ナマエの口から白い煙りを吐き出すと、甘い匂いが匂いが煙りと共に部屋に充満する。
「それ、やめろ。」
ベッドの上で横になるリヴァイは眉間にシワを寄せ、いい気分が台無しだとわざとらしくため息をつく。
『これ、貴族の間で流行っているそうですよ。先日いただいて勿体ないので』
「その甘い匂いに気分が悪くなりそうだ、やめろ。」
『やです。兵長は私の恋人じゃないんですからイチイチそういう事言わないでください。』
窓際の椅子に座りながらぼんやりと半分に割られた月を眺めていたナマエはリヴァイに向かってわざとらしく言い返す。
シャツを羽織っているだけの格好が月の光に照らされる。わざとらしく動いた唇の間から少しだけ見える舌にリヴァイは目がいく。
さっきでその唇から散々、いやだいやだとよがっていたのはどこのどいつだと言い返したくなったがリヴァイは口を結んだ。
『兵長、もう一回、しよ』
わざとらしく首を傾げゆったりとした言い回しで、リヴァイの足の間に体を落とし、髪の毛を耳にかける。
リヴァイは上半身を起こし何も言わずにナマエが自身に触れるのを見ている。
緩やかに与えられる刺激にもどかしくなるが、もっとだなんて言ったとこでナマエがしないのをリヴァイはよく知っていた。言った分だけ焦らされて更にもどかしくなるのは自分だから。
昼間は従順な部下なのに、夜は従順なんて言葉を一切ナマエは知らない。酒の勢いとは良くない物で想いを告げるよりも先に体を重ねてしまい、時間が経てば経つほどリヴァイはナマエに想いを伝えれなくなっていった。
そしていつの間にかナマエは分隊副長にまでなっていった。それは勿論亡くなる命が多いが為に立場が上になったのが早かったというのもある。だが、戦いのセンス、状況判断、討伐数どれをみても納得できるものだ。
リヴァイは一度ナマエに言った。分隊副長にまでなったんだからそろそろ兵長と呼ぶのはやめたらどうだと。遠回しに名前で、リヴァイと呼ばれたかったからだ。だが、ナマエはそんな想いを汲み取るはずもなく、今さら兵長から呼び方は変えれないですよと微笑んだ。ムッとしたが、それに兵長って呼びたいんですと更に微笑むナマエに何も言えなかった。
大きくなったソレにナマエは腰をゆっくりと落とし、胎内へと沈めゆく。
眉間にシワを寄せて快楽を我慢しているナマエの表情が堪らなくリヴァイは好きで細い腰を掴もうとする。
『やっ』
嫌という一言でリヴァイの手はたゆんだシーツを握る。
主導権を握られるだなんて屈辱にも等しいがそれを許してしまうのが惚れた弱味なのかとリヴァイは心の中で笑った。
『兵長、すき』
「…そりゃどうも」
それからナマエの胎内に熱を吐き出すと、ナマエは嬉しそうに微笑んでリヴァイの唇を奪うようにキスをした。
「お前は、俺以外にもこんなことするのか」
『…兵長は?』
「何人も相手にできるか。お前だけで充分だ」
『んふふ。よかった。兵長、おやすみなさい』
いつも答えははぐらかされる。なぜはぐらかすのかなんてリヴァイにはわからなかった。
『あ、ハンジさん』
「ねえ、ナマエ。エルヴィンから聞いたんだけどさ、結婚するって本当?」
『本当ですよ』
微笑みながら、シャツで隠れているチェーンに吊るされた指輪を見せる。
小ぶりだが輝かしい石が付いていてハンジは釘付けになる。
「…リヴァイ、じゃないんだよね」
『そうですね生憎兵長と結婚したいのですが、このご時世そういう訳にもいかないみたいです。……そもそも兵長は私なんてただの夜の相手ですしね』
「ナマエ…」
『調査兵団の為になるなら本望です。心臓を捧げていますしね!』
明るくいうナマエにハンジは何て返したらいいか分からなかった。
