いつぶりに見ただろうか
私とエルヴィンは王都に召集された。私はエルヴィンの補佐官としてついていく。
間近に迫った今度の壁外調査への疑問があるそうで、難癖つけて資金を減らしたいとかそう云った類いの話だろう、どうせ。
今はそこに向かう馬車の中だ。何が楽しくてエルヴィンと向かわなければならないんだ。
「そんなあからさまに不機嫌オーラを出さないでくれよ」
『気のせいじゃないのエルヴィン』
「リヴァイと喧嘩したからって俺に当たらないでくれ」
『誰から聞いたのそれ』
「聞かなくたってナマエとリヴァイの様子を見ていればわかる」
思わず舌打ちしそうになった。
喧嘩、そう、これは多分喧嘩なのだ。リヴァイと喧嘩なんて初めてだからどうしたらいいか分からない。
喧嘩の原因よりもリヴァイの傍にいれないのがこんなにもストレスだとは思わなかった。
3日前。いつも通りリヴァイの部屋にいた。
壁外調査も近づいてるとあってか、リヴァイとすごく身体を重ねたくなる。それはリヴァイも一緒だった。
リヴァイに好きと言われてから、身体を重ねる度に心が甘く融けていく気がした。
甘くて、このままリヴァイとひとつになってしまうんではないのかと危惧するほど。ひとつになれるならひとつになりたい。でも実際はひとつに融け合えないし、身体で繋がるだけだ。
だけど、こんなにも身体を重ねて欲だけではなく、心までも満たされるんだと。
私はリヴァイのことが本当に好きなんだなと思えた。
情事後特有の気だるさの中リヴァイの体温を感じながら、目を瞑る。
『ねえ、リヴァイ』
「どうかしたのか」
『…リヴァイ、結婚しよう』
それはいつもの悪ふざけではなく、本心の言葉であった。別にいつも100%悪ふざけで言っているわけではないんだけれど。
リヴァイ、あなたと添い遂げたい。
調査兵団に所属している以上必ずしも明るい未来が来るとは限らない。そんな未来がきて欲しいけれど、未来なんて所詮誰も分からないんだから。
『リヴァイのお嫁さんになりたいけど、リヴァイ名字名乗らないからやっぱりお婿さんにきて』
「………」
『リヴァイ?』
リヴァイは黙ったままだった。呼び掛けても返事はないし、瞑っていた目を明けるとリヴァイは辛そうな目をしていた。
『…リヴァイ?』
「それは、無理だ」
『、え』
「ナマエのことは好きだが結婚はできねえ」
『なんでなのリヴァイ』
「無理なもんは無理だ」
リヴァイの辛そうな目を見るのは久々だった。
目を合わすことすらしてくれないリヴァイに腹が立った。別に求婚を断れるのは一歩譲ってしょうがないとするよ。だけど、目すら合わせてくれないのはすごく腹が立つ。
『…なに、リヴァイはさ……結局、大切なものを失うのが怖いんでしょ』
「ハッ、そんなんじゃねえよ」
『じゃあ、こっちみて』
「見てるだろ」
『見てない』
上半身を起こすとリヴァイもめんどくさそうに起こした。だけど目を合わしてはくれない。
結局リヴァイは未だにイザベルとファーランのことが心に引っ掛かっているのだ。そりゃ誰だって大切な人があのような死に方をしてしまったら心に引っ掛かる。だからって私に重ねないで欲しい。私はあの二人ではない。今を、リヴァイと生きているのだから。
『私はリヴァイとこれからを一緒に居たいの』
「それなら今までと一緒でも変わらないだろう」
『変わる。私はリヴァイと一緒になりたい』
「無理なもんは無理だ」
『……リヴァイはさ、臆病だよ。あの二人のことを忘れられないのはしょうがない、ていうか忘れるという方が無理だと思う。でも、私はあの二人じゃないんだよ。今をリヴァイと一緒に生きている。そりゃいつ死ぬかだなんて分からない、それが壁外調査の時なのかはたまた訓練中なのかもしれない。だけど、それは私だって一緒なんだよ。リヴァイは狡い。そして本当に臆病だよ。』
「…お前に何がわかるんだよ」
『そりゃ全部は分からないよ。でも、』
「なんだよ」
『リヴァイはこれ以上大切なものが消えるのが怖いんでしょう?』
「…っ、そんなんじゃ、ねえよ」
重たい空気が流れる。
今はもうこれ以上一緒にいれないと思ったからベッドから降りて服を着る。服を着ているとリヴァイはすごく何か言いたげな顔をしていた。していたけれど、私は無視をしてリヴァイの私室からでて自分の部屋に戻った。
自分の部屋までもう少しというところで、視界が滲んでしまって思わずしゃがみこむ。
あんなことを言いたいわけじゃなかった。でももう取り返しはつかない。
馬車の中から外をボーッと眺めながらそれが3日前の出来事を思い出すと、泣きたくなった。
リヴァイ、今すぐリヴァイに会いたい。会いたいけれど気まずくてあれからリヴァイを避けてしまっている。リヴァイも私を避けている。どうしようもないね。
「エルヴィン、俺は臆病か」
「どうしたリヴァイ、珍しいな」
リヴァイが部屋にやってきた。何もなしにやってくるなんて珍しいと思ったが、大体はわかっている。ナマエのことだろう。
一昨日の馬車の中のナマエは相当不機嫌だった。それに比べてリヴァイは辛そうな顔をしている。こんな顔をしたリヴァイはいつぶりに見ただろうか。
「ナマエに結婚しようと言われた」
「めでたいじゃないか」
「めでたくなんかねえよ」
「リヴァイだってナマエのことが好きなんだから結婚すればいいだろ」
リヴァイは黙りこんだまま、いっこうに減らない紅茶を見つめている。
本当に珍しいな。こうやってプライベートな事を話してくるなんて滅多にない。うまく誘導すれば聞けるが自ら話す、だなんて。
「邪魔したな」
「ああ。……そうだ、リヴァイ」
「はやくナマエと仲直りしてくれないか。ナマエを見ていられないんだよ」
「そうか」
「もしくは、リヴァイにその気がないなら、ナマエに来ている縁談を進めるぞ」
リヴァイは何も言わずに部屋から出て行った。やたら扉のしまる音がでかかった。
別にナマエに縁談なんて来ていない。それにあまりにも不機嫌過ぎてこっちにまで当たられそうになってすごくめんどくさくてナマエを見ていられないだけだ。
「まったく…」
思わずため息が出た。
次の壁外調査まで一週間を切った。はやく仲直りしてもらいたいもんだ。
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