味わっていたい香り
こんなにも心が揺れたことはあるだろうか。
きっと、ないだろうな。
「兵長」
『どうかしたか』
自分で言っておきながら素っ気ない返事だとは思う。だが、自分を落ち着かせているとこのような返事しかできなくなってしまう。
それでもコイツはいつも嫌な顔一つせずニコニコ話しかけてくる。
いつからか、このニコニコ笑う顔をずっと見ていたいと思うようになったのは。
こんな風に人に好意を抱くとは思わなかった。
週に一度程度だが、コイツとこうやって紅茶を飲む時間がスゴく気にいっている。落ち着く。そしてこの時間が続けばいいとまで思ってしまう。
だが、どうやってコイツに俺の想いを伝えたらいいか解らない。
伝えていいものなのか。伝えたらこの時間が終わってしまうのではないのか、柄になくそんなことを考えちまう自分がいて笑えてくる。
『美味しいですね、紅茶』
「ああ」
もう少し、もう少しだけこの時間を味わっていたい。