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空に吸い込まれるため息


エルヴィン団長に呼び出されてしまった。
私は何か粗相をしてしまったのだろうか、ここの所の自分の行動を思い出す。だけどどれたけ思い出しても団長に呼び出される程の事はしていない。

足取りが重たい。私はなぜ呼び出されたのか。
もしかして…いや、さすがに違うだろう。わたしの思い過ごしであってほしい。

団長室の扉をノックする。

『ナマエです。』

扉の向こうからエルヴィン団長から返事がきたので『失礼します』と言いながら扉をガチャリと開ける。
開けるとエルヴィン団長と目があう。軽く会釈をし扉を閉めると壁に寄りかかるようにもたれかかっているリヴァイ兵長に気付く、なぜ兵長までいるのか。


『どう言ったご用件でしょうか』

「いや悪かったね、いきなり呼び出して。…ナマエ、単刀直入に聞こうか。ナマエ・ミョウジ、君は何者だい。」

エルヴィン団長がニッコリと問いかける。

『…何者と言われましても……』

「…ここで嘘をつくのなら、それなりの処罰を与えるつもりだ」

先ほどまでニッコリと笑顔を見せていたエルヴィン団長が先ほど真逆の真顔で言ってくる。だけど私はなぜ答えるか悩んだ。だって、


『…質問の意味が』

「はぐらかすつもりか」

『質問の意味がわかりませんので、』

「では、ナマエ、これは?」

『…あ…っ、』

「知っているようだね。さあ、答えなさい」

エルヴィン団長は一枚の封筒を私に見せる。
その封筒に押された紋章を私はよく知っているもので思わず反応し動揺てしまう。その動揺はエルヴィン団長にはバレていて、そもそもエルヴィン団長は既にこの質問の答えを知っているようだ。ならば素直に答えるしか私に道はない。


『…それはベルク家の紋章です』

「昨日、ベルク家の従者がやってきて手紙を二枚届けてくれてね。一枚は私、もう一枚はナマエ、君にだよ。これからの調査兵団にとってとても重要な事の内容で確かめなくてはいけなくてね。ナマエ、君はナマエ・ミョウジではなくナマエ・ベルク…なんだろう。あのベルク家の娘なんだろ?」


ああやはり。ついにバレてしまった。
いつまで隠しとおせるか分からなかったが思ったよりバレはしなかった…と思う。死ぬまでバレたくはなかったんだけども。


『……そうです、私はベルク家の子供です。』


エルヴィン団長がため息をついた。
そのため息はすぐに空中へも消えていく。


「なぜその事を言わなかった」

『…私はあの家を捨てたのです』

「でも君が捨てたという家から手紙が届いた」

『…それは……なぜなのかわかりません』

「ベルク家と言ったら有名な貴族じゃないか…」


…久々に聴いたベルクという名。
それは私の生まれ育った家だ。訓練兵になる13歳まで私はそこで悠々と暮らしていた。

伯爵である父は莫大な領地を持ち、優しさの塊のような人で領地に住む人たちからも信頼を得て、富を得ている。
兄と姉と弟は……と、あと数人の義兄弟がいる。それは領地内にて虐待や身寄りを亡くした者たちで伯爵の継承権はないもののベルクという姓を父により与えられる。ベルクという姓のお陰でその義兄弟たちは差別などされずに暮らせていると聞いた。

…ああそうか。もう家を捨てもう5年程経ったのか。

父を、母を、兄弟を愛している。
だけど、私があの家を捨てたのは――――



「ナマエ、聞いてんのか」

『え、あ、申し訳ありません…』

それまで沈黙していた兵長が口をひらいた。

「てめぇが貴族だろうがどうでもいいが、とりあえず落し前だけつけてこい」

落し前…?とエルヴィン団長を見るとエルヴィン団長は

「君のご両親が君に会いたいそうだ、日時は指定されてある。ナマエ、ないとは思うがこれを拒否するとなるとそれなりの……まあ君が拒否をしなければいいだけだ。部屋に戻るといい。あと、この手紙がナマエのだ。」

『…わかりました、では失礼します』


敬礼のポーズを忘れてしまうほどの衝撃が私に走る。
両親が私に会いたいと。…どうせ私に拒否権など存在しないのだから従うしかたない。

団長室を出て息を大きく吸って、吐いた。
両親からの手紙を読むために足早に自室に戻る。

同室の同期はちょうどいなく好都合だ。
封を開け、二つに折られた便箋を開き、読み始める。内容は母からで、訓練兵時代から居場所がバレていた事。そして、父が、病気を患い先が長くないという事だった。こんな手紙を貰ったら尚更両親に会わなくちゃいけなくなるじゃないか。


ため息がでる。
訓練兵時代からバレていただなんて。



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