翳された手の行方
エルヴィンにナマエ・ミョウジについて目を離すなとは言われたが、壇上からエルヴィン降りるやいなや早速他の兵士に攻められるように囲まれるナマエが不憫だと思った。
エルヴィンがそんな風に言わなきゃ良かったんじゃねえかって話だが……。エルヴィンの目線がナマエを助けに行けと言っている。
思わず舌打ちしてしまいそうになったが、ナマエの元へと行き腕を掴かむ。
「おい、お前ら。文句があるならエルヴィンに言えと言われただろ?」
「リヴァイ兵長……!」
「おら、ナマエ行くぞ。」
『あ、兵長……っ、』
他の兵士が一瞬怯んだ隙に人気の少ないところまで連れ出す。
クソッ、めんどくせぇ
ナマエを見ると眉をしかめていて、なんだそのツラはと思ったが俺が掴んでいる手に力が入っていることに気付く。
「……ナマエわりぃ。」
『え、』
「腕だ。痛かっただろ」
『……あ、大丈夫です。』
謝られたことになのか、一瞬驚いたような顔をしたナマエに俺の補佐がいいのかエルヴィンの補佐がいいのかと聞く。エルヴィンは先ほどああ言ったが 昨夜のうちにナマエは俺の補佐にすると言っていたから、俺の補佐を選べと言わんばかりの言い方をするとナマエは俺の補佐になると言った。
執務室のカギを渡し、カギを閉める事を伝え俺はエルヴィンの元へ向かった。
「おや、リヴァイ。扉は丁寧に開けるもんだよ」
乱暴に扉を開けるとエルヴィンはまるで子供をあやすかのように言ってくるから舌打ちをする。
「そう怖い顔をするな」
「あ?俺はもとからこんな顔だ」
「それもそうだったな。で、ナマエはどうなった」
「俺の執務室に向かわせた」
「そうか。で、お前の補佐にするの伝えたのか?」
「ああ。」
「そうか。それと班もリヴァイ班に移動だ。ああ言ったからにはナマエに危害を加える者が現れるだろうから、リヴァイお前が当分守ってやれ。できる限りは共に行動しろ。わかったか?」
「……了解だ。」
「それと、ナマエの部屋も移動だ。今は同期と同室だがこれからそうもいかない。ナマエの“安全”を守るのが約束だから、な。」
「わかっている」
「では、今からナマエと部屋の移動してくれ。部屋はそうだな……二階の一番奥の部屋が開いていたはずだ。そこへ移動だ。」
エルヴィンと別れ、執務室に戻る。
あの野郎結局は俺に押し付けるつもりか…
扉をノックすると慌てたようにカギがまわる音がして、扉の隙間からナマエが覗く。
『あの、兵長……』
「ちゃんとカギかけてたんだな。」
『はい。』
「まあ、座れ」
座れ、ソファーに視線を向けるとナマエは戸惑いながら向かい側のソファー座った。
「ナマエ、お前は俺の補佐になることが決まった。それに伴い班も俺の班に移動だ。兵士長補佐、それがお前の役職になる。あと部屋も上官用の部屋に移動だ。」
『……え、』
「分かったか?」
『わ、分かりました……』
「当分は俺の側にいろ。落ち着くまでは共に行動する。これはエルヴィンからの命令だ。」
『兵長…なんか、申し訳ないです……』
「別にお前が謝る事じゃねぇよ。文句言うならてめぇの親父に言え。」
『それも、そうですよね』
「さ、今からてめぇの部屋の引っ越しするぞ」
『……兵長も、ですか?』
「言っただろ。当分は共に行動すると」
『そうでしたね。』
ナマエとともに兵舎へと向かう。
一階は基本的に大部屋になっていて、二階が上官用の部屋になっている。
一番奥の部屋はしばらく使われていなかったはずだ……そうなると念入りに掃除しなくちゃならねぇ。
「ここがお前の部屋だ。」
『……埃っぽいですね』
「早急に取りかかるぞ」
『え?』
「掃除に決まってんだろ。お前の頭は空っぽか?」
ナマエは俺の小言にも文句ひとつ言わずに掃除をした。掃除の手際も悪くはない。
『これくらいでどうでしょうか?』
「悪くない。」
『では、終わりでいいですか?』
「てめぇが満足なら構わないぞ」
『私は充分すぎるほどだと思います……』
「なら、次は荷物の移動だ。お前の部屋に行くぞ」
