俺が忘れさせてやるよ
灯りのない廊下を月明かりを頼りに一歩ずつ進んでいく。
月明かりは冷えて澄んだ空気のお陰なのか、廊下は思ったよりも明るい。だけど、枕を握りしめる腕に力がはいる。
可愛がっている部下たちと怖いお話をした。
私は怖い物が苦手だけれど、怖いものみたさでつい参加してしまった。
最初は時にそんなに怖くもないお話だったけれど、最後アルミンが話したお話が怖くてその話をするアルミンの表情も怖くて、自室に戻るとそれを思い出してしまってどうも寝付けない。
窓から誰かが覗いてるような気がしてしまうし、ベッドの下の隙間には何かいるんではないかとあり得もしないことが頭を過り、こんな時だけ上官に与えられた一人部屋を憎んだ。
寝間着のまんま、部屋を飛び出し、女子兵舎から男子兵舎へと向かう。
なんでか枕も持ってきてしまい、兵長に絶対馬鹿にされたような目で見られる!と思った。だけど、あり得もしない想像のが今の私には恐怖だった。
合鍵で兵長のお部屋を開けると、そこには窓際で椅子に座り読書をしている兵長の姿があって安心して、枕を放り投げながら早足で兵長に近づき、抱きついた。
『へいちょおおおお…!』
「…うるせぇ、今何時だと思ってるんだ」
『一緒に寝てください!』
「…ほう。休みの前だけしか寝ないと言っていたのはどこのどいつだ。」
『その寝るじゃなくて、兵長の温もりでこの恐怖心を忘れたいんです…っ!』
つまらない。兵長はそう言って本を閉じ、兵長に抱きついていたはずの私は兵長に抱き上げられてベッドに座らせられていた。
「ナマエお前そんな格好で歩いてきたのか」
『だって、早く兵長に会いたかったから…』
薄手のロンクスリーブのシンプルなワンピース。寝るときはあんまり沢山着込みたくないからいつもこんな格好だ。
「体冷えちまってんじゃねぇか。温かい飲み物持ってくるからまってろ」
『やだ!いや!兵長行かないで…!』
今一人にされたら、またあり得もしないことが頭をでいっぱいになり耐えきれなくなる。その思いで私の側から離れようとした兵長を引き留めた。
兵長は少し楽しそうに笑って、
「っふ、じゃあ、」
と言いながら私のワンピースの裾に手を伸ばしてきた。
『明日朝イチから訓練だから兵長それはちょっと』
「は?お前が行くなと言ったんだろ」
『だから一緒にいてほしくて』
「一緒に入れるだろ」
そこで私は気づいた。
なんで兵長の部屋に来たのか伝えていないことを。
簡単に説明すると、兵長の眉間にシワがよった。
あ、やばい。こっちのが怖いかもしれない。
『アルミンの話し方、怖かったんですもん…』
「まあ、ここにはそういう噂は昔からあるしな」
『え!?』
「知らなかったのか?」
『普通に』
「まあ、なら仕方がねぇな」
兵長の手が私に覆い被さり、身体の自由を奪われた。
左手で私の両腕を固定し、右手は私のワンピースの裾へとのびていく。
「そんなもの、」
『へいちょ…?』
「俺が忘れさせてやるよ」
ニヤリと楽しそうに表情を崩す兵長に、思わずときめいた。
恐怖心なんてどこかへ消えてしまい、何も考えれなくて気がついたら朝になっていて、翌日の訓練に遅刻したのはまた別のおはなし。
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