10th





私の友人たちは、毎回毎回どこから罰ゲームのネタを仕入れているのだろうか。

そんな私の疑問を素通りして、今日も今日とて罰ゲームは行われるのであった。


「あ、罰ゲームの人だ」


「………………」


先日の手塚君の気遣いも虚しく、私はモモシロ君という2年生と向き合っていた。

しかも何故だか彼は、私のことを知っている素振りである。どういうこったい。


「エージ先輩と不二先輩がっすねぇ、最近よくするんスよ。罰ゲームやらされてるクラスメートの話」


「………………」


そういうことだった。
なんてヤツらだ、いや別に内緒にしてた訳ではないけど、なんてヤツらだ。


「あ、もしかして今回のは俺に当たったんスかね!?」


「あー、うん……ハイ、そうです……」


言われて、胸の罰ゲーム中の名札をくしゃりと押さえつける。
ああ……くそう、後輩相手は初めてだから、動悸が……。


「え、ええと、あの」


「ハイ!」


心なしかワクワクウキウキしてる気がしないでもない彼に、そんなに期待されても困るんだけどな……と思いながら、私は用件を告げた。

おやつを恵んで下さい、と。



………………



「えーとじゃがりこは……あー、いっこしかねーから……あ、ポッキー開いてないのふた箱あるッスよ、普通のと極細どっちがいいッスかー?」


「え、うーんと、えと、いやどっちでも……」


「じゃ、極細で」


鞄をゴソゴソしながら、次々お菓子類を発掘していくモモシロ君。
最終的に、ポッキーの他にチョコレート(お徳用)とパイの実(これもお徳用)をごっそりくれた。


「エージ先輩が作ったんスよね?ソレ」


じゃがりこをモリモリ食べながら、私の名札を指差して言うモモシロ君。


「う、うん……」


果たして作ったと言っていいのだろうか、この紙切れ……。


「他にも、面白半分で罰ゲーム報告ノートとか作ったって言ってたんスけど」


「ああ、うん……あるね」


「律儀に毎回書いてるらしいッスよね、山川先輩」


「う、ん……」


……うおぅ……なんだろ、生まれて初めて“先輩”って呼ばれた気がする……。
ずっと帰宅部で、後輩とかいなかったから、なんだか新鮮だ……3年のこの時期にして。


「あ、それから、乾先輩が山川先輩のことノートに記録してたッスよ」


「へぇー………………えっ!?」


ほんのり先輩気分を味わっていたため反応が遅れたが……え?乾……って、あの、アヤシイ汁の人……?


「な、なんで?」


「さあ?乾先輩の考えてることなんかよく分かんないッスからねえ」


至極もっともなことを言うモモシロ君は、食べ終えたじゃがりこを利き手でぐしゃりと握りつぶすと、その場からゴミ箱に向かってポイッと投げ捨てた。


「あ、やべ」


しかしゴミはゴミ箱の縁に当たって跳ね返り、ポトンと床に落ちてしまった。
うん、よくやるやる。


「………………」


「………………」


私もモモシロ君も、無惨に打ち捨てられたじゃがりこの容器をぼんやり眺めていたが、彼がそれ以上なんのアクションも起こさないので、訊いてみた。


「……アレ、捨てに行かないの?」


「へ?」


いや……へ?ではなくて。


「ダメだよ、ポイ捨ては」


「………………」


キョトン、とするモモシロ君。
……あれ、私なんかおかしなこと言った?ポイ捨てダメって、別に変じゃない、よね?ね?


「……いや、えと、あの、ポイ捨ては良くないよ……うん」


言い方が悪かったのかもと思って若干控えめな表現に変えてみたところ、彼は「あー、」と納得したような顔になって。


「はーあ、ナルホド……」


……ナルホド?……何が……?

謎の発言に今度は私がキョトンとなって首を傾げていると、モモシロ君はなんでかプッと吹き出して、可笑しそうに「了解ッス」と言って立ち上がった。
……え、何?なに?なんでいきなり笑われたのちょっと?

ゴミをきちんと捨てて、戻ってきたモモシロ君は席につきながら私に一言、


「山川先輩が、ウチの濃いーいメンバーに気に入られてるワケ……なんとなく分かったッス」


「………………へっ?」


……はい?
気に……?入られ……って、え?何が?いや何で?いや何を、いや何故…………ああぁっ、ワケ分かんなくなったもう!
またこの子は謎なことを!


「せんぱーい?教室戻んなくっていいんスか?」


ポッキーを開封しながら言うモモシロ君。
そうじゃん、今は罰ゲーム中……。


「う、うん、戻んなきゃ!……えと、ありがとモモシロ君!」


「いや、いっスよー」


「じゃね!」


「へーい」


ポッキー持ってない方の手をヒラヒラさせるモモシロ君を尻目に、私は昼休みの2−8の教室を後にした。


「……あの人、ぜってぇイジられやすいタイプだよなー」


私が去った後モモシロ君は、そんなことを呟いていた(らしい)。



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