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壁内のそれぞれの扉ではかなりの人だかりが出来ていた。それはこれからウォール・マリア奪還作戦の為に集められた大人達だった。
既に壁外へ出ている兵士達はこの大勢の民間人が壁外へ出る時に巨人が入って来ない様にする為の囮だった。
そのお陰で現在、壁の近くにいる巨人はいない。かなりの兵士がやられたが、まだ十分に巨人を引き付けている。
指揮官は信号弾の状況と巨人の数を見て民間人が出て行くタイミングを計っていたようだ。
そして今、絶好の時を迎えた。

「先の兵士達によって道は拓かれている!マリアにいた民よ!人類の土地を取り戻せ」

指揮官の合図と共に扉は開かれた。大人達は武器とは言っても兵士達の使うそれとは違いオノであったり、弓や猟銃程度で、馬もなく、徒歩での遠征だった。
通常の生き物に対してなら、確かに有効な武器ではあったが、回復が早く、弱点も遥か人より高い位置にある項一点だけだではどう考えても無力だった。

絶望的な顔をする者が多くいる中、諦める者、幼い子供の為に死ぬ覚悟を持って出る者様々が扉より壁外へ、死地へと足を踏み入れた。

* * *

「何だってこんなに人が!?」

「どうして…、訓練兵団を卒業した人だけが任務に出るはずじゃ」

壁付近まで引き返して来た私達 を待っていたのはやはり、民間人だった。予測していた通りの最低な作戦に、拳に力が入った。周りを見ると調査兵団の人は知っていたのか、それとも予想はしていたのか反応は私と同じようだった。
一方全く予想していなかったリクハルドさんたちは余りの事に動揺を隠せずに口に出していた。

「今はガスと刃の補給をしましょう。武器がなければ、巨人に勝てません」

民間人達には申し訳ないけど、本当の事なのだから、一刻も早く補給はするべきと私は言葉にした。それに触発されて皆、それぞれの想いをかかえて物資を運ぶ荷馬車へ向かった。


ガスを補給する間、私は目を閉じて気配を探った。ここから五キロ地点先に巨人がいる。民間人との接触まであと一キロだ。またワサビでも出すか迷う。ここで出せば彼らは助かる。だけど、次の巨人で死ぬかもしれない。流石に念獣を出し続けるにはまだ私の念は前世には遠く及ばない程未完成だった。それなら影分身を飛ばす方がまだましか…
それでもまだ到底助けられないのは分かっている。だけど、何もしないでいるのも嫌だった。

そっと影分身を出そうと印を組んだ。
出てきた影分身は四体。念を使うと考えるとそれが限界だ。以前と同じ様に暗部の変化をさせるとそれぞれの扉から出てきた民間人の護衛として散らばる様に指示を出して見送った。

「補給は済んだか?」

「はい。何時でも行けます」

先に補給を済ませていたミケさんが私に気付いて声を掛けて来た。何となくこの人は他の人に比べ強そうだと私は思った、その瞬間スンスンとミケさんは私の首下へと顔を寄せて臭いを嗅いでいた。

