『リヴァイ、リヴァイ、ねえ、リヴァイ!』
「一度呼べばわかるから、そう何度も呼ぶな」
『リヴァイ!だいすき!』
リヴァイに拾って貰ったのは6ヶ月前。なんで地下街に居たのかは覚えてなくて、自分のナマエという名前と、なんでかお母さんお父さんが殺されたのだけは覚えていた。
なぜにかズタズタに切られていた私の髪の毛は、今はだいぶ伸びて女の子らしくなった。リヴァイは最初男かと思ったらしい。
空腹で。まともに水すら飲めなくて何日が経ったのかすら分からなくて、時間という感覚すらなくなっていてこのまま目をつぶったら楽になるだろうな、だなんて時にリヴァイに髪の毛を引っ張られた。
気付いたらリヴァイのお家?アジト?にいて無理矢理口に流し込まれた水が苦しくて、でもすごく美味しかった覚えがある。
今の私にとってリヴァイは命の恩人で、すべてだ。
『リヴァイ、私は何をしたらいい』
「さあな」
リヴァイにお世話になってる身だからリヴァイの為に何かをしたくて、でも私はリヴァイのお仕事には参加させて貰えなくて歯痒かった。リヴァイ曰くあからさまにどんくさそうなお前が参加したら失敗して終わる、とのことだそうだ。
『リヴァイ、ちゅーしよ』
「ちゅーだなんて言うガキとはしない」
『じゃあ、キスしよ』
「しない」
『ケチ』
「ケチとはなんだ」
『もう、15歳だよ』
「充分ガキだろ」
私にとってリヴァイがすべてだから、リヴァイに全てを捧げたい。でもリヴァイはガキに興味はないっていう。
でもちょっと前にリヴァイの仲間の…誰だっけ?茶色い髪の一見優しそうにみえた人。その人がリヴァイのいない時間にここにやってきて、私を押し倒たした時があった。それがどういう事なのかさすがにわかっているし、興奮気味な呼吸がすごく気持ち悪かった。でもこの地下街で生きていくならこれもしょうがないのかなって思ったりして諦めてされるがままでいた。
だけど首筋に触れた唇がすごく気持ち悪くて心の中でリヴァイ、リヴァイ。助けてリヴァイって何度も助けを求めた。
そしたら不思議な事にリヴァイが帰ってきて、押し倒されてる私を見るや否やリヴァイは今まで私に見せたことのないぐらい怖い顔で、その茶色い髪の人とどこかに消えていった。少ししてからリヴァイだけが戻ってきて、リヴァイのお顔はいつも通りのお顔だった。
思わずリヴァイに抱きつくとリヴァイは頭を撫でてくれた。
あれからその茶色い髪の人の姿は一回も見なくて、なんか聞いちゃいけない気がして聞いていない。
きっとこれから先リヴァイが居てくれれば大丈夫。そう思っていた。居たのにそれはある日突然終わってしまうのだった。
入り口の扉がノックされる。リヴァイは眉間にシワを寄せながら、愛用のナイフを隠しながらゆっくりと扉をあけた。
「何の用だ」
扉の先に居たのは、見覚えのある人だった。お父さん。お父さんにすごく似ていて、でもお父さんじゃない。
『叔父さん…?』
「ナマエ!!生きていてよかった!!」
リヴァイの許可なしにズカズカとあがりこんで、私を抱き締める。ああ、この人は確かに私の叔父さんだ。叔父さん久々だなあと思っていたら思い出したくもない色々な事が頭を駆け抜けていった。
『叔父さん痛い』
よかった、よかったっとひたすら叔父さんは言っていた。今まで黙ってみていたリヴァイが叔父さんを剥がしてくれた。
「ナマエの…叔父か?」
「今までよくナマエを守ってくれていてありがとう。ナマエ帰るぞ」
『帰る…?』
「そう、家にだ」
それから叔父さんはリヴァイに一生懸命話をした。
私は壁の一番内側の貴族の家の娘で、半年前親族内で醜い争いがあった。直系である私も例外ではなく命を狙われ、殺されるはずだったと。そしたら叔父の遣いが私の髪をズタズタに切り私を地下街に捨てていったそうだ。叔父には安全なところに匿っていると話たそうだが、その遣いは裏切り者だったらしく先日殺される前に私の事を吐いたそうだ。
「さあ、ナマエ帰るよ」
引っ張られた腕が痛い。思い出した記憶で頭が痛い。リヴァイはなにも言わない。私のすべてがリヴァイなのに。叔父さんに先に外に居てと言うとだめと言われるかと思ったが素直に外にでてくれた
