手のひらの上で
兵長の補佐になり一ヶ月が経過した。
慣れとは恐ろしいもので兵長とともに行動するということに慣れしまった。兵長が一人で動くときは私は兵長の執務室で鍵を閉めて待機が当たり前になり最初は好きに動けなくて窮屈だと思っていたけれど慣れればどうってことはなかった。
あれからいやがらせなどは起きてない。
班も兵長への班へと移動し、リヴァイ班の皆さんともなかなか打ち解けれなかったけど最近はそれなり受け入れて貰えるようになっていると思う。それは兵長も。イメージとは違い兵長は部下思いで口は悪いけれど優しいから正直びっくりした。…ただ兵長は不器用なんだろうなあと。
『壁外へ出れない私が訓練して何の意味があるのでしょうか』
「お前は馬鹿か?」
『馬鹿なのは私の父です』
「ハッ、それはそうだが壁外に出ないから訓練をしねぇ?お前はもし出れるとなった時どうするんだ?訓練してない身体で壁外へと出るのか?それと訓練するなら上を目指せ。一番強くなれ。そしたらいつか戯言は言われなくなる。わかったか?」
『……はい』
「なんだその不満げな顔は」
『そういうわけでは』
……兵長との訓練が厳しすぎるだけとは言えなかった。ていうか言えるわけもない。
「次の壁外調査が終わる頃には落ち着くだろ」
『だといいんですが。迷惑をいつまでもかけるの申し訳ないですし』
「俺がいつ迷惑だと言った?」
『言ってないです、けど……』
「けどなんだ」
『兵長だって一人の時間欲しいだろうなって思いまして…』
「それについては気にするな」
『でも』
「俺が気にするなと言ってるのだから気にするな。これは命令だ、わかったか?」
『……はい』
命令と言われてしまえばそれ以上は何も言えなくなってしまった。
開けた窓から執務室へと注ぐ風が兵長のクラバットを少し揺らす。今日はいつもより風が強い。太陽は雲の隙間から顔を除覗かせていて、心地よい光が入る。こんな日お昼寝をしたくなる。だけど机の上にある少ないとは言えない量の書類と戦わなければいけないのだ。
書類の中に一枚の手紙が紛れこんでいる事に気づく。そしてこの紋章は……ベルク家の紋章である。宛先は兵長である。
『あの兵長…これ』
「手紙か?」
『ベルク家、からです』
兵長は手紙を受けとると机の引き出しからペーパーナイフをとり出して手紙を開封する。そして読み始めると眉間にシワがよる。
「……ナマエお前にも手紙きてるはずだ」
『え!きてないです!』
「あとでちゃんと探せ」
『ちなみに内容は…聞いて…大丈夫ですか』
「ナマエの御披露目パーティーをするから俺も一緒に出席しろと。で、お前をエスコートしろだと」
『……え?』
初耳だよお父様。
そもそも御披露目パーティーって何するんです?私出るってことですよね?何を御披露目するんです?いや、私をなんだろうけど……普通にパーティーなんて出たくない。
「リヴァイ、私だ」
ノックが2回聞こえたと思ったら団長の声が聞こえた。
扉をあけるとやはり団長で一枚の手紙を手にしていた。
「ああ、リヴァイ手紙を読んだのか。ナマエ悪かった。君の分の手紙は私の書類に紛れ込んでいた」
『あ、ありがとうございます。あの……団長は』
「ああ、私も君の御披露目パーティーに呼ばれたよ。君の父上から更に交流を広げてくれと。」
『御披露目パーティーってなんですか』
「勿論君のだ。行方不明だった君を見せびらかしたいのだろう」
行方不明だったと言っても両親たちは私の居場所を知っていたのに。
「リヴァイもちろん参加だからな」
「……ああわかってる」
「ならよかった。」
『あの、私逃げていいですか。人前とか出たくないです』
「メインの君が逃げ出してら私がどうなるか分かるだろナマエ」
『……はい』
団長は有無を言わせない笑顔を私に向ける。
分かってはいるのだ私に拒否権などないことは。結局私はずっと父の手のひらの上で転がされているのだから。
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