「っ!?」

余りの出来事に私はその間硬直してしまった。

そして、直ぐに終わったかと顔を離したミケさんを見ると、ハッ、と鼻で笑われた。

「!!」

確かに巨人と戦って汗やら血の臭いやらで臭いと思う所はあるが、そんなの分かりきってるだろうに、なぜ態々臭いを嗅がれた挙げ句小バカにされたのか分からなかった。

「ミケさん!またそんな事やってるんですか?その子ビビっちゃってますって!」

すると背後から様子を見ていたのか調査兵団のもう一人、ゲルガーさんにミケさんは咎められた。

「ん、ああすまない。初対面の人と会うとつい気になってしまってな。悪くない。君はきっと強くなる」

「はぁ…」

どうしてあんなので分かるのか良く分からないが、私が返事を返すと、私の頭をくしゃりと撫でてミケさんは他の人の様子を確認に行ってしまった。

「なかなか凄い人何だが、あの変な癖はどうにかならないかと何時も思うよ。だから気にしなくていい。しかし、ミケさんが人を誉めるのは君で二人目かな」

そう言って私の気を持ち直させようとしてくれたゲルガーさんに、私は嬉しく思いつつ最後の言葉が気になった。

「二人目、ですか?」

「ああ、オレの知る限り、だがな。他にもいたかも知れないが、隊長格の人は皆オレより先輩だからな。んで、その一人目の兵士はリヴァイって言う奴なんだ」

「ああ、分かります」

ゲルガーさんの言葉に私は納得して頷いた。リヴァイと聞いて確かにそうだと思う。彼は、強くなると私も感じているからだ。

「リヴァイを知ってるのか?」

「知ってるも何も、家族ですよ」

そう言って私は誇らしげに笑うと、召集をかけるミケさんの下へと歩き始めた。

* * *

そこからは最悪だった。
多くの人類を前に巨人は笑いながら補食して行く。

結界を張りながら進んでも、結果移動しようと大所帯になるから必然結界を解いた瞬間フリーになった所を狙われる。咄嗟に庇ってしまえば影分身は巨人の握力に耐えきれず消えてしまった。

何処から巨人は沸いてくるのか、人より少なくても、その巨体と再生能力の速さ、一点のみの急所のお陰で人体と違い一瞬で攻撃力を削ぐのに大回りになってしまう。その間に巨人はとうに人を殺せてしまうのだ。

体力より先に気力が持たなくなりそうだった。

人の死には嫌でも慣れていた筈だった。だけど、そんなこと無かったんだ。それは目の前で殺されている事が起因している。
初めて転生した忍の世界で里の為に戦っていた頃、周りは強かった。強い火の意志を持った仲間達、敵に対し容赦はしないが、情けは掛け合った。それは任務でなければ互いに争う理由がないからだ。仲間が殉職しても、覚悟はしていたと墓を作ってやれた。だけど、今、この状況にこんなにも疲弊しているのは、そう。

本来護らなければならない人を、目的の為とただ殺しているだけだからだ。
これが、本来人の持つ性質なのだと思い知らされる。それが辛かった。

「君は、逃げなさい」

背後に庇った鍬を持ったおじさんに、私は声をかけられた。

「まだ、戦えます」

「そうじゃない。生きろ。我々は死ぬ目的でここに来たんだ」

「こんなにも弱い装備で何も気付かないなんてない。私達が帰れば、子供達が飢えで死ぬ事になる」

女性の言葉に、私は目を見開く。

「壁の穴を塞ぐ技術が出来た時、巨人を駆逐するのに君は、必要な力を持っている。だから、君は、ここで死んではいけないよ」

そう言ってあえて私が張った結界から出て巨人に向かって行った二人の男女に、私は何とも言えない気持ちになった。

ああ、意志の強さを持つ人はしっかりいたのだ。
捕まってしまった二人の死を見ながら、私は右手で拳をつくり、左胸に宛て敬礼した。

貴女方の死は、決して無駄にはしません。

その次には動かなかった私の分身は巨人によって消された。

* * *

カンカンカン

遠くで微かに人工的に鳴り響く音に気付いたのは日没近くなってからだった。

フェリシアさんを庇って巨人の口で咀嚼されているリクハルドさんに、もう気配を感じなかった。
私はかなりの念とチャクラの消費から、直ぐに向かう事が出来なかった。

「嫌あああっ」

叫ぶフェリシアさんに慌てて掛けよって私はその体を持ってアンカーを出した。
その直ぐ後に巨人の手がそこに空を掴む様に握られた。

少しでも遅ければフェリシアさんも巨人にやられる所だった。

「撤退の合図です。リクハルドさんの遺体は私が回収します。フェリシアさんは直ぐにミケさんと合流して下さい」

それだけ言うと、まだ上半身の見えているリクハルドさんの下へと私は跳躍した。

リクハルドさんを捕食している巨人まで近付いて一気に項を削ぐと、巨人はリクハルドさんを咥えたまま倒れた。シュウと音立てながら蒸発し始めた巨人からリクハルドさんを掴み時空間忍術で、その時を止める。医療忍者をやっていた時に編み出したオリジナル忍術だ。遺体を腐らせない為の処置だった。それに巻物に封印すれば持ち運びも便利だった。

今回の任務でいったい何人の遺体をこうして持ち帰っているのだろう。
せめてもの償いで壁内で供らう為とやっているが、それでも完全に持ち帰ってあげられる遺体は無かった。何処か巨人に喰われ、欠落してしまっている。
回収出来ていない人は必ず後で名前を調べ訃報知らせは家族に報告すべきだと考えていた。

「カノン!ここにいたのか!撤退だ!ミケさんも生き残りに声をかけたら退く。お前は先に行け」

ゲルガーさんがフェリシアさんを連れて私に声を掛けて来た。やはりまだ顔色が良くない。

「分かりました。先陣を斬ります」

「助かるぜ」

私の言葉にゲルガーさんはほっとしたように笑うと数人の兵士に私と共に行くように声を掛けていた。どうやらゲルガーさんはまだ他の兵士を探しに行くようだった。

「幸運を!」

「ああ」

そう言って別れた後、私達はウォール・ローゼに向かい走り出した。

* * *

「見えた!トロスト区の門だ」

馬に相乗りになって駆けて来たが、巨人との遭遇は少なく、全力の出せない馬でも逃げ切る事が出来た。

「来たぞ!生存者だ」

私達の帰還に壁の見張りをしていた駐屯兵が気付いて声を張り上げた。門は開けられず、ワゴンが降りてきた事からどうやらこのまま回収するようだ。

「カノン!」

馬と一緒に上へと登っていたら、上から私を呼ぶ声が聞こえた。パッと上を見ればそこにはリヴァイがいた。
その顔を見て、私は逸る気持ちを押さえて何とかワイヤーが上まで上がりきるのを待った。

「リヴァイ!」

また会えた、その事に歓喜してリヴァイに向かい走り寄った。だけど、その瞬間、壁外から叫び声が聞こえた。

「大変だ!後続の兵士が巨人に捕まった」
「くそっ、砲撃の準備を!」

私達はその声に直ぐその兵士達を見れば、まだ、その巨人のすぐ近くにいた。今の距離で砲撃されれば間違いなく兵士達は巻き添えを食らう。

「待って下さい!私が行きます」

「なっ、君は今帰還したばかりの…」

私の静止の声に砲撃指揮を出した兵士は驚きの声を上げる。答えてる暇は、無さそうだ。そう判断した私は直ぐにアンカーを伸ばして下へと疾走する。

「お前だけじゃ不安だ。俺も行く」

壁を垂直に走り出した所で隣から声が聞こえた。

「リヴァイ!」

「たかが通常種の巨人2体だ。その為に兵士の命を犠牲にしてやることはない」

そう言うと、屋根の上に到着するや否や私達は左右に別れ2体の巨人を倒しにかかった。

先ずは屋根伝いに走り抜けて巨人の手前まで行く。今まさに掴もうとした巨人の手を手首から切り落とす。私の存在に気付いた巨人は手が再生するのを待たずにもう一方の手で私を狙って来た。そこで通常なら避けて腕をかけ上がって行くが、後ろにはまだ兵士がいるのでその手を敢えて私は蹴り上げた。
バキッ ごきっ
チャクラを込めて蹴り上げたその手は横へと方向を変えた際に嫌な音を立てた。
どうやら力が入り過ぎたらしい。感触からして巨人の手は骨が折れたようだった。
すかさず私はアンカーを伸ばして巨人の肩に食い込ませると勢いよく頭部を通り越して項を狙って斬りかかった。

