なんの変哲もない、昼休み。
そんな昼休みに、俺の預かり知らぬところで事件は進行していた。



「へー、今度のは仁王んとこに?」


「話がある」と俺の元へやってきたのは、珍しいことに柳だった。
話というのは例の『返還事件』についての報告で、三度目の返還は、四限目の屋上で仁王が見つけたらしい。


「ああ。少々予想外ではあったが……しかし、これで『彼女』の正体がある程度絞られそうなんだ」


手に持っていたノートをペラリと捲りながら、そんなことを言う柳。
一体どんな予想をしていたというのか……いや、それはさておき。


「そうなのか?」


「幸村がな。二、三限目の休み時間に、花壇を見に屋上に行ったそうだ。その時にはまだ、エコバックはどこにも無かった……と証言している」


「え、……っつうことは、」


俺の台詞に頷き、不敵な笑みを浮かべながら立海のデータマンは言った。


「四限目前の休み時間に、教室を出た人物を教えてくれ」



………………
と、そういう訳で俺は、近くにいた数名のクラスメートに確認をとってみた。
……んだが、さっきの休み時間は結構な人数が出払っていたらしい。俺は俺でトイレ行ってたから気づかなかったけど……マジかよ?


「そっか……分かった、サンキューな」


答えてくれた男子生徒に礼を言い、俺は柳の方に向き直った。


「……だってよ」


「ふむ、やはりな。ご苦労だった」


やはりってことは、予想してたのかよ!……とか思っている間に、柳は3−Iを後にしていった。
隣のクラスに向かったみてえだ。


「……『彼女』の正体、か」


呟いて、軽く溜め息をついた。

……実を言うとこの盗難及び返還事件、俺には全くと言っていい程関係ない。
何故なら、俺の持ち物はひとつとして盗られてねえからだ。

被害に遭っていないことを喜ぶべきか、俺にはファンいないのかと嘆くべきかで悩みつつ、俺は自分の席に戻ろうとした。

そんな時。


「……ん?」


今俺が立っている教室の出入り口から、一人のクラスメートが微妙にフラフラした足取りで教室に入ってきた。
心なしか、顔色が悪い。

少しばかり心配になった俺は、その女子生徒の肩を掴んで言った。


「おい、涼屋……大丈夫か?」


元々俺は気遣い症であり、困っていたり、コイツのように体調が悪そうなヤツを放ってはおけないタイプだ。

常套句にて声をかけると、普段から友達同士の会話以外ではあまり言葉を発しない涼屋の口が、弱々しく開いた。


「あ……じ、ジャッカル君……う、うん……大丈夫、だよ、へいき」


「……あんまり平気そうには見えねえぞ?」


そう俺が返しても、身振り手振りを使って無理に明るく振る舞おうとする涼屋。
医務室に行くことを勧めても、「大丈夫」の一点張りだ。


「ん……ならいいけどよ。……ヒドくなったら、言えよ?」


「うん……ありがとう」


やっぱり大丈夫そうに見えない笑顔で涼屋は会釈をし、大丈夫そうに見えない足取りで、(今気づいたが)手に持っていたカードみてえなヤツを握りしめながら自分の席へと歩いていった。
……ホントに大丈夫かよ?



「おや、ジャッカル?」


まだ出入り口でぼけっと突っ立っていた俺に背後から話しかけた人物は、我らがテニス部の部長、幸村だった。

幸村は、部活中には殆ど見せない柔和な笑顔を浮かべながら、


「こんなところで何やってるんだい?」


まあ、当然の疑問を投げかけてきた。


「ああ……さっきまで、ここで柳と話してたんだ」


「ああ、例のアレについてかい?早速捜査を始めているようだね、忙しそうだ」


まるで他人事みたいに言う幸村。


「だから、なかなか言いだせないんだよなあ……。真田や柳生も、風紀委員の生徒取り締まり業務に没頭してるし」


……なんの話をしてるんだ?

はあ……とわざとっぽくも見える溜め息をついて、幸村は続ける。


「この分だと、放課後まで仕事に明け暮れていそうだよね。今日は折角部活が休みだっていうのに、勿体無いと思わないかい?」


「え、は、はあ……?」


幸村の言葉の半分も意味が分かっていないまま中途半端な返事をして、コイツがそれをどう受け取ったのかは分からないが、


「そんな訳だから、放課後ちょっと付き合ってくれないかな?」


「……は?」


考えの掴めない笑顔で、幸村は俺の肩にポンと手を置いた。

……放課後、用事があんだけど……なんて、口が裂けても言えねえな。こりゃ。



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