あなたの笑顔さえあれば
『エルドお髭触らして?』
「ナマエさん、俺まだ死にたくないので遠慮です」
『えーでも、エルドのお髭触りたいなー』
本日リヴァイが率いる特別作戦班は特別訓練の為、調査兵団から離れた森の中にいる。
まだ怪我が完治していないナマエは訓練することは禁じられているが、食事係として同行している。本当はリヴァイが側に置いておきたいからだなんて本人は知るよしもなく。
小さな小屋で待機されられているナマエは暇で仕方がなかった。留守番と言ってもやっと日常生活が送れる程度の怪我の治り具合だから食事を作ってしまうと他にやることがない為だ。
そしてエルドは落ち着かなかった。
リヴァイによって、ナマエが何かあったときの為にと、班員を一人置いていったのだが、エルドは今暇そうにしているナマエとどうしたらいいのかわからない。
ナマエはエルドにずっと一緒にいなくて大丈夫と伝えたが、もしそれを了承し、それがリヴァイにバレたら削がれてしまうだろう。
『リヴァイたち遅いから先のお昼ご飯食べちゃおうか』
その言葉とともにナマエは昼食の用意をはじめた。
「俺、手伝いますよ!」
『ううん、大丈夫。これくらいはしないと体が、ほらね?』
ほとんど力こぶの出ない二の腕を見せ、ナマエは微笑んだ。エルドはこれを手伝うことによって削がれるのか、はたまた手伝わなくて削がれるのどちらかと悩んでいる。悩んでいる間にスープはお皿によそられ並べられていた。
『いただきます!』
「いただきます。」
普段兵団内で使っている食材と何ら代わりはない。だがエルドにはすごく美味に感じ、胸がチクりとした。ナマエの手料理を食べれる喜びと悲しさ。思わずスプーンを持つ手をとめてしまった。
『お口にあわなかった?ごめんね、エルド』
「いや、めちゃくちゃ美味いですよ!」
『ならいいんだけど…』
「あの…ナマエさんと兵長はご結婚なさるんですよね…?」
ナマエの左手には銀色の輪が光っている。
エルドは見たくもないのについ見てしまう。
『うん、やっとねー。プロポーズ何回もしたかいあったよ。』
「ナマエさんがプロポーズしたんですか!?」
『そうなの。リヴァイはほらさー』
「兵長が……なんでしょうか」
『あ、でもみんなのリヴァイ像壊れちゃうからやめておくっ』
それに、リヴァイのそういう所は私だけが知ってればいいの。ナマエはとろけそうな笑顔でエルドに言った。
エルドはナマエに憧れている。
はじめて調査兵団に入団しナマエの班に配属され、色んなことを世話になった。はじめての壁外調査後仲間をなくし失意のどん底だったエルドを救ったのもナマエだ。
ナマエは新兵であり班員であるエルドに対し当たり前のように接しただけだが。
食器をさげ、流し台で洗うナマエの背中を見つめるエルドはすっきりしない気持ちがふつふつと湧き出そうになる。
洗い終えたナマエはまた、暇だはやく帰ってこないかなあとぼやく。
『ねえエルド』
「なんでしょうかナマエさん」
『お髭のびたね。入りたてはつるつるの可愛い男の子だったのにー。もう立派な大人だね。身長もこんなおっきくなっちゃうし』
「……身長はもともと俺のが大きかったですよ」
『それは言わないのっ!』
頬笑むナマエにエルドは心がきゅんっとした。すっきりしない気持ちなんてどっか行きそうだ。このナマエの笑顔が見れらればいいのだ。この笑顔にエルドは何度も救われているのだ。
『エルドお髭触らして?』
「ナマエさん、俺まだ死にたくないので遠慮です」
『えーでも、エルドのお髭触りたいなー』
「いやいや、本当に俺兵長に殺されたくないので!」
『リヴァイなら私がどうにかするから!』
「おい、何やら楽しそうだな」
「兵長!!!」
『リヴァイおかえりなさーい!』
明らかに不機嫌そうなリヴァイの登場にエルドは終わったと思った。ナマエは気にもせずにリヴァイの側による。
『お昼ご飯できてるから立体機動装置外してきてね。みんなもね!』
ナマエはみんなのお昼ご飯の用意をはじめる。
鍋をかき混ぜ、お皿によそり、少しだけリヴァイのお皿のスープは多く。
立体機動装置を外しに行かないリヴァイにエルドは恐怖がまとわりつく。
午後はオルオと留守番を交代の予定だから訓練がさらに厳しくなる予感しかしない。
「なあ、エルド。」
「なんでございましょうか兵長!」
「ナマエはいい女だろ。そして俺のだ。」
ふっと笑うリヴァイにエルドは固まるしかなかった。
――――バレている
「午後は覚悟しておけよ。」
ナマエの鼻歌が響く。
兵長にナマエさんへ憧れを抱いているのなんてバレバレだ。敵いっこなどない。そう改めてエルドは思いしった。
エルドは覚悟をきめた。
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