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壊しちまってもいいよな


ウェディングドレスを着れるだなんて思いもしなかった。

人類に心臓を捧げて早5年。幾度の壁外調査から帰還し悲しいこと辛いことを乗り越えて今がある。
訓練兵時代からの同期といつの間にか恋人という関係になり、こんなにも優しく大事にしてくれるならお付き合いしても大丈夫と思って付き合い続けて、半年前プロポーズを受け、応えた。
憲兵団に所属する恋人曰く「俺も昇進したしな」と笑っていた。

ベッドに寝転びながら指に光る指輪を天井に掲げなからみている。
結婚、結婚ってなんなんだろう。
紙切れ一枚を出し、永久を誓い、最期まで添い遂げる。恋人の名字を貰い、恋人との遺伝子を作り…そしたら家庭に入らなくてはいけないのか。
調査兵団を抜けるのは寂しい。今すぐに抜けなくてはいいと言われたけれど、なんだろう心が落ち着かない。

何回もウェディングドレス試着するのは楽しくもあり、疲れた。
恋人の母親からの時よりうける冷たい目もなんだかと思ったけれど、いずれなくなるなんて考えてはいたけど、うーん、これが俗に言うマリッジブルーなのかな。よくわからないや。




式まであと二週間だった。
恋人に呼ばれれ、指定された場所に行くと思いもよらぬ言葉を告げられた。

「やっぱり今すぐにでも調査兵団を辞めてほしい。」

『…え、でも』

「そして家に入ってほしいんだ。母さんに、うちのしきたりを学んで貰いたいし」

『それはあなたの実家に入れってことなの?』

「ああ。休みの度に帰る。だからその間は母さんと父さんと兄弟たちと過ごしてくれ。そしたら寂しくないだろう?」

笑顔で言われて、素直に頷けなかった。
きっとこれに私の拒否権など存在しない。


『…考えさせて』

「ナマエ、頼むよ」


帰り道なぜだか虚しくなって、調査兵団本部に戻るとそのまま私は兵長がいるであろう執務室に向かった。

兵長はいつも私の色恋沙汰のお話を聞いてくれた。特に何を言われるわけでもなくて本当に話を聞いてくれる。
話すと意外とどうでもよくなったり、冷静になれたりする。だから時々兵長にはお礼に紅茶の茶葉を渡していた。


『ナマエです。兵長いますか?』

ノックをすると返事はなくて、兵長は居ないみたい。帰ろうと思い自室がある方へ身体を向けようとしたら扉が開き、兵長が姿を現した。


「こんな時間にどうした」

『お話、聞いてもらえますか?』

「クソでも我慢したみてぇな顔しやがって……入れ。」

『ありがとうございます。失礼します。』


いつ来ても兵長の部屋はホコリひとつ見当たらない。
衣服から出るであろ細かいホコリすら空中に見当たらない。さすがです。

いつも通りにソファーに座る。間を少し空けて兵長もソファーに座る。


「悪いな丁度茶葉を切らして紅茶出せねぇんだ。で、どうした」

『恋人に…調査兵団辞めろって言われちゃいました』

「…ほう」

『そして、恋人の実家に入れって。そして母親からしきたりとか教われって。拒否権なんて私にはないのになんか頷けなかったんですよね。しかも休みの時しか帰ってこないって言われて、恋人の居ない空間で恋人の家族とずっと過ごすって…うーん、なっちゃって。結婚式まであと少しなのに』

「ナマエは調査兵団辞めたいのか」

『辞めたくないです。続けられるまで続けたいです。』

「お前の恋人の言い方だと…家政婦にでもなれみてぇな言い方にも聞こえるな」

『…いつ死ぬか分からないから心配してそう言ってくれてるのかな、なんて思いったんですが、一緒に住めなければ相手の家族と同居かあ…なんて。これがマリッジブルーってやつですかね、あはは』


私の乾いた笑いが部屋に響いた。


「お前はそもそもその恋人がすきなのか」

『……すき、です。』

「その間は、なんだよ」


即答できない自分に驚いた。
だけど、なんとなく気付いていた。だけど見てみぬふりをしていたのだ。



「…ナマエ、お前は」

『なんでしょう、兵長』

「こんな時間に男の部屋に来るな。仮にも結婚するんだぞお前は」

『…で、でも、んっ』

兵長にお話を聞いて貰いたくて。そう口から吐き出そうとした言葉は肺に戻ってしまった。
何が起きているのかと考えようとしたけれど、考えなくても兵長に唇を塞がれている。

酸素を求めて唇が離れると、視界いっぱいに兵長の顔が広がっていて、押し倒されているという事に気付くのに数秒かかった。


『へいちょ、え、な、えっ』

「ったく。ちったぁ俺の気持ちも考えろ」


『兵長の気持、ち…?』

「好きな女から色恋の話を聞かされるだけでつれぇのに、結婚となって、諦めようと決めたのに今になってこんな話しやがって」

『すき、え?だれ、えっ!』

「結婚なんかするな」

『でも、もう式まで時間なっ、』


二度目のキスは深く苦しくて奪われるように舌を絡め取られて、だけど嫌じゃなくて泣きそうになった。

「なあ、」

『ん、っ』

壊しちまってもいいよな

熱を帯びた瞳が真っ直ぐに私を見つめている。

壊す、それは何を差しているのだろうか。結婚なのかそれとも私自身なのか、それとも違う事なのか分からなかった。だけど、私は無意識のうちに私は頷いていた。



兵長に触れられる度に心がざわついて自分の声とは思えない声が漏れてしまう。
溢れでる涙を丁寧に指で拭ってくれたり時に唇で優しくて口づけされ、もはやこの溢れでる涙の意味なんて分からなくなっていた。









「起きたか……すまねぇ…」

閉じた瞳を開けると、ああ私は寝てしまっていたのか。
兵長が少しバツが悪そうに謝ってきた。

『…兵長』

「なんだ」

『兵長は、私のこと、すきですか』

「ハッ、お前は。ああ、こんな事しちまうぐらいにお前が好きだ」


鼻で笑った兵長は優しく触れるだけの口づけをしてくれた。


『責任、取ってくれますよね?ていうか取ってくれないと困ります』

「当たり前だろ」



これから大変であろう問題なんて考えずに、今はこの兵長の体温と想いを感じていたい。

ひとつだけ、わかったことがある。
兵長とのが幸せになれる気がする。それは、間違いないと思う。

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