夢物語を語る
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昔、私は周りと同じだった。
家族がいて、友達と遊んで、勉強やらおしゃれとかもして、唯一恋愛に関しては免疫がなかったけど、それでも人並みに充実した日を過ごしていた。
だけど、それはある日起こった通り魔によって一変。刃物で四肢を切り刻まれ、腹部からも内臓が飛び出る感覚に吐き気を覚えた。
声は喉が痙攣を起こして助けを呼ぶことも出来ない。これだけ傷めつけられてそれでも意識を失わなかった私は、何処まで切られれば死ぬのだろう。体内から吹き出る血液以外の体液に、恐怖と羞恥がない交ぜになった感情が私を支配した。

その時私は思ったんだ、もういっそ…

"早く殺して"


夢物語を語る


気が付いたら知らない部屋のベッドの上だった。殺気がないのを確認してから空腹感と爪の延び具合から、一日以上が経っているのがわかった。

今まで三度死を経験したけど、選りに選って一番古く、最低な死に際の夢を見るなんて、かなり不快だった。

ふぅ、と息を吐いたところでガチャリとドアの開く音に顔をそこに向ければよく知る顔だった。

「カノンちゃん!」

私の名前を呼んで直ぐに抱き付いて来たのはアウルだった。私はそれを抱き止めて笑う。

「アウル、無事で良かった」

「カノンちゃんもだよ。起きたらカノンちゃんが倒れたって聞いてビックリした」

「三日間も意識不明だったんだよ」

「うん。ごめん心配させた」

アウルの後ろでルナの声がしたのでその方向を見ると、目に涙を溜めたルナがこちらを見ていたので謝る。

「ほんと、無茶するんだから…」

先生呼んで来るね。そう言ってルナは部屋を出て行った。
その姿を見送った私はどうやらルナの足の怪我は大した事無かったようなのでほっと息を吐き出した。

「アウル、ここって何処だか知ってる?」

「ん?ここは駐屯兵団宿舎の部屋の一つだよ?診療所は重症な人でいっぱいだからって、グレイスさんがこの部屋を貸してくれたんだ」

成る程、大した外傷のない私だから確かにその処置で問題ない。だけど、やっぱりそんな待遇をしてくれてるのは、グレイスさんのお陰な気もした。

「失礼するよ」

そこで部屋をノックする音と一緒に部屋に男の人が入って来た。
僅かにする消毒の匂いにこの人が医師かと推測出来た。

「医者のグリシャ・イェーガーだ。気分はどうだね」

「…問題ないです」

イェーガー先生の質問に対し、私は何て答えたら良いのか反応が少し遅れた。結果曖昧な返事になったので、適当に微笑んでおいた。

「そうか…仕方ない。家族を目の前で失ったうえに、通常ではあり得ない身体制限以上の力を使ったんだ。怪我は無いようだから、気持ちが落ち着いたら動いて平気だよ」

そう言ってイェーガー先生は私の頭を撫でると微笑んでいたけど、どこか暗い影が瞳にちらついていた。

「先生は、ご家族には…?」

「ああ、今も捜していてね。子供が保護されてると聞いて来たが、ここにはいなかった。でも、きっと生きてるさ。あの子は強いからね」

そうして今度は嘘なく笑ったので、私も笑い返した。

「先生のお子さんは無事ですよ。私の記憶が正しければ、駐屯兵団のハンネスさんに抱えられて避難していましたから」

影分身が刃を借りた兵士が抱えていた二人の子供。私は直接話しをした事はないが壁外に憧れてる医者の息子がいると施設にいた年上の子供達が笑って言ってたし、よくケンカしていたのを見掛けたので、顔は見知っていた。

「そうか!ハンネスと一緒だったのか。ありがとう。早速捜しに行ってみるとするよ」

そうして明るい表情になった先生にありがとうございましたと治療の礼を言って別れた。


「さてと、私はちょっと散歩でもしてこようかな」

ぐっと伸びをしてベッドから立ち上がると、アウルとルナが驚いたように声を発した。

「えっ!?ダメだよ寝てなきゃ」
「ルナちゃんのいう通りだよ!危ないよ」

あまりに必死に私を止めようとした二人に私は何かあるのだと察したけど、聞いた所で言わないだろう。口の固さは良く知ってる。

「身体に以上はないよ。流石にお腹減ったけど、昔じゃ当たり前だったし、水も飲みたいし、トイレだって行きたいんだけど…」

「そ、そっか!えと、なら私何か食べ物貰って来るね」

「カノンちゃん、トイレなら部屋出て直ぐ右にあるから迷わないよ」

私の当たり前な行動の理由に、二人は少しだけ落ち着いたみたいで焦りの気配が和らいだ。
まだ少し警戒はしてる様だけど…

「じゃ、行ってくるね」

部屋を出て私は気配を消すと、知ってる気配がする方へ歩いた。

部屋の前まで来ると、中には四人の人の気配がしていた。天井裏にでも回ろうかと思ったけど、全て知ってる者の気配で私は一般人だから良いかと思い、堂々とノックをした。

「はい」

返事が来たのでそのままドアを開けた。

「カノン!目が覚めたのか!」

中には約一年ぶりのエルヴィンさんに、私達を監視していた三人の兵士。内一人はグレイスさんだった。

「お久しぶりです。エルヴィンさん。はい、先程目を覚ましました。イェーガー先生にも問題ないと言われたので、お礼の挨拶に来ました」

にこり笑って言えば、エルヴィンさんは知り合いのよしみだから気にするなと笑った。

「そう言う訳にも行きませんよ。いくら地下街出身とは言え、貴重な兵士さんの時間を私達に三年も使って頂いてたんです。それで、何かありましたか?」

ルナやアウルのあの私を隠そうとする感じからしてこの三日間で何か聞いてしまったのだと思う。それでこの知ったメンバーがいるのだから何か知ってると考えて間違いない。

「気付いてたのかい?流石、と言うべきか」

驚いた表情をみせるエルヴィンさんに、周りの兵士達。ちらりとグレイスさんを見れば申し訳ないと言う様な目で私を見ていた。
どうしてそんな顔をするのか分からず、私はまたエルヴィンさんに視線を戻した。