ズシンと巨体の倒れる音。降り立つと丁度リヴァイも倒し終わった所でこちらへ視線をやっていた。

「リヴァイか!ここが最後尾だ。二人共助かった!もう直巨人が数体やってくる。壁に戻れ」

「はい」

後続をまとめて来たミケさんの言葉に私は頷いてリヴァイと共に立体機動で壁を上がった。

「どうやら上手く力を付けられたみたいだね」

上に上がって漸くまともにリヴァイと話ができると思えば、エルヴィンさんがいつの間にか来ていて声を掛けられた。

「おい、今はその話は後でいいだろ」

流石に痺れを切らして間に割って入ってきた。
心なし不機嫌なのは、私が未だにリヴァイにただいまと言ってないからだと思った。

「リヴァイ――」

「何だ?」

名前を呼べば、振り返ってくれたリヴァイ。だけど、私は何故か今言うべき事にそれが適しているとは思えず言葉が出なかった。

「ううん、後で良い」

「そうか…取り敢えず、今は任務に参加した中で動ける奴は召集がかかってる。そうだな?」

私の歯切れの悪い返しにリヴァイは特に表情は崩さずに、エルヴィンさんにそう問い掛けた。
どうやらエルヴィンさんは私達にそれを報せる為に来たらしい。

「ああ。疲れている所悪いが被害の確認が必要でな」

「いいえ、今の状況は余りに被害が大きいので、情報は早めに提示すべきだと思いますので」

「…よろしく頼むよ」

そう言ったエルヴィンさんは口調こそ何時もと変わりなかったけど、その表情は難かった。
任務の報告内容を考えれば当たり前なんだと思った。

* * *

「ウォール・マリア奪還は失敗した。多くの犠牲があった。今後は今回の反省をまとめてウォール・マリア奪還を目標にしていく事になるだろう。
暫くは、怪我のあるものは傷を癒し、身体に無理のないものは土地の開拓と復興に力を注いでくれ。
以上!」

指揮官の任務終了の言葉に兵士達はそれぞれの本来の持ち場に戻り始める。

訓練兵である私はこの後解散式があるだろう。
それから各自進路に向かう。今回の102期は寄せ集めなだけに兵士を続ける者は少ないだろう。…もっとも、102期で生き残ったのは、私の知る限りフェリシアさんと、影分身の報告では十人に満たない位だ。
そのほとんどはきっと家族の下へ行き、土地開拓に回る。私は、エルヴィンさんとの約束で、兵士の訓練をしっかり学ぶ為に103期訓練兵団に入る予定だ。

「っと、その前に遺体の焼却かな」

巻物に入れていた遺体の事はまだ報告してない。私は取り敢えず憲兵団が管轄になるだろう、その遺体安置所に向かう事にした。

「すみません、左翼第6班の者ですが、同班だった人の遺体確認に来ました」

「ああ、助かるよ。確認取れたら死亡者リストに名前を書いて遺体にはタグを着けてくれ。帰って来た人だけでも身内の元に返してやりたいからな」

そう言った墓守の人は調査兵団の人だった。
辺りにいるのはほとんど調査兵団の人だけで、駐屯兵団の人はシガンシナ区で見たことのある兵士位で、憲兵団の人は皆無だった。

私はその遺体を前にして手を合わせてから、誰も見てないのを確認し巻物を取り出す。
浮かんでいる模様に軽く自分の親指を噛みきって血を滲ませると、それに這わせた。
すると、ポンと軽い破裂音と共に持ち帰って来た先の任務時に仲間だった人達の遺体が現れる。
私は貰ったタグに名前を書いてその人達を並べた。

立ち上がり、右手を左の胸に敬礼をした。

お疲れ様でした!

