犠牲と正義
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開門、と同時に砲撃が始まる。
人間が出てくるのに気付いていたかの様にいつもより集まっていた巨人の数体の頭が吹き飛ぶ。その横を兵士である私達は通り過ぎ、リヴァイ達援護班が止めを刺して行っていた。

馬に乗って駆けて行く、その背後で戦う兵士達が気になるけど、決して振り返りはしない。振り返るその時間、馬のスピードは落ちて巨人に捕まり兼ねないからだ。
だから、気配を探ってリヴァイがいるかを確認して、巨人と気配がぶつかってもリヴァイが残ったのが確認出来ると私は行って来ますと心で呟いた。


犠牲と正義


走り出して十分。私の担当は左側後衛6班の新兵だけの班だった。近くにいる5班に駐屯兵が二人、調査兵団二人、新兵二人の班があるから平気だろうと言う考慮だ。
私の班は自分を含めた新兵六人。
カルメン・ワグナー(32)卒業順位57位
コム・リッヒ(38)卒業順位60位
レオン・フィールド(34)卒業順位22位
フェリシア・アムレアン(30)卒業順位28位
リクハルド・クロンフェイム(28)卒業順位11位
第102期卒業全地区合計260名
今回は特別任務故に全ての順位が出て班編成がされたみたいだった。こう見ると半分より上の順位で構成されてるこの班はどちらかと言うと強い。
班長はリクハルドさん。皆巨人と戦うのは初めてだ。だけど、先の巨人襲来の時に巨人を見かけたが助かった人達だ。今回も生き残ってくれると信じてる。

「き、来たぞ!巨人だ!」

カルメンさんの巨人発見の声に一気に緊張が皆に伝わる。

「一体10メートル級だ。内側の奴らに回さない。ここで止めます!」

リクハルドさんの言葉に頷くメンバー。直ぐに立体起動に移る準備をする。無人と化した民家の上に移動すると刃を構える。

「巨人の前には出来るだけ回るな!」

「了解」

リクハルドさんの合図にフェリシアさんが頷き、先ずは飛んで巨人右回りへ。続いてレオンさんが左回りへ行った。だけど、それだけだと片方はやられてしまう。私は敢えて正面から突っ込んで行く。すると待てとリクハルドさんに声を掛けられた。だけど、既に巨人はフェリシアさんに目をやっていたので早く向かわなければならない。
アンカーで正面に狙いを定めて直ぐにロープは巻き取れば、それを捕まれる心配はない。振り子の原理の勢いのまま巨人の足元へ着けば巨人は私の方へ視線をやった。
狙いに行く。刃を構えて後ろへ回ると巨人は一瞬にして私達を見失ったようだ。だけど巨人特有の人間を察知する能力故に私を追うように下を覗き混んでいた。
その一瞬が命取りだよ。そう心で思った次にはレオンさんが巨人の項を削いで倒していた。

よし、と皆が初の討伐成功に安堵しているその時、私は次の巨人が来ているのに気付いてアンカーを伸ばす。
丁度フェリシアさんがいた家の角から7メートル級の巨人が手を伸ばす。

地面を離れる時に強く蹴りあげて更にスピードを上げて先ずは伸ばした腕を右に持った刃で切り落とし、次いで腕を伝って巨人の肩まで着けば飛び降り様両手に持った刃で項を削ぎ落とした。倒れる巨人を視界に入れつつ直ぐに接触する所に巨人の気配がないことや、皆が見ていたのを確認すると私は口を、開く。

「怪我はありませんか?」

「…え、あ、大丈夫」

驚きの表情のまま返してきたフェリシアさんの返事は気にせず他のメンバーを見たけど平気だろう。

「えと、カノン?随分慣れたように倒していたが、本当に14歳?」

驚きのまま聞き返してきたカルメンさんに私は頷くだけして、馬を呼ぶ為口笛を吹いた。
馬の戻って来る気配を読みつつ大人組を見て私は苦笑する。

「巨人と戦うのは初めてではないんですよ。去年あの日、家族を襲った3メートル級の巨人なら兵士の人から借りた刃で殺しています」

他にも大きな者も倒したけど、そんな話をしたって変わらないから言わない。戻って来た馬に乗りながら私はリクハルドさんに行きますか?と訊ねる。

「そうだな、計画通り、門へと進もう。近くを走る班と余り離れると危険だからな」

全員先ずは生き残った。そこに安堵はあったけど、気を抜くと巨人の攻撃に反応出来ずに先程のようになるのが皆分かったので、それぞれが巨人に対し注意するようにとリクハルドさんは馬を出す時に言った。

