始まりがいつだったのかは俺の知る由ではないが、少なくとも放課後にはその事件は発生していた。
……そうだ。



「……返ってきた?」


放課後、生徒会の仕事を手早く終わらせ部活へ向かっていた俺は、珍しく遅刻で走らされていないユニフォーム姿の赤也に会った。
普段よりテンションが三割程高まっている赤也だが、どうやらそれは今彼が手にしているノートのせいらしかった。


「柳先輩の筆もあったッスよ!筆記用具系は多分全部返ってきたッス!」


意気揚々と語る赤也は、ノートをヒョイと上に投げ、キャッチした。先日角が頭に当たり「もうノート投げねー」と言ったことなど、既に忘却の彼方のようだ。


因みに、何が返ってきたのかと言えば、ここ数週間の内に消失した男子テニス部レギュラーの持ち物である。

赤也の話によれば、先程部室のドアノブに紫色の袋(エコバックの類らしい)が提げられており、中を見てみればレギュラー達が失くしたものがごっそりと入っていたとか。
部室に一番乗りだった柳生が第一発見者だそうだ。


「いや〜、一時期はマジで女子の仕業かって疑ったっすけど、無事に返ってきてホント良かったッスよー」


あっけらかんとした笑いを浮かべ能天気な発言をする赤也だが、俺は今までの持ち物消失事件が女子の仕業だと未だ疑っていた。
なにしろ目撃情報があるんだ。全てがそうでないにせよ、警戒しておくにこしたことはあるまい。
それに、


「一体、誰が返したと言うんだ、赤也?」


これが気になって仕方がない。


「えっ?……えー、えっと……親切な誰か?」


知らないようだな。


「……あ!女子の誰かじゃないっすかね?」


思いつきのように意見を述べる赤也は、こう続けた。


「ホラ、今まで盗んでたヤツが返しに来たとか!あー、なんかそんな感じがしてきたっす」


そうか。水を差すようで悪いがな、赤也。それはないと思うぞ。

仮に女子生徒が盗んだもので、本人が返したのだとしよう。
ならばその彼女は、何故返したりしたのだろう?

女子生徒が俺達の持ち物を盗む理由として考えられるのは、俺達を身近に感じたいから、というものが最有力候補だ。

謙遜するつもりはないので正直に言わせてもらうが、俺達テニス部レギュラーは女子に人気がある。
アイドルと握手し、その握手した手は二度と洗わない、という行為と心理的には似ているのだろう。
俺達の持ち物を傍に置くことで、好きな人、憧れの人を身近に感じられる。そういった心理の下、犯行に及んだのではないか。

そう考えるならば、盗んだ彼女本人が返すという線は、かなり薄れる筈だ。
……まあ、その彼女に急に罪悪感が芽生えた、若しくは以前より盗みに対する罪悪感に駆られていたというのなら、話は別だが。


「……そういえば、丸井はどうしている?」


ふと思い出したので、尋ねてみる。
丸井も勿論被害者だが、お気に入りの筆入れを(中身ごと)盗られたと、俺達の中で最も憤っていた。


「丸井先輩なら、今部室でラズベリーパイ食ってるッスよ。機嫌もすっかり良くなってるッス」


「ラズベリーパイ……?」


「エコバックの中に、一緒に入ってたんスよ。お詫びの品じゃないかって柳生先輩は言ってたっすけど。……っと、こうしちゃいられねえ!早く食わねーと俺の分なくなっちまう!」


そう言い残し、赤也は部室へとダッシュしていった。

……ふむ、ラズベリーパイ?
謎を解く鍵は、もしかするとそこにあるのかもしれないな。



next,Bunta



back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -