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『へいちょーいます?』


リヴァイの執務室の扉をあけて顔を半分だけ覗かしたナマエにリヴァイは視線を向けただけだった。

それは入っていいという合図で、ナマエは失礼しますと小さな声で執務室に入り、そして椅子に座るリヴァイの後ろ側の壁にもたれかかるように床に腰かけた。小さく三角座りをして。

書類を触るカサカサという音と時よりペンを走らす音が聞こえる。

ナマエは時々こうやってリヴァイの部屋を訪れる。
リヴァイの執務が終わるまでこの位置で待つのだ。リヴァイにそんな汚ねえところに座るなと言われたことがあったが、ナマエの兵長が綺麗にしてるんだから大丈夫です。と言われてから何も言わなかった。
リヴァイがそこを更に念入りに掃除するようになったのをナマエは知らない。



接点があまりなかった二人だが、あれは月が細く笑った夜の事だった。
どうしても寝付けなかったナマエは食堂へ足を向け、寝付けない原因にやるせなくなった、それは自分自身の事で。
人並み以下のナマエは人よりも頑張らなくてはいけない。調査兵団に入ったのはそんな人並み以下の自分で何が出来るか、心臓を捧げれば何か役に立てるのではないかと自分の存在意義をみつける為に。

人並み以下であるから自主鍛練を人よりも倍行っていた。それでも優秀とは言えなくて、しまいには同期に馬鹿にされてしまった。

「お前なんか、どう頑張っても無駄なんだよ」

その言葉はナマエの脳内でぐるぐる回る。それを言われたのは随分と前だがナマエはふとした瞬間に思いだし悔しくなる。

そして今宵も寝付けないのだ。




食堂につくとコップ一杯の水を口に運ぶ。ごくごくと飲み干すが落ち着かなかった。さらにもう一杯。そして三杯目を飲もうとした瞬間、声をかけられナマエはビクッとしてしまう。

「それ以上飲みすぎだ」

『兵長…っ!』


上官であるリヴァイに心臓を捧げるポーズを取ろうとするとリヴァイはよせと言う。

「こんな時間にどうした。もうじき夜が明けるぞ」

『申し訳ございません。どうしても寝付けなくて…』

「まあ、そんな夜もあるよな」

『兵長にも、そんな夜が?』

「俺だってただの人間だからな」



リヴァイは鼻で笑った。
ナマエは失礼な事を言ってしまったと思い謝るとリヴァイは謝るなと言う。


『どうしたら兵長のように、強くなれるのでしょうか…』


ナマエは思わずリヴァイに聞いてしまった。リヴァイは人類最強と呼ばれ、その実力はまさにその名の通りで訓練を指導してもらった際にもお手本として見せられた動きについ魅せられてしまったから。

「それについてはなにも言ねえ、な。だがナマエ、お前は決して弱くなんてないぞ。幾度の壁外調査を越えて今ここにいるのだから」


リヴァイの思わぬ言葉にナマエの瞳から雫が垂れる。
ただ、認めてもらいたかった、ナマエはそれを求めていたのだ。ましてやその言葉をリヴァイから貰えるだなんて思いもしなかった。

リヴァイはいつもの表情のまま、雫が垂れるナマエを見ていた。

その夜からナマエはリヴァイへ抱いていた想いが変わった。恋なのかと聞かれたらそれとは異なり、憧れでもなく。




「ナマエ、そんなに見ていたって今日の紅茶の菓子は増えないぞ」

『兵長は頭に目でもあるのでしょうか』

「あるわけないだろ。この馬鹿が」

『うう…ごめんなさい…』


椅子の上で顔だけをナマエの方に向けたリヴァイはため息をついた。


「で、今日はどうした」

『……今日は……オルオに、兵長に……いやなんでもないです』

「オルオがどうした。はやく言え」

『兵長が、私にかまってくれるのは私が可哀想で残念な子だからって』

「で、お前はなんと言ったんだ」

『言い返せませんでした。だってその通りかなって思っちゃったんです。しょせん私なんて』

「ナマエ、それを言ったら削ぐと言っただろ」

『ごめんなさい…』


しょせん私なんて、と言うなとリヴァイはナマエに言ったのだ。でもナマエはそれを守れない。守りたいが守れないのだ。なぜならば自信がないから。

「ナマエ、お前は自信をもて。オルオにはあとでキツく言っておく。」

『ごめんなさい』

「それに俺はお前が可哀想だとも残念だとも思った事なの一度もない。立派な兵士だお前は」


三角座りを続けていたナマエは自分の膝に顔をぐりぐりする。泣いてるのを誤魔化す為に。
誤魔化せていないが、リヴァイは気付かないふりをした。



優しさは目に見えなくて


(慰めてもらうシリーズ第二段)

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