『了解です』
一階に降り、ナマエの部屋に向かうと同室のやつがいた。
「へ、兵長……!どうなさったんですか!?」
「…ナマエの部屋の移動の手伝いだ。」
「え、ナマエ部屋移動するの?」
『団長の命令なんだ』
同室のやつと目を合わせずに話すナマエ
「ナマエと部屋離れるの寂しいな……。ねぇ、ナマエ……ナマエって本当にベルク家の娘なの?何か隠し事してるんだろうなあとは思ってたけど、まさかベルク家の娘だとは……」
『……ごめんね、』
「別にいいけど。ナマエはナマエだし。じゃあ私これから訓練だから、またね」
ナマエが何か言いたそうな顔をしている。
「荷物をまとめろ。なるべく早くだ」
『了解です。』
ナマエが荷物をまとめているのを壁に寄りかかりながら見ているとナマエが手を止めた。
「どうした」
『いや、あの……』
「なんだ早く言え」
『その、大変申し訳ないのですが数分で構わないので反対側を向いて頂けないでしょうか…』
「理由を言え」
『……あの、その、さすがに下着類を見られるのは、恥ずかしいです……』
「別に俺は気にしない」
『兵長が気にしなくても私が気にするんです……!』
「チッ、はやくしろ」
たかが下着でなんだって言うんだ。
『兵長終わりました…』
「それだけ、か?」
『はい。いつでも出ていけるように最低限のものしか持ってないので。』
「そうか。」
じゃあ、戻るぞと言おうとした瞬間扉がノックされる。
「兵長すみません、団長がお呼びです。すぐ来るようにとのことです」
「わかった。すぐ行く。……ナマエ一人で大丈夫か?」
『大丈夫です。部屋着いたらカギをしめるので。』
「悪いな、すぐ戻る」
エルヴィンがナマエを一人にするなと言ったのにお前が俺を呼ぶとはどういう事だ。
急ぎ足でエルヴィンの元へ行くと、エルヴィンが頓狂な顔をする。
「どうしたリヴァイ?」
「用とはなんだ」
「いや、私は呼んでいないが…」
「チッ、もしかして」
急いでナマエの元へと戻ると案の定だった。
「なんであなたなんかが兵長の補佐になるのよ!」
『なんでと言われましても……』
「貴族だかなんだか知らないけれど!だからって兵長の補佐になる必要なんてないじゃない!」
二階へ行くと誰も居なく、一階かと思い走るとそんな声が聞こえてきた。
ナマエに詰め寄る二人組は、今にもナマエに危害を加えそうなほど興奮している。
「あんたなんか!居なければ!」
空中にかざされた手がナマエに向かって降り下ろされそうとした瞬間にその間に入り込む。
ナマエを叩こうとしたその手は俺を叩くという結果になり、その手の持ち主は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「てめぇは何してるのか分かってるのか?」
「へ、へっ、兵長……!?」
「てめぇは今朝エルヴィンになんて言われたんだ」
「だ、だって…」
「だってもクソもねぇだろうが!」
「で、でも私だって兵長の補佐になりたかったのに……なんで!貴族の娘だからってなんで兵長の補佐になるのですか……!」
「エルヴィンが決めた事だ。それに文句があるならエルヴィンに言え。それにお前が補佐になりてぇってのは邪な気持ちがあるからだろ?お前の気持ちには答えられないと前も言っただろう。これ以上ナマエに何かするなら俺はお前が女だろうと容赦しない。消えろ」
消えろ、そう言うと二人組は走って去って行った。
『兵長……ごめんなさい……』
「いや、俺も悪かった。怪我はねぇか?」
『私は大丈夫ですけど、兵長が…』
「俺は大丈夫だ。あんくらい痛くも痒くもねぇよ。」
ナマエは今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。
「……わりぃと思うなら、ちゃんと補佐としてやってくれればいい。ほら、荷物の片付けするぞ」
『……はい』
ナマエの頭をぽんっと叩くとナマエはぐっと涙を堪えて片付けの続きをはじめた。
prev / mokuji / next