心の中で私は皆に挨拶をすると、漸くそこを立ち去った。


「今回の任務でかなり減ったよな」

訓練兵団兵舎へと戻る途中で聞こえた会話に何となく足を止めた。振り向けば憲兵と駐屯兵の人が亡くなった兵士や民間人の荷物整理をしていた。配給の時に見たことがあるからローゼの兵士達だろう。

「これで漸く飯がまともに食えるぜ。何も出来ない奴等が多かったが、これで安心だな」

「ああ、全くだな。大して能も無いくせに、数だけはいたから、巨人の腹も満たしてくれて暫くは壁も安全だ」

確かに民間人に力はない。だけれど、それはここウォール・ローゼにいる民だって一緒だ。壁の外側にいるから身分が低いだなんてそんなの差別だ。肌や瞳、髪の色が違うだけで同じ人であることは変わりないのに、多数がいる事を重要視するだなんて私は理解出来なかった。

「そう言えば102期訓練兵って一年の訓練で任務だったんだろ?皆死んじまったみたいだよな!」
「そうだな。帰って来た兵士の中に訓練兵のジャケット着てる奴は見なかったし、全滅じゃね?」
「俺達は厳しい訓練を三年も積んでんだ。たった一年、立体機動と刃の扱い。乗馬の訓練だけってんだから、端からただの囮でしかなかったんだろ」
「どうせ兵士が死ぬなら、俺達優秀な兵士より、使い捨てられるマリアの民間人のが都合良いしな」

プチッ

頭の中で、感情が決壊した。

「誰が使い捨てだって?」

地から出る様に私の中で最も低い声が出た。

「何だ、お前…」
「!」

私の声に振り返る兵士達。怒りを滲ませる声音に気付いてるからか、相手も僅か睨む様に私を見返して来た。
そして直ぐに私の髪の色に気付いて視線はそちらに行った。

「貴方方が噂していたマリア出身102期の訓練兵ですよ」

不快だと言う態度を隠さずに私はそのまま兵士達を相手に言い切る。

「へぇ、そうか。よく生き残れたな。っても、まだガキじゃねぇか?だから他の奴等から庇って貰ったんだろ。力のないガキが、まさか俺達に歯向かうつもりかよ」

私の見た目に馬鹿にして笑う兵士。別に本当の事にだからそこは指摘しない。

「さっき、能無しとか言ったな、彼等が能無しなら貴方方はその能無し達から餌を奪う鼠だ」

「んなっ!言わせて置けば、ガキが意気がってんなよ」

私の言葉についに怒り出した。それを見て私はキッ、と兵士達を睨み付け言う。

「コム・リッヒ(38)卒業順位60位。最初の巨人との遭遇時に13メートル級の巨人に立ち向かうもあと一歩の所で回復してしまった巨人に下半身を噛まれ内臓、脊髄の損失により戦死。
カルメン・ワグナー(32)卒業順位57位。複数の巨人に襲われていた他班の仲間を救うべく2体の巨人に挑むも1体討伐したかの所で腕から 巨人の口へと捕まり飲み込まれ戦死。
レオン・フィールド(34)卒業順位22位。 一般市民の投入後、巨人が人に群がった。捌き切れない巨人に対して何人も殺られてく中、ガスと、刃全てが尽きるまで戦っていた。立体機動
と刃さえ尽きる事がなければまだ生きていたかもしれない。最期は四方を巨人に囲まれて四肢と、頭が食い千切られ戦死。
リクハルド・クロンフェイム (28)卒業順位11位。同班の兵士が殺られる所を庇って両足を奪われた後、腰から下も食われ戦死。
マリア出身、農家の夫婦。鍬では巨人に敵わないと知りながらも人類の未来の為にと立ち向かい戦死」

一息でここまで語るも、まだまだ私の目の前で巨人に殺られた人はいる。その光景はついさっき起こった事なんだ。
はーっ、と一度深呼吸をして兵士達の顔色を伺う。どれもまだ実感してないと言う表情だった。

「いいか、貴方方が能無しだと言った彼等は確かに死んだ。だけど、皆巨人から逃げたりしなかった。恐怖と立ち向かい、敵わないと知りながら皆戦った。そんな人達を、侮辱する貴方方に、兵士を名乗る資格はない。公に心臓を捧げたなんて、笑える。兵士ごっこをする位なら、民間人になって土地開拓して下さいよ。ただ民間人いびってるだけで食べられるその食料を作るのがどれだけ大変か、一辺、体験してみては?」