『…リヴァイ』
「はやく帰れ」
『やだ、リヴァイと一緒にいる』
「お前の住むべきとこに帰るんだ」
『リヴァイがいなくちゃいやだ』
「こんな掃き溜めにいる必要がないんだよお前は」
『…じゃあリヴァイも一緒に行こう』
バンッ!って音が響いた。リヴァイが机を思いっきり殴った音だ。そしてリヴァイの顔はあの時みたいにすごく怖かった。
「俺を上に連れてってどうする。犬みたいにでも飼うのか?」
『ちが、ちがう…』
「どう違うのか言ってみろ」
『ただ、リヴァイと一緒にいたいから…』
「お断りだ。お前ははやくここから居なくなれ」
『リヴァ…』
何を言っても無駄だと思った。リヴァイは生まれた時からここで暮らしていて、リヴァイが居なくなってこまる人もいるだろうし、何よりこれ以上リヴァイに拒絶されたくなかった。
『リヴァイ…ちゅーして…そしたら上に帰るから…』
眉間にシワがよる。そしてこれでいいんだろ、とただ触れるだけの冷たいキスを私にした。その冷たさに涙が出そうになった。
顔を下げたままリヴァイにありがとう。だいすき。と伝え私は外にいた叔父と一緒に元あるべき所に帰った。
あれから数年。私は成人した。たった半年の地下街での生活はいまだに私の中にしっかり残っていて、このきらびやかなドレスが嫌になる。
あれから私は淑女としての御作法を教え込まれ、更に自ら叔父の仕事の手伝いをした。唯一の肉親である叔父にそんなことはしなくてもいいと言われたが、お飾りでは嫌だった。
叔父が持ってくる縁談もことごとく拒否をし、普通の貴族の娘なら結婚していないとおかしい年齢なのに未だ独身の私は変わり者だなんて影で言われているが気にしていない。
『リヴァイ兵士長…?』
ある時の舞踏会でリヴァイと同じ名の兵士長の噂を聞いた。人類最強だそうで。ただ名前が一緒なだけだと思った。そう思いたかった。じゃないといつまで経ってもリヴァイへの想いがたちきれないから。
今日この場所にそのリヴァイ兵士長とやらが来ているらすく、別人でしょどうせと自分に言い聞かせた物の好奇心には勝てなかった。
エスコート役の叔父が「あそこにいるのがそうだ」と私に目配せするからその方向を見ると、あの頃よりも老けているが、あの髪型、あの目つきの悪さ、なによりあの身長。リヴァイだ。
懐かしさで頭がおかしくなりそうだ。なぜリヴァイがここに?リヴァイなんで会いにきてくれなかったの?リヴァイ、リヴァイ、リヴァイなんで?
叔父に連れられてリヴァイ兵士長の元に行くとリヴァイ兵士長は目を丸くした。
なんて声をかけたらいいかわからず、いや、何から話せばいいかわからなくなっていると叔父が「リヴァイ兵士長、すこしこの子をお願いします」といい去っていった。
『リヴァイ…?』
「あ?」
『リヴァイなの…?』
「そうじゃなきゃ誰だよ」
『…老けたね』
違う、言いたいのはそれじゃなくて、こんな時になんであんなに叩き込まれた淑女とやらの御作法がでてこない自分に嫌気がさした。
リヴァイは無表情のまま私を見つめて、その視線に私は動けなくなり見つめ返していた。
「ハッ、それはお互い様だろ」
心なしか昔よりリヴァイが冷たく感じた。感じたけど今の私にはそんな事どうでもよくて、はしたないとかそんな物忘れてリヴァイをテラスまで引っ張った。
触れた手から私の心臓の音が伝わってしまうのかと思うぐらい私の心臓ははやかった。
人気のないテラスにリヴァイと私の二人っきり。
『リヴァイ…もう私ガキじゃないよ?』
「だな」
ああ、だから私が言いたいのはこんな事じゃなくて。でもリヴァイは頭から足元まで一度往復させてこたえた。
『だから、ちゅー、しよ』
リヴァイは鼻で笑った。
そして私の唇にキスを落とした。あの時と違う熱い唇で、ああ、リヴァイだって、心がぎゅってした。
『リヴァイ…だいすき』
「知ってるからそれ以上喋るな」
もう一度リヴァイに唇を塞がれた。
まぎれもなく今唇を重ねているのは私の全てだったリヴァイで、目頭があつくなった。
青空のもと。ドレスと団服で。