決意は胸に
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「ちょ、今の話し聞いてた!?102期は死ぬんだよ!?」

いち早く復活したハンジさんが、やっぱり慌てた様に私の肩を掴んで揺さぶった。
それに私は苦笑して答える。

「103期に入ったからって変わりませんよ。何れ巨人と戦って死ぬんです。訓練開始は早くて一年後。なら、私は今から訓練を受けて強くなりたい」

そう言えば、多大な爆笑がエルヴィンさんから発せられた。

「流石リヴァイの嫁だ。思い切りの根性が違う」

「はい?よ、嫁って…」

思わぬエルヴィンさんの冗談に、私はビックリして言葉に詰まった。まさかエルヴィンさんの中で私達が兄弟通り越して夫婦の扱いになってるとは驚きだった。

「実際君の家族に今の話しを聞かれてしまってね。ひどく噛みつかれたよ。無くした家族に変わって育ててくれたリヴァイと君は新しい親なんだと。それを両方奪う権利は俺たちにはないとね」

成る程、あの二人が私達をどう見てるかがよく分かった。後で躾決定だ。

「分かったら、そんな事言わないでせめて103期にしてくれないか?」

その言葉に、私は笑う。

「焚き付けたのは貴方達ですよ?死ぬなと言うなら始めから102期の話しなんてしないで下さい。私が親なら親として、あの子達と暮らして来た場所を取り返します。それに、例え周りが全滅しようとも、私は必ず帰ってきます」

だから、私の代わりに103期に入ろうなんて考えないように!

最後は後ろにも聞こえる様に大きな声で言うと、ガタリと音がしてドアが開く。


決意は胸に

「ひどいよカノン!側に居るって言ったのに!」

「カノンちゃん、何でそうやって何時も勝手に決めちゃうんだ」

ドアの外には私を追って来たのだろうルナとアウルがそこにいた。
そして、私に抱き付くと、涙目で訴えて来た。

「君たち何時からそこに…」

呆然とするグレイスさんの声に、アウルはエルヴィンさんを睨む様にして口を開いた。

「未成年の訓練兵団は志願制ってとこからだっ」

私は気配で何時からそこにいたか気付いていたので、驚かずに二人の頭を、撫でて宥める。まぁ、最初から聞かれたくなければ影分身を残しておけば良かったのだから、私はこうなると何処かで分かっていたのかも知れない。

「カノンちゃん、僕らは弱くないよ」
「私達、そんなに頼りない?」

拗ねた様な声に、私は苦笑すると、言葉をかける。

「二人は賢いし、強いよ。ただ、兵士に向いた強さじゃないだけ」

そう言うとゆっくりと顔をあげる二人に微笑む。

「巨人との戦闘は私達に任せて。二人は私達の帰る場所であって。そうすれば、私達は必ず帰ってくるから」

すると、二人はこうなると私が聞かないのを知ってる分、でも決してこうした約束を反古にもしないからと、しぶしぶながら頷いてくれた。
それに私はほっと息を吐く。
側に居て護ってあげられないのは悔しいけど、正直リヴァイだけを戦わせておくのは嫌だったからこれで良かったんだ。

「やれやれ、リヴァイへなんて説明するか…」

エルヴィンさんのそう苦笑する言葉に私は振り返る。

「それは予め覚悟のはずですよ」

「手厳しいな」

そうして私は第102期訓練兵団に加わる事となった。


そして一年後 ――――

「それではこれよりウォール・マリア奪還任務を開始する。各自訓練の成果を発揮し、任務遂行に当たってくれ」

全員敬礼!

指揮官の号令に私達は右手で拳を作り左の胸に添えた。これがこの世界での敬礼だった。

「本当に良かったの?」

「最初に約束破ったのはエルヴィンだ。だから今回は勝手させてもらう。それに今回の戦闘配置を考えたのはあいつだ。調査兵団から誰も出さないなんて公平じゃない」

私が言えた義理ではないが、リヴァイとの約束を破るなら、必ずそれ以上の結果を出すのが私の中で暗黙のルールだ。結果オーライとも言うけど、私は何度かそれをやって来た。そのプレッシャーのお陰か、今の所失敗はなかった。
リヴァイもそれを分かっているから、今回の事も不機嫌にはなったけど、咎めたりはしなかった。

「あいつらを置いて来たんだ。死ぬ事は許さない。ここの門は必ず守るから、だから帰って来い」

「大丈夫。この一年、生半可な気持ちで訓練してきたわけじゃない。必ず生き残って帰って来て見せる。だから、その時はあの子達に二人でただいまって言おう」

リヴァイの両手をとって勇気を貰う様に握る。

私達が出て行く時に門前に集まって来る巨人を倒す役目のリヴァイは先ず、最初の犠牲が出る所だ。かなりの覚悟が必要で、それは仲間が死ぬのも見ていかなければならないせい。私もここを出ればたちまちそれに晒される。

一年前力尽きてしまった時の事を考えると、今回はあの時に比べてスタミナもオーラも増量した。大丈夫。十分戦える。

そして何とか震える手が治まったので手を離そうとした所でリヴァイが手を握り返して来た。

「…いいか、確かにこの戦いの意味は別だ。兵士に志願したなら指揮に従うのが道理。だが、別に良い結果が出せるなら、それを優先させろ。どうせ戦闘に入れば巨人に対して正解なんてわからない」

「…はい」

私の迷いに気付いてくれたような言葉に、私は思わず上官にするように返事していた。

(でも、本当に)

時間になったので、それぞれ配置に着くため別れたが、ついその遠くなって行く背を思い出しにやけてしまう。

(かなり励まされた)

自分の方が前世の記憶もあって精神的には大人何だけど、元の性格上何時も一人では精神は不安定だった。それを見事にリヴァイは見抜いていた。

「あー、もう格好いいなぁ…」

呟いた声は誰にも聞かれはしなかったが、少し恥ずかしくなって笑う。この世界で初めて出来た家族が、リヴァイで本当に良かったと思った。



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