7th





罰ゲーム中!の名札をつけながらの、もはや羞恥プレイとしか思えない罰ゲーム。

今回は、二本立てだった。


「眼鏡を借りてくるぅ?」


……この罰ゲームは、いつから借り物競走になったんだろう。

そんな風に思いながら、先日行われた席替えで隣になってしまった菊丸君に、今回の罰ゲームの内容を話した。


「へー……誰の?」


「……それがね、」


「手塚?」


いつものように憂鬱な私の様子から、実に安直な推理をする菊丸君。
うーん、半分正解、半分ハズレ。


「ん、まあ……手塚君も」


「手塚……“も”?」


も。
この助詞が使われるということは当然ながら解答は1つではないということで、まあつまり……。


「……乾君だって」


「げ…………」


こういうことである。

チームメイトなのに、素晴らしく嫌そうな反応ですね菊丸君……。



………………



流石にもう慣れたが、これから死地に赴くというのに私へのエールが「ガンバ!」と「ドンマイ!」しかない。
菊丸君、もっとボキャブラリーを豊富にしようよ……そしてそこ(不二君)、笑わない。

そんなことを考えて気を紛らわせつつ、まず1組の教室へ。


「……今日は何の用だ」


私を見るなり眉間にシワをよせてそう尋ねる手塚君だが、決して私が嫌な訳ではない(らしい)。
罰ゲームの内容が、毎回いただけないそうだ。

前回の不二君とポッキーゲームの話をした時なんか、うっすら赤くなりながら怒ってたなあ……とか思いながら、罰ゲーム内容を話すと。


「ハア…………全く、やるにしても他にないのか?」


「はあ、すみません、毎度毎度……」


「い、いや、山川が気に病む必要はない」


予備の眼鏡を出してくれた上にフォローまで入れてくれた手塚君。
ああ、なんていい人なんだろう……私の身の回りにも、こんな人が1人くらいいてくれたらなあ……はあ〜。


「……山川、顔色が……」


「あー、大丈夫です、いつものことなんで……」


「……尚心配なんだが」


ありがとう手塚君、こんな私の心配をしてくれて。
一家に一台欲しいくらいだ。


……なんて軽くふざけたことを考えている間にも昼休みは容赦なく短くなっていくので、私は次なる目的地へと足を運んだ。

手塚君は、私が去るまで無言で私の背中を見つめていた(らしい)。



………………



1組を後にして私が歩いていったのは、乾君のクラスとは反対方向の、家庭科調理室である。

何故彼がそのような場所にいるのか、なんて私に訊かないでほしい。不二君が、乾君の居場所はそこだと言ったのだ。理由は寧ろ私が知りたいくらいだ。


「失礼しまーす……」


言いながらガラリと戸を開けると、中から、モワンとした異様な空気とグツグツ何かを煮込む音が廊下へ漏れだしててきた。

……ていうか……くさい。なんか青臭い。


「やあ、いらっしゃい」


「うひゃあっ!?」


誰もいないなと思っていたら、背後から突然声をかけられ心臓が止まってもおかしくないくらいにドッキリした。

振り返るとそこに、長身の男子がいた。


「驚かせて悪いね。キミは3−6の山川紅葉さんだね?」


……あ、あれー……なんか、知られている……。


「初めまして。乾貞治、テニス部の3年だ」


「あ、あー、どうも……」


この人が乾君か……でかいな。


「山川紅葉、3年6組。最近トランプを始めとした各種アナログゲームを罰ゲーム付きでやっている女子グループの中の1人。極度のゲーム音痴に加えて運も悪く、毎回罰ゲームをやらされている……その確率、実に100%」


「………………」


「罰ゲームの内容は『誰かに何かをする』といった系統のもので、ターゲットは今のところ全て男子テニス部3年レギュラー、細かくいうと不二、菊丸、手塚の3人。そして今回、新たに俺も加わったということか……ふむふむ」


後半になるとブツブツ呟くような言い方になって聞き取れない。なんなんだこの人。


「罰ゲーム内容の予想としては“眼鏡を借りてくる”が30%、“特製ドリンクを飲む”が22%、“背後から脅かす”が10%……」


なんでこんな、まるでくじの中身を見たことがあるかのような予想が出来るんだろう。なんなんだこの人。


「……しかし、今手に握っているモノを計算に含めると、“眼鏡を借りてくる”が80%を超える。つまりキミの目的は……」


「あ、ハイ、眼鏡貸して下さい……」


うーん……なんなんだこの人。


「いいよ、でも少し待っていてくれ。もうすぐアレが出来上がるからね……ふっふっふ」


「………………」


眼鏡をキランと光らせ調理室内へと入っていく彼が手にしていた野菜達は一体何に使用するんだろうか……と思っているうちに『アレ』は完成し、なんてグロい液体を作っているんだ、と若干引きたくなった。
なるほど、菊丸君が嫌そうにしていた原因はコレか。

片手鍋の中身を凝視している私を見て何を思ったか「試飲してみる?」と言ってきた彼にブンブンと首を横振りし、さっさと眼鏡を借りて青臭い調理室から出て行ったのだった。



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