『ハンジさん!聞いてくださいよ!!』
「どうしたナマエ。こんな時間に私の所にくるなんて珍しいじゃないか」
泣きたい気持ちと虚しさが混じった私の今の感情を表す言葉がみつからない。
そこに座ってと、ハンジさんは私に紅茶を淹れてくれた。
「で、どうしたんだい」
『…ハンジさんは今日何の日か知っています?』
「今日…か。あれだね、ソニーとビーンが死んでしまって52日目だね…可愛かったなあソニーとビーン…」
『ハンジさんなんてきらい。』
「あーうそうそ!きらいだなんて言わないでナマエ。ごめん!ちゃんと分かってるよ、ナマエの誕生日でしょ?」
『…ハンジさんやっぱすき!』
「で、リヴァイのところじゃなくていいの」
『……兵長なんて、あの刈り上げから禿げ散らかせばいいんですよ』
兵長のばかばかばかばか。
兵長とお付き合いを始めてからはじめての私の誕生日だから少し期待していた。いくら私から告白したからって私のが兵長のこと大好きだからって、不安はやっぱりあるけどそれなりに愛されているのかななんて最近思えるようになった。だから誕生日、少し期待していたの。なのに。
日付変わって、何か兵長はお祝いの言葉かけて貰えるのかなってわくわくしていたら、一向にその気配はなくて痺れ切らした私は兵長に尋ねてみた。
『兵長、日付かわりましたね』
「それがどうかしたのか」
『…今日何の日か知ってます?』
「今日は確か、午後から旧本部に行く予定だったな」
『……ですよね』
私一人でうかれていたのが馬鹿に思えてきた。兵長が私室に一瞬戻った隙に、執務室からでた。
遅くまで執務をこなす兵長の傍に居たかったから、日付が変わる瞬間は一瞬に居たかったからソファーでおとなしく本を読んでいたのに。そういえば本を閉じてしまったから読みかけのページ分からなくなってしまったな。まあ、もう、どうでもいいや。
その話をすると、ハンジさんは少し笑った。
「あー、それはリヴァイが悪いね」
『結局、私だけが兵長のことを好きでお情けで付き合ってくれてるんですよ兵長は……あ、自分で言っておきながらめっちゃ悲しくなってきました』
「でも、リヴァイはお情けで部下と付き合うような奴じゃないよ?知ってる限りナマエだけだし…っておーい、ナマエ聞いてる?」
『どうせ私なんて…どうせ私なんて…』
「…ナマエ………」
もう、兵長とお付き合いは終わりにした方がいいのか。虚しい。
私なんかと付き合ってたって、兵長にはプラスにならないだろうし。
兵長の触れてくる時の手とか、ぬくもりとかそれを思い出して余計に虚しくなってきた。もう、兵長のあの柔らかな髪にも触れられなくて、あの逞しい体にも触れることできないのか。なんで誕生日にこんな思いしなきゃいけないのだろうか。悲しいよ。
「…おい、ナマエ。いつの間に居なくなってんじゃねえよ探したぞ」
いつの間にかハンジさんの部屋に兵長がいて、なにこの人気配とかなかったよ恐い。そして、なんか怒ってるし。怒りたいのはこっちなのに…。
『…べつにいいじゃないですか。ハンジさんに会いたくなったんですもん』
「メガネのがいいってか、あ?」
『…兵長なんて知りません』
「ナマエ、怒るぞ」
『もう怒ってるじゃないですか』
「ちょっとちょっとストーップ。痴話喧嘩なら他所でやって二人とも」
兵長は私の腕を掴んで、ハンジさんの部屋を後にした。ハンジさんが笑っていたのが少しむかついた。
兵長の私室に戻るまで無言で、掴まれた腕が痛くて。でも、離してだなんて言えなかった。
兵長のベッドに座らせられて、兵長は目の前で腕を組ながら仁王立ちしている。なにこれ、こわい。
「さて、お前はなんでそんなクソを我慢したような顔をしている」
『…別にしていません』
「はあ。あのな。」
『なんですか』
「これを取りに行っている間に居なくなるとかやめろ」
これ、と呼ばれた小さな箱を私に投げる兵長。うまくキャッチできなくて落としそうになる。
あけろ、と言われて開けてみると中には指輪が入っていた。
『兵長…これは…』
「見てわかんねえのか」
『それは、分かりますが』
「お前今日誕生日だろ」
『…です』
「お前、俺が忘れてるとでも思ったのか」
『……』
「図星か。あのなナマエ。確かに俺は気の聞いた事も言ってやれないかも知れない。だがな、好きでもない女なんかと付き合わねえよ。分かれ。」
『…兵長は、私のこと好きなんです?』
「あ?好きじゃなかったら抱かねえよ」
『…うっ、兵長、ごめんなさい』
「泣いたらそれやらねえぞ」
『やだ、もらう…!』
兵長は私の前で膝をつき、私の手をとり先程私に向かって投げた箱から指輪を外し、私の指にはめた。そしてそこに唇を触れさせ、目線はしっかりと私を見て。
「好きだ、それを忘れるな」
と、少し小さな声で言った。
兵長、馬鹿って言ってごめんなさい。
兵長が、だいすきです。
不器用なキス