「カノンは、卒業順位いくつなの?」

前を見ながら気になったのか、フェリシアさんは私に声を掛けてきた。
私はそれに何て答えるべきか迷って正直に答える。

「最下位です。本来ならここに入れないのを、特別処置で入れて貰ったんです。だから、私に評価はつかない。だからこの作戦後、私は次の103期訓練兵団に入らされる」

そう言うと驚いた返事をされた。
でも、それがエルヴィンさんとの約束なのだから仕方ない。訓練兵団は実際は三年訓練だ。今回の一年では基本的に立体起動訓練と乗馬をみっちりしただけだ。座学も何もほぼ班長となりうる人のみ受け、後は模擬戦闘や体力作りだった。だから、その欠けた分は103期で学ぶ様に言われた。
勿論、生き残ればの話だけど。

「君を今回のこれに入れた人って誰なんだ?」

純粋に疑問に思ったのだろうコムさんが後ろから訊いて来た。

「調査兵団、分隊長のエルヴィン・スミス」

「!それって今回の陣形を考えた…」

リクハルドさんは流石に知ってるのだろう。困惑しつつも陣形の事を口にし始めようとした。
だけど、そう平和は長くなかった。またしても巨人が、私達の視界に入った。3〜4メートル級二体が道の中央をこちらに向かい走って来ていた。そして同時に奥の建物から10メートル級が二体。
気配を、探れば一番近い班もどうやら交戦中でおそらくこちらより大きい個体三体だろうか。

「何て厄介な…皆立体起動に移って。先に大型を仕留める」

「了解」

立体起動を使って屋根へと着地すれば確かに建物より大きさのない巨人は直ぐに来れない。
私達に気付いた巨人は笑い顔を向けてこちらの建物へ突っ込む。
確かに建物を壊されてしまえば立体起動の力は半減する。それを分かっているとは思えないが正しい攻撃だと冷静に考えつつ私は抜刀する前に巨人の目を目掛けて壊れた屋根瓦を投げる。
ああぁあ
痛みに鈍いが、負傷しない訳ではない。両目を破壊された巨人が叫び、再生される前に叩く。

「俺が行く」

それを見ていたコムさんが直ぐにアンカーを伸ばして負傷した巨人へ斬りかかりに行った。

「単騎行動はダメです!」

いくらチャンスとは言え巨人はもう一体いるのだ。私は咄嗟にコムさんに静止を掛けたが既にアンカーを巻き取っていたので遅かった。
仕方なく私はもう一体の巨人へチャクラを脚へ止めて屋根を蹴った。人前であまり人間離れした行動は起こし辛いのでなるべく隠してきたが、全員がまだ戦闘不慣れな以上仕方ない。

ダン、

「うわあぁ!」

案の定、もう一体の巨人に捕まれそうになるコムさんより速く私はその手にたどり着き、切り落とす。すると今度は反対の手を伸ばして来たので、それを避ける事なく再び切り落とした。

「こちらは任せて!」

私はそうコムさんに叫んだ直後、巨人が開けた口へ入りそうになったので入った瞬間舌より先の顎ごと切って口の下を通り過ぎる様に落ちる。だけど、これでは巨人を殺せないのでアンカーを巨人の肩に突き刺し巻き取る。上へと上がった所でそのまま項までロープを利用して回り込み項をカット。
倒れた巨人の下には先程の3メートル級がいて一体巻き込んだ。だけど、もう一体はそれから逃れていたので、私を狙って来た。まあ、この大きさなら大したことないのでヒラリとジャンプだけで巨人を飛び越えると後ろを簡単に取れたのでサクッとやってのける。

「うわあぁあ!」
「コム!」

と、そこでコムさんの悲鳴と叫ぶレオンさんの声。直ぐに視線を向ければ既に目の再生が終わってしまった巨人がコムさんの、下半身を口に加えていた。
(しまった)
あの程度の怪我は30秒程で治ってしまうのは知っていたが、それにしても速すぎる。やはり瓦での攻撃では深い傷ではなかったんだ。
ぎりっと歯を鳴らしかけ、でもそんな事をしているくらいなら直ぐに助けるべきかと直ぐにアンカーを巨人へと伸ばす。ザクリと切った次に倒れた巨人。急いでコムさんの容態を確認するも、噛み千切られていた。

「ごめんなさい」

これは任務だ。死人が出ても仕方ない。だけど、同じ任務に赴いて仲間を亡くしたのは久しぶりだった。
まだまだこの世界での敵を知らない自分が招いた損失に、悔しさで歯噛みした。