ナマエとリヴァイが身体の関係を持っていてナマエがリヴァイを好きなのを知っていた。何よりリヴァイがナマエを好きなのも知っている。
何度かお互いの気持ちを確認させようと頑張りはしたもののその結果がこれだ。ずれた歯車はもう元には戻れなくなっている。そもそも元から始まっているのは身体の身体のみなのだが。
『結婚しても調査兵団を続けれますし、問題ないです。夫となる人は壁内よりも心がひろいみたいですし』
ハンジの悲しそうな顔を見てもナマエは何も取り乱すことなどしなかった。悲しい気持ちだなんてもうどっかに捨て、せめての夜だけはと、我が儘にリヴァイを貪っているのだ。
その夜、扉を叩く音がする。こんな時間に誰なのと、あくびをしながら扉を開けるとそこにはリヴァイが立っていた。
「どういうことだ」
『え、兵長?なっ、いたっ!』
明らかに怒っているリヴァイに腕を捕まれる。ギリギリと腕を捕まれ痛みに顔を歪めるが離してはくれない。そのままベッドの上に投げるように組み敷かれ突然の事にナマエは困惑している。
『兵長…?』
「聞いてないぞ」
『兵長?』
「俺は聞いてない。お前が結婚することを…!」
こんなにも怒りを瞳に露にしているリヴァイに、ナマエは泣きたくなった。
「お前は、お前は、お前は…なんで、泣く、んだ」
『だって、兵長っが、おこっ、て…っ』
「散々こんなに抱かせておいて他の男と結婚するからだろ。俺の気持ちはどうするつもりだ」
唇を重ねると、リヴァイの怒りが伝わってきて更に泣きそうになる。されるがままに身体に触れられて口づけをされて、乱暴なのに優しくて更に涙がとまらなくなる。
だがそのうち激しく突かれ、快楽の涙なのか感情の涙なのかナマエはわからなくなる。
胎内に熱が吐き出されたころ、リヴァイはナマエの抱きしめるように背中を撫で一言申し訳なさそうに謝る
「…わりぃ」
ナマエはなぜこんなにもリヴァイが怒っているのか考えていると、ひとつ浮かんだ。それはとっくの昔にないと分からされたことを。
『兵長は、』
「…なんだ」
『私のこと、好きなんですか』
「お前はどうなんだよ」
『わ、私は…好きでもない人に抱かれません…っ』
「俺だって好きでもねぇ女抱くわけねぇだろ、この馬鹿」
通じるはずのない想いが通じていた、と、ナマエは心の中で泣きたくなった。
だって、通じたところでナマエは結婚をするのだ。調査兵団の為に。
『兵長、私結婚したくない、です。でも、でも』
「ハッ、俺だってさせたくねぇよ。」
『でも、兵長となら結婚したいです…』
そう小さく呟くとリヴァイの腕から抜け出して机の引き出しをあけた。
その小さな呟きに思わずリヴァイは照れてしまいそれを表にださまいと必死になる。
『…これ』
これと言って見せたのは一枚の紙切れ。ナマエの名前が記入された、そう、婚姻届だ。
『兵長、これ、出しにいきませんか』
それは結婚する相手だった人から渡されたもので、先にナマエが記入してあり、夫となる名の欄は全て空白だった。
リヴァイは身体を起こし無言でナマエに近づく。
あ、やっぱだめだよねと思っているとリヴァイは筆を取り戸惑いなくそこに名前を書いた。
「お前が結婚するまえに俺と結婚すればいい話だな。」
リヴァイがナマエの想いを汲み取ってくれたことに、ナマエは嬉しくなって抱きついた。
『兵長、だいすき』
「もっと前からその言葉聞きたかったんだがな」
『すき、って言ったじゃないですか』
「…行為中の言葉のアヤかと」
バツ悪そうにリヴァイは答えた。でも、そんなことナマエは気にしていなかった。
『朝イチで、出しに行きましょ』
微笑むとリヴァイにこれでもかと言うぐらいに抱きしめられた。
愛をはじめた日