「…後を付けられる事に関しては慣れてますから」

勿論誘拐未遂の話しだけど、それを言った所で何が変わる訳でもないので言わないけど。

「どうやら誤魔化しは効かないみたいだね。そうだな…今回の件でもう決定してしまったから君が落ち着いたら言おうと思ってた」

実は…

カノン、君を第103期訓練兵団入隊に推薦する

両手を机の上で組、背筋を伸ばして座るエルヴィンさんは正しく隊長格のそれだった。
そのエルヴィンさんから言われた言葉は、私の日常を戦場へと変える物だった。

「待って下さい。私が兵士に推薦される理由なんてありません」

兵士にならないのはリヴァイとの約束だ。リヴァイが巨人と戦い私達の家を護るなら、私はあの子達が大人になるまで側で見護るのが役目なんだ。
そう思った三年前。
今回の、巨人襲来がなければ私は今度こそ平和な暮らしを手にしていたに違いなかった。

「今回、君は家族を一人巨人に食われた。巨人が憎くはないのかい?」

エルヴィンさんの問いかけに、私はシェイマスの最期の光景を思い出す。
それに奥歯を、ギシリと鳴らす。

「…憎いです。だけど、だから私は家族から離れたくないんです。あの時側に居ればあの子は死なずに済んだんです。兵士になったら、益々側で護れない」

そう、断言した私にエルヴィンさんは真剣な顔になり言った。

「今回の件で領土は減った。これはまだ秘匿だが、奪還作戦なるものが結構される」
「エルヴィン分隊長、それは…!」

横にいた兵士の一人がエルヴィンさんの言葉を遮ろうとしたけど、エルヴィンさんはそれを手で制して続けた。

「ウォール・マリア出身の大人は概ね一年の強制訓練の後作戦を敢行。実質この大人達が第102期訓練兵団だ。訓練を受けた兵士さえ歯が立たなかった相手にたったそれだけの準備期間だ。恐らくほぼ壊滅が予測される。
よって、国は12歳以上の未成年を第103期訓練兵団として同時に募集を掛ける。こちらはこの奪還作戦で死ぬだろう多くの兵士を補う為の部隊補正だ。訓練期間は奪還作戦終了から一年半年だけ。通常三年要する訓練をその半分で修得してもらう。それに君を推薦したい」

無茶苦茶な話しだった。
全滅を分かっていて奪還作戦をするだなんて…
だってあそこはもう巨人の領域だ。
でも、私はそうする理由は知ってる。人の歴史では当たり前だった事だ。

「口減らし、ですか…」

「!」

兵士達の息を呑む気配が伝わる。

「"自分達の領土なのだから自分達で取り返してみよ"
国王を含めた兵法会議で国王が仰った言葉だ…」

名前は知らないが最初の頃私達を、監視していた調査兵団の人が国王の考えを教えてくれた。

「…どうして私を?」

もうほぼ決まっている様なエルヴィンさんに、リヴァイと違って目立つ事をしてないのに目をつけられた、それが不思議で質問した。

「君のそれは目立つ。だが、我々がリヴァイを調査している時の報告書には一切なかった。それは、君が我々が観察しているのを知って交わしていたからだと推測した。だから、君の事を調べる為に監視をつけていた」

それとはこの髪の事だと推測した私。ここまで言われて漸く彼等は私達家族ではなく私を監視していたのだと分かった。

そして私は、まんまと今回力を断片にしろグレイスさんに見せ付けてしまった。だからか。

「断る事は、出来ますか」

「103期は国王の希望によるところが大きい。今回のマリア陥落が堪えてる。国民に兵士の弱さを知られる訳にもいかないらしい。だが厳しい分、卒業できれば待遇は良いだろう」

「それでは質問の答えになってません」

エルヴィンさんの説明は、遠回し過ぎて分からない。ここに私の意志が存在するかが決められない。

「断ってもいいんだ」

すると、返事をしたのはグレイスさんの声だった。
それに、私がグレイスさんを見れば泣きそうな顔をしていた。

「あー、まぁ、ぶっちゃけ未成年の訓練兵団は完全志願制なんだよね。リヴァイだって断って良かったんだけど、やっぱカノンと同じように家族の為に成るの決めた訳だし。
エルヴィンはようするに君を調査兵団に勧誘したいだけさ。万年人員不足だし…
因みに私だったら今回は断るね。あんな下手したら死ぬかもしれない訓練を一年半で修得なんてきっと地獄中の地獄だ!兵士になるならその次の104期まで待つべきだと私は思うね」

あまりの空気の重たさにか、さっきまで喋らなかった眼鏡を掛けた兵士の人が、一気に私が聞きたかった答えを言ってくれた。
随分お喋りな人だと私は思った。

「ハンジ、余計な事まで喋る必要は」
「だってエルヴィン!リヴァイの時もそうだけど、もうちょいフェアに物事を伝えておかないと後で揉めんのは私達なんだからね」

ハンジと呼ばれた兵士の人の態度に、私は何だか可笑しくて笑った。

「何だ、笑うと年相応じゃん」

そう言ってエルヴィンさんとの言い合いを止めてハンジさんも笑った。

「私、決めました。102期の訓練兵団に入ります」

その瞬間当たり前だけど、全員が驚きの表情をした。


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