうか。


「そりゃ……強制だし、やんなきゃダメでしょ」


「でもさ、罰ゲームって基本、友達たちがどこかで見張ってたりするんじゃないっしょ?なのになんで真面目にやってんのかな〜って」


「…………?」


それは……ええと、なんだろう、どういう意味だろう……?
私が訳の分かっていない顔をしていると、菊丸君の隣で優雅にアイスティーを飲んでいた不二君がクスッと笑ってこう言った。


「誰も見てないなら、すっぽかしちゃえばいいのにね、って話」


「え…………えぇ、なんで?」


「……なんでって、罰ゲーム嫌なんでしょ?」


「え……いや、うん、そりゃあ嫌だけど……」


罰ゲームは確かに嫌だけど……でも、それとこれとは違う気が……うーん。


「真面目だなあ、山川ちゃんは」


アハハ、クスクスと笑われた。どうしてだろうね……。

とりあえず、いつのまにか私の携帯を弄っていた不二君の手から、数十分かけて奪い返した。



14時、雑貨屋さんに私たちはいた。


「見て見てー!ロウソク型のライターだって!」


「こっちにはサンドウィッチみたいな手帳があるよ。すごいね、最近の雑貨って」


「………………」


中学男子2人が何をはしゃいでいるんだろう、などとは思わなかった。
私も最近こういう店に行ってないが、2人が色んな雑貨に目が行くのも道理、本当に様々な外見をした雑貨が勢揃っている。

そんな個性的な雑貨たちの中、私が心惹かれた品がコレ。


「わあ」


つい感嘆が口から漏れてしまう程私の目を奪ったソレは、特に奇抜なデザインでもない、けれども機能性はバツグンなアロマランプだった。

見た目はシンプルなごくありふれたランプだが、中にアロマオイルを入れることができ、アロマスイッチをオンにすればたちまち室内はいい香りで満たされるという代物。
コンセント式でコードの長さも調節可、収納も簡単らしい。
コレいいなあ、お部屋に一台欲しいなあ。


……なんて見ていたら、目ざとい2人は即反応する訳で。


「なーに見てんのっ?」


と菊丸君は飛びついてきて、


「ああ、これ最近発売されたやつだね。欲しいの?」


と不二君は尋ねてきた。

ちなみに、今日のデートの諸経費は今のところ全て彼ら持ちである(というか、私に払わせてくれなかった)。

そんな2人に「これ欲しい」なんて言ったら、さて彼らはどんな行動に出るでしょう?

……うわあ、考えただけで申し訳ない。


「う、ううん、見てただけ」


それだけ言って私はその場を立ち去った(後ろの菊丸君が重くて立ち去りにくかった)。



15時、公園前にて、解散。


「送ってくよ」


「俺も俺もー!」


「い、いや、ひとりで大丈夫だから……」


なんとか2人を説得して、現地解散にして貰った。

その理由はただひとつ。
実はコッソリ後をつけていたという友達ら数名に、結果を報告する為である。
いや、結果というか……あのコンビの、メアドを。

お昼ご飯の時に無理矢理登録されたのだが、友達たちはそれをばっちり目撃していたらしく、提供を要求された。


それぞれのアドレスに、2人のアドレスを送信しながら、私は言う。


「教えるだけだからね?悪用しちゃダメだからね?」


彼女たちは「分かってる」と言うけど大丈夫だろうか……と心配していたが、その後2人が何らかの被害を受けることはなかった。


余談。
私の携帯のアドレス帳に晴れて登録されてしまった彼らの名前は、「サボテン王子」と「バンソーコーネコ」だった。
少し迷ったけれど、消さなかった。なんとなく。



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