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なぞったその名前にさえ


あれから数日が経って、カランカランッとベルが鳴る度に期待してしまう。リヴァイさんが来店するんじゃないかって。
頭の片隅で時々来てくれる気になるお客さんだったのに、いつの間に片隅どころかほとんどを占めるようになってしまった。

カランカランッ。また入り口のベルが鳴る。
反射条件のようにいらっしゃいませと言う。

入ってきた人を見るとリヴァイさんと同じ格好をしていて、背中の各兵団の象徴は見えなかった。
キョロキョロとお店の中を見渡すと私の方に近づいてきた。

『どうかなさいましたか?』

「あの、もしかしてあなたがナマエさんでしょうか?」

『そうです、私です。』

「よかった。…あ、失礼しました、私調査兵団に所属しているペトラ・ラルと申します。それと先日のパウンドケーキとても美味しかったです。」

ふわりと笑うペトラさんという女の人はパウンドケーキを美味しかったと言ってくれた。
…リヴァイさんはこの人にあげる為にパウンドケーキを作るのを頼んだのかな。そう思うとズキッと心が痛んだ。

「これ、リヴァイ兵長から預りものです」

差し出された1枚の封筒。それを受けとる。

「すみません、本当ならお茶でもしていきたかったのですが時間がないので後日またきますね!」

ペトラさんはまた笑った。
踵を返した瞬間リヴァイさんと同じ羽の紋章が入ったマントが揺れた。
ペトラさんは可愛らしい女の人で、こんな可愛らしい人も調査兵団にいるんだ。…もしかしてリヴァイさんの彼女さんなのかな。


受け取った封筒を開けると中に1枚の便箋があり、

“明後日木曜日、この間の埋め合わせをする。
18時頃迎えにいく。”

と書かれていた。
私の予定があったらどうするのか。そう思ったけれど今の私ならリヴァイさんからのお礼を優先するに決まってる。ちょうどお店もおやすみの日だ。

“リヴァイ”と書かれた文字を指でなぞる。嬉しくてにやけてしまった。











「エルヴィンおすすめの店あるか?」

「…それは食事をする店と言う意味でいいのかリヴァイ」

「ああ」

「お前にもそんな女がいたんだな」

「…別にそんなじゃねえよ」

「ふっ、そうか。じゃあ取っておきのお店予約しておくよ」

「…たすかる」

エルヴィンにおすすめの店を聞くのは癪だが、コイツのがそういった接待でよく使うからエルヴィンに聞くのが確かだ。

執務室に戻ると、ペトラたちがパウンドケーキを食べていた。
年忘れのくじ引きで俺の用意したパウンドケーキはペトラに当たり、ペトラが目を輝かせて喜んでいた。一人で食べたいけれど、折角だからとエルドやグンタ、オルオと食べている。
俺にもどうぞと言ってきたが、俺には別のパウンドケーキがあるからお前らが食えと言った。

ペトラたちがいなくなったあと、一人で紅茶を淹れる。紅茶の横にはナマエがくれた木の実入りのパウンドケーキ。
口にするとしっとりとした中に木の実のアクセントがありこれはこれで旨かった。





翌日エルヴィンに木曜日に店の予約ができたぞと伝えられた。…仕事がはやい。それに午後は非番にもしてあると。
ただ木曜日までにナマエの店に行ける暇がなくどうやって伝えたらいいか悩んだ。悩んでる瞬間、ペトラが執務室にやってきた。
私用で部下を使うのはどうかと思ったが木曜日はすぐ目の前だから頼むとペトラはお任せくださいと敬礼する。

気の効いたことも書けない短い手紙をペトラに渡すと馬に乗ってペトラは出発した。

しばらく書類と戦っているとペトラが早足で執務室に入ってきた。ノックに対して返事をする前にはいってきた事は多目にみよう。


「兵長!なんですかあの可憐な人は!」

「ペトラ、落ち着け」

「びっくりしちゃいましたよ!」

「…俺があの店に通っていることは他言するなよ」

「………わかりました!」

ペトラは一瞬驚いて、そのあと何かを思ったのか何回もうなずいた。



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