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俺だけを見てればいいんだよ


扉が閉まる音がした。

思考回路がほぼ停止状態の頭で兵長が部屋から出て行ったんだなってぼんやりと考えながら、ぬくもりが消え始めたシーツに丸まりながらそのまままみどろの世界へと落ちていった。







空が青い、今日は洗濯日和だ。
定期的に回ってくる洗濯当番。大きな桶に入ったいくつものシーツ。そしてそこに水と洗剤を入れて、素足で踏む。

空は青いけれど、気温は低くて素足を晒しながら水を含んだシーツを踏みつけて汚れを落とすという行為は冷たくて鳥肌が立ちそうになる。

シーツを何度もすすぎ、力の限り水分を絞りだし干す。
白いシーツが風になびく姿はやっぱり気持ちがいい。それにモヤモヤした気持ちも一緒にどこか行きそうな気がする。


『でも、体冷えて寒いなあ』

呟いた声はシーツの羽ばたく音に消えた。


暖かい飲み物でも飲みたいと思い、食堂へ向かう途中兵長が前方から歩いてくる姿を見つけて、胸がドキリとした。
目を合わせることなく、すれ違い様に

「今晩」

と言葉を放った。


それは今晩私の部屋に行くと言う合図で、私にはそれを拒否する権利なんてないし、それを嬉しくも思いながら虚しくも思えた。
暖かい飲み物を飲んだら兵長の為に掃除をしなくちゃいけないや。



夜、兵団内が寝静まり始めたころ兵長は合鍵を使って私の部屋にやってきた。

『兵長、こんばんは』

「ああ」

『紅茶のみます?』

「いや、いい」


兵長は後ろから私を抱きしめる。

そのまま兵長は私の服の裾に手を侵入させて、優しく触れてくる。もどかしい刺激がくすぐったくて声が出てしまいそうになる。


兵長はなぜ私を抱くのか。
何度考えたって私は都合のいい欲の捌け口としか答えは出なくて、ずるずるとこの関係を続ける自分が最低だなと思う。


組み敷かれ服を脱がされ、優しく触れてくる兵長に悲しくなる。
どうせだったらもっと酷く抱いてほしい。欲をぶつけるように私に出して。だけど兵長は壊れ物を扱うように優しく抱いてくれてどうしようもなく下半身と心が疼いてしまう。


情事のあとは優しく抱きしめながら時間ギリギリまで一緒に寝てくれて、それが余計に虚しくなる。


身体だけの関係ってこんなにも虚しくて辛いんだろう。
なんで兵長は私を選んだの?
どうして私は兵長のことを嫌いになれないの?

そんな考えが兵長のぬくもりに包まれながら頭の中でぐるぐるまわる。










門番をしていると見たことのある顔がやってきた。


「ナマエ?」

『え、あ、嘘、もしかしてマティス?』

「久々じゃん!元気か!」

『本当に久々だねー。一瞬わからなかったよ。すごい男らしくなったね』

「お前はちっこくなったな」

『は、マティスが大きくなっただけでしょ、ばか』

「かわらねーな、そういうとこ」

『うるさいな』


マティスは犬みたいな笑顔を向けて、私にハグしてきた。

マティスは同期だけれど憲兵団に入ってからほとんど会っていなくて、あの厳しい訓練を憎まれ口を言い合いながら耐えた親友だ。


『今日はどうしたの?』

「ああ、ちょっとエルヴィン団長に大事な届けものをな。」

『許可は?』

「予め得てるから大丈夫。それよりナマエ今日何時門番交代なんだ?久々だから飯でも行こうぜ」

『あと1時間後には交代で今日はこれで終わりだから行こっかご飯』


それから私の門番交代後、マティスと合流し街へでかけた。
久々で募る話がたくさんあり、話しても話しても話題は尽きなかった。憲兵団に行った同期の話をきいて元気にしているんだなって嬉しくなったし、だけど調査兵団にきた同期の話はできなかった。ほとんど亡くなってしまっていて片手程度しか同期はいないから。マティスはそれを知っているのか特に何も言わなかった。

「また飯行こうな」

マティスは別れ際またハグをしてきて、でかくなったけど相変わらず犬みたいだなって思った。


アルコールの入った身体はふわふわと気持ちよくて、自分の部屋に戻って直ぐ様ベッドにダイブしたかった。このいい気分のまま眠りについてしまいたい。そう思いながら自室の扉をあけた。


「遅かったな」

『え、あっ、へいちょう…!』

今日約束していたっけ?
アルコールによって鈍い頭が一生懸命今日の出来事を思い出すけれど、やっぱり約束した記憶はなかった。

ベッドに座る兵長に手招きされるから素直に近づくとそのまま腕を引っ張られてベッドに倒れこんだ。

そのまま唇を塞がれて、だけど今日のキスは乱暴でアルコールに支配されている身体ではうまく息継ぎができなくて苦しくなって兵長の肩を叩く。


俺だけを見てればいいんだよ

熱を帯びた兵長の瞳が私を見下ろしている。
その瞳にぞくぞくとしてしまい、兵長、と兵長を呼ぼうとした瞬間にまた唇を塞がれてしまった。

今日の兵長は今までないほど執拗に私の体を弄んで何度も達しても離してくれなくて涙で顔がぐちゃぐちゃになる。

もう無理と思い目を瞑り、また目を開けると兵長に抱き締められるように寝ていて、自分が意識を失っていたんだということに理解するまで時間がかかった。


「起きたのかナマエ」

『…はい』

「お前は、俺のだ」

『兵長?』

「他の男に触らすな」



抱きしめられているから兵長の顔は見えないけれど、これってつまり…。都合のいいようにしか思えなくて

『兵長、それはどういう意味ですか』

「そのままの意味だろ」


それはどっちの意味なんだろう。
分からないけれど、私はもう既に兵長のものだ。身体も、心も。

あなたしか、見えない。



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