僅かに殺気を出してそう言えば、ひっ、とたじろぐ兵士数名。ばつが悪い顔の者も半数と言った所だった。

「ガキが知った口利くんじゃねぇよ!俺らはなぁ、お前ら102期と違って過酷な訓練積んでんだよ!上官の下に着けば機嫌を取る。民間人の喧嘩だって止めてやってる。どれだけムカつこうが手を出したら咎められる。耐える事も知らない子供が説教すんなや」

リーダー各だろう、憲兵の一人が私に食って掛かってきた。成る程、大人の事情だとか言うやつね。

「それなら、私と勝負しましょうよ、先輩。貴方が勝てば、生意気な口を利いたと謝ります。だけど、私が勝ったなら、兵士を辞めるか、亡くなった兵士の弔いに参加するかどちらかの行動を取って頂きます」

たかが、一年の訓練では囮が妥当だとか、そんな事言うこの人達に私は決して負けはしない。

「そうか。なら手加減しないぞガキ」

2、3 人が私の挑発に乗り対人格闘の構えをとっていた。
私は不敵に笑って一見無防備に見える状態をとった。
それを私の経験不足と思ったのだろう。そのまま殴り掛かってきた。それを軽く左に一歩動いて避けると体重の掛かっている方の足を引っ掛ける。

「うわ!」

ごちりと変に倒れた相手はどうやら頭を打ったらしい。直ぐに頭を両手で押さえて悶絶していた。それを見ていた残りの二人は今度は同時に私へと向かって来た。
右側の兵士の左ストレートを頭を後ろに引いて左掌で受け止めてからその勢いを殺すように引く。その為にその手の持ち主は私の前に身体を無防備にさらけ出す事になり、左側から来た兵士の右足の蹴りを、私が身体を右側に反転する事で代わりに受ける羽目になる。
ドッ と何か蹴られる衝撃音が耳に届く。

「ぐっ…!」

腹に食らった蹴りに息を詰まらせた彼は疼くまる様に倒れた。蹴りを出した兵士は驚いて一瞬固まっていた。
それを視界に捕らえつつ、私は最後の一人に軸足にしていた左足を踏んで動けない様に固定すると、相手の米神を狙って至近距離から蹴りをかました。私の身長から170センチはあるだろう相手の頭を狙うのは難しいが、修行でそれぐらいの足技は簡単だった。

「うぐっ!」

横から強い―――と言ってもかなり加減はした打撃を受けた兵士は意識を飛ばして倒れた。

「さて、先輩。どちらを選びますか?」

全員を地に伏せると、私は賭けの結果から相手の希望の負け賃を要求した。

「ちっ…誰が謝るか」

「別に、謝らなくていいですよ?なら、兵士を辞めて開拓者になって下さい。それなら私も貴方へ詫びましょう」

結果的に、初めに突っ掛かって来た兵士は認めたくないみたいだった。だから、私はじわりと殺気を僅かに滲ませた。

「ひっ…!?お、俺は誤りに行くよ!だから許してくれっ」

「お、俺も!」

そのお陰か他の二人は弔いに参加すると言って逃げる様に遺体安置所の所まで走って行ってしまった。
それを見送って、私は他に残っていた駐屯兵の人に視線をやる。

「他に、文句のある方がいれば、どうぞ」

顔は笑顔のままだけど、殺気を飛ばして試したら、皆一様に別れ始めた。

「あっ、この後見舞いに行こうと思ってたんたった」

「ふ、ふざけんな!俺はこんなとこいられねぇよ。兵士なんて辞めてやる」

殆どが弔いに行く中、恐怖に耐えかねた兵士は数人、兵士を辞めると言って逃げてしまった。

それを見送りながら私はそれを咎めるとかそんな事はなく、ただ見送った。

当然だ。この程度の殺気で逃げ出す位なら、巨人と対面したら、きっと恐怖に足がすくんで動けないに決まっているからだった。



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