「すまない…俺達も出るべきだったのに、巨人の目が再生したのを見た瞬間動けなかった」

地上に降りて来て謝るリクハルドさんに、私は首を振る。

「私に謝罪は要りませんよ。その言葉はコムさんに…次は皆さんで気を引き締めましょう」

そう言って私はコムさんの遺体の前で合掌するとリクハルドさんにどうするか聞く。

「遺体はどうしますか?焼くか、持ち帰るか」

「コムさんの馬に乗せてトロスト区の門へ向かって走らせる。馬に気付いて貰えれば拾ってくれるだろう」

「分かりました」

そうして馬を呼んでその処理が終わり、私達はまた走り出そうとした時、信号弾が上がった。

「まずい、あれは危険信号だっ!」

色で合図の意味を伝え会う手段を取る為全員がそれを把握していた。上がった信号の色を見て皆の顔色が悪くなる。

上がった色は赤。危機的状況、救援要請だ。

まだ間に合うだろうか。気配は兵士の数より巨人の方が多いようだった。
あちらの方角は恐らくこちらと同じく新兵と、駐屯兵が入った班だろう。

「向かうのか?」

カルメンさんがリクハルドさんに声を掛ける。単騎行動をしない為の班長だ。決断は彼にある。私は彼の判断に任せる事にした。

「行こう。こちらも一人班員が欠けた。合流しよう」

そう言ったリクハルドさんに迷いはなかった。

* * *

「う、あ…」

両手足を別々の巨人に掴まれもう成す術なく食われる仲間を前に、駐屯兵である彼は逃げる行動を取ると馬を追い掛けて来る巨人に恐怖しながら誰かいないか、助けてくれと叫んだ。

すると、その声を聞き取ってくれた様に後ろに居た巨人が急に転んだ。
そして間があり、巨人が蒸発し始めた。

「はっ、た、助かった…」

馬を止め振り返れば珍しい髪色をした新兵の背中だった。一瞬それに目を奪われたが、その前方に自分達の班が殺られた巨人の群れが襲って来ていた。

「に、逃げろ!」

そう叫ぶが相手は振り返らずに手を振っていた。それはまるで自分に先行けと言ってるような仕草だった。
横を見れば無人の馬がいた。恐らくあの新兵の馬だろう。

「あんた、死ぬぞ!」

そう叫ぶも相手は聞き入れずに巨人の群れへと突っ走って行ってしまった。

「くそっ!」

仕方なく駐屯兵は自らも立体起動に移る。今回の新兵は一年前まで一般人だったのを知ってる。そんな彼らは只の口べらし目的で戦闘参加させられてると考えれば分かった。彼らだってそれには気付いていた。だけど、家族を護る為に覚悟して戦場に来て、死んで行ったのだ。それなのに自分はちゃんとした訓練をうけた兵士だと言うのに情けない。
どうせ死ぬ。なら闘って死ぬ。そう覚悟して飛び出す。

しかし、巨人の群れに近付いた時、駐屯兵は驚きの光景を目にした。
四体の15〜8メートル級の巨人がいた筈のそこは、もう既に一体しか残ってなかった。

「まさか、一人で?」

最後の一体はどうなるのか、見ていると、その新兵は15メートル級の巨人の足下に素早く潜ると脚の腱を切ったのか巨人がガクリと膝を着く。そしてそのままジャンプ力だけで項の所まで行くと、削いでいた。

人間がこんな動きが出来るのかと驚いている駐屯兵だったが、辺りの巨人を倒し終えたと新兵が振り返った時に顔が見えれば、その新兵はどう考えても子供で、更に驚いた。

「大丈夫ですか!?」

「カノン、先に行くのは許してないぞ」

あまりの衝撃に動けないでいると、後ろから他班の班員の声が聞こえた。救援か、と漸く安堵して地上に降りればまたしてもそこにいたのは新兵の班だった。

「新兵か…班長は?」

「俺です。6班リクハルド・クロンフェルムと言います。貴方は、駐屯兵団の方ですね?他の班員の方は…」

「俺以外は全員…やられた」

悔やむ表情を見せる駐屯兵に、リクハルドらも先程仲間を失ったばかりなだけに気持ちが痛いほど分かった。

「リクハルドさん、直ぐに近くの班と合流しましょう」

戻って来た新兵の言葉に、初めて間近で顔を見て改めてその幼さに疑問が浮かんだ。

「君は、子供じゃないか!どうして新兵に」
「話しは後です。それより速く行きましょう。緊急です」

そう言って新兵は指で自分達の背後を示した。仕方なく振り返れば、空には赤と黒の信号弾があちこちで上がっていた。




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