指先に思いを込めた
『リヴァ…どこ、いくの』
「エルヴィンのところだ。お前は少し寝ていろ」
ナマエは元気なく頷いた。
今朝、俺の元にモブリットが慌ててやってきた。俺はテメェの上官じゃねぇぞ。と悪態をつきそうになったがグッとこらえた。
何の用だと聞くと、息を切れ切れにモブリットは「ナマエさんが、高熱をだして…!ハンジ分隊長がリヴァイ兵長に伝えろとの…!ことなので…!」と答えた。
なぜそれを俺に伝えるんだ…と思ったが、それを聞いたらナマエの部屋に行かざるえない。
自分が思っている以上の早さで歩くと、ナマエの部屋で狼狽えるクソメガネ…ハンジがいた。
「リヴァイ!やっときた!」
「チッ………ちったぁ落ち着けこのクソメガネ」
「落ち着けるわけがないじゃないか!」
一人で狼狽えているクソメガネを無視して、ナマエの様子を見ると明らかに体調がよくない顔をしていて、身体がすごく熱かった。
おまけに人の名前を呼ぶもんだから、思わず横抱きにして自室に運んだ。
途中何人かの兵士にすれ違ったが、あからさまにびっくりした顔をされて思わず舌打ちをした。
自分のベッドに寝かせ、額に貼り付いた前髪を手でよかす。
『リヴァイ…あ、れ…』
「ここは俺の部屋だ」
『……あり、がと…』
高熱のせいでナマエの瞳は焦点があわずとろんとしていて、まるで情事中を思わせる顔で思わず触れたくなった。だけどナマエは高熱に犯されているんだ、と理性が勝利した。
勝利したが、なんとなく一人で気まずくなって部屋を出ようとしたらそれにナマエが気付いた。
『リヴァ…どこ、いくの』
「エルヴィンのところだ。お前は少し寝ていろ」
ガチャリ、と扉をしめた。
とっさにエルヴィンのところに行くと言ったもののどうすべきか。
…とりあえずエルヴィンにナマエの事を伝えに行くかと足を進める。
もう少しでエルヴィンの野郎の団長室で、その方向からペトラが現れた。
「兵長おはようございます!」
「ああ、」
敬礼のポーズを取るペトラによせと言うとペトラはすみませんと、謝った。
「今日の訓練は延期との事ですがどうかしたのでしょうか」
延期?
俺は今初めて聞いたんだが。だが大方ハンジがエルヴィンの野郎にナマエが高熱をだしたとでも伝えたのだろう。
アイツらはナマエに甘いからな。そして俺の班の訓練はが延期という事は俺がナマエの面倒をみろとのことか、めんどくせぇ。
「兵長…どうかなさいました?」
「いや、なんでもねぇ」
「兵長、あの…その…」
「なんだ」
ペトラが一人で言葉を詰まらせていて煩わしかった。そんなことよりも、エルヴィンの野郎に報告しに行きナマエがいる自室に戻りたかった。
「し、失礼を承知でお聞きいたします、が………あの、兵長と、ナマエさんはどういったご関係なのでしょうか…」
思わず舌打ちをしそうになった。
どうしてこうも女はそう言うことを気にするのか。
ただよく俺の傍にナマエがいるだけで、それだけじゃねぇか。
やることはやっているが、付き合っているわけでもないし。だが、ただの情事の相手ってわけでもない。
ナマエは俺の事を好きだといい、ナマエの名字を名乗れという。それをどんな関係だとか聞かれても答えようがない。
「……どうだっていいだろ。」
あたかもお前には関係のないことだと伝えるように返事をするとペトラは泣きそうな顔をしていた。
「あっれー!ペトラ!ペトラじゃないか!」
「ハンジさんおはようございます」
「いいよいいよ敬礼なんてー」
何とも言い難い雰囲気をぶち壊すように現れたハンジはやはりクソメガネだな。
「リヴァイこれ、解熱剤。貰ってきたから、ナマエに飲ませて」
「ああ、悪い」
クソメガネにしては気が効くじゃねえか。
「…ナマエさん、どうかしたんですか?」
「ちょっと熱を出しちゃってね。まあ、解熱剤飲めば落ち着くと思うけど。だからって今日の訓練なくなっちゃうからリヴァイまじ過保護ー!」
「おい、クソメガネ」
「どうかしたリヴァイ?」
クソメガネはキョトンとしていた。
それに対してペトラはなぜ今日の訓練がなくなったのか気付いたのか、失礼します。といい足早に去っていった。
だが、訓練を無くしたのは俺じゃないし、面倒を見るだなんて一言も言ってねえ。
「じゃあリヴァイがんばってねー」
「ああ」
クソメガネは手をひらひらさせながら去っていった。
エルヴィンには伝わっているようだから、解熱剤を握りしめて自室に戻った。
戻るとそこには少し魘されながら寝ているナマエがいて、頭を撫でる。
…実際、俺じゃないやつがコイツの面倒を見るだなんて考えたら胸糞悪かった。俺の部屋に運んだ時点で俺が面倒を見るに決まっている。
モブリットがナマエが高熱をだした事を伝えにこなかったらもっと胸糞悪い。
いつもナマエが傍にいる。
ナマエが傍にいるのが当たり前だ。
ナマエの髪を指先で鋤きながら、はやく元気になれ、と、指先に想いを込めた。
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