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施設の中は既に血の海だった為、私は手っ取り早く窓を開けると、冊子に足を掛けて飛び出した。隣の建物の壁へと足をチャクラで吸着させ、また反対へと蹴りあげて屋根へと登る。

「ちょっ、カノン!?」

「黙ってて。じゃないと舌噛んでも知らないよ」

驚きの声を上げるルナに黙ってる様に忠告した。上まで登りきると、兵士とアウルのいる場所へと目を向ける。

「!無事、だったのか!」

兵士の人が私達に気付いて驚きの声を発した。うん。約束はどうやらちゃんと守った様だった。
それに私は安堵して、そこへと跳躍した。

「っ!待て!危ない!」

兵士が制止の声を私に向けた。それは、私達と向こうの建物の間に巨人がいたからだけど、構わず私は強行した。

巨人が私達に向かって手を伸ばす。だけど、その瞬間その手はなくなり、次に巨人は倒れて行った。
辺りにズシンとその巨体が倒れた音が響く。

(グッドタイミング)

「えっ?」

たった今襲って来ていた巨人にルナの身体が強ばっていたのが分かったけど、突然死んだ巨人に呆然としてしまったのが気配で伝わって来た。
私はそれに苦笑するとその巨人を倒したその影を見る。
合わさった視線に私は頷いて兵士へ声を掛けた。

「この子以外はもうダメでした。直ぐに内地へ移動しましょう」

「分かった…だが、この子を連れて立体機動の移動では巨人へ対抗出来ない」

結界の中にいたお陰かいくらか落ち着き取り戻した兵士の意見に、私はちらりとアウルを探させる為に作った影分身を見る。その姿は正体が分からない様に前世で暗部をやっていた時の変化をしていた。黒のロングコートに狐面で顔をおおって隠したそれは怪しいけど、この際仕方ない。影分身にここは答えさせる。

「それなら、問題ない。自分が巨人を倒しながら誘導します」

「!?あ、あんた何者だ?」

影分身の答えに兵士は驚きの声を発する。

「さっきの巨人は貴方が倒してくれたんですか?」

兵士とは別にルナは別の事が気になったようで質問をしていた。

「人か、と言う質問ならそうです。君達を掴もうとしていた巨人に対してもそうです」

その答えに二人はやはり驚く。本来なら聞きたい事もあるだろうけど、今はまずい。だから私は強制的に話を進める事にした。

「ここから先に巨人はいる?」

「二人の子供を連れた兵士に刃を借りた時に聞いたが、この先で既に女性が喰われている」

要するにもう巨人に会わずに避難は出来ないと言うことだ。

「そんな…!」

言葉を失うルナに、私は悪戯に恐怖を煽ってしまったかとぐっと唇を噛む。それからまた言う。

「ここに居ても仕方ない。この人の案に乗って避難しましょう。おじさんもその子を持って移動なら出来るんですよね?」

「あ、ああ。分かった。だがその前にこの子をオレに固定しないと。万一落とす訳にいかない」

その言葉に私は頷くと、先程施設から出る際に持ったおんぶ紐でアウルを兵士に固定した。
その途中兵士が体格的に自分がルナを預かるべきじゃないかと心配していたが、私は立体機動の体重制限は知らないが極力軽い方がガスが保つからとそれを断った。

「行きます」

影分身の言葉に私は頷くと足にチャクラを集中させた。

ダン、タン

「前方右に巨人二体下に一体だ。下を直ぐに方ずける。そのまま正面に突っ込め」

「了解」
「えっ!」

暫くして二体の巨人が視界に入った。右の巨人は一体は建物の影に隠れているが、恐らく人を漁っているだろう。血の匂いがしていた。
兵士は見えていない為か、それとも突っ込めと言われた恐怖か驚きの声を発した。

影分身はそのまま一瞬スピードを私達より上げて下の巨人のいる隣の建物の壁へと足を着けたと同時に蹴りあげて項を削ぎ落とす。そしてそのまま次の建物の近くにいる巨人へ向かって行く。

私達はそのまま真っ直ぐ突っ切る。
通り過ぎる間にも影分身は三体目を倒していた。

「この先建物の影に六体ほど居る。向かって右側に大きいのが一体だけ。それをやるから、右回りで門を目指せ」

直ぐに戻って来た影分身の声に私は了解と言うと、右側にある建物に移動した。

「あ、何でそんな事分かるんだ?」

「…気配を読んでる」

影分身の的確な指示に兵士は僅かに混乱しているようだった。だけど動きだけは止めないだけまだ余裕があるなと思う。だけどこの先の光景は見ても平気かと考えて、私は予め声をかける。

「おじさん、一切巨人を見るなとは言わないけど、私の後に着いて来て。ルナは、私が良いって言うまで目を瞑ってて」
「ルートくらい自分で判断できる」
「カノンがそう言うなら、分かった」

この先巨人が多い理由を何となく察した私はルナに目を瞑らせる。素直に目を瞑ったルナを確認すると、私は兵士に再度言う。

「すみません、そう言う意味じゃなかったんですが…ただ、私のお節介です。必要なかったならのなら誤りますよ」

「見えた。六メートル級前後が五、十メートル級が一体で間違いない。二人は右へ。小さいのは無視しろ。もう間に合わない」

「そう…分かった。貴方の判断に任せる」

先頭に居る影分身の指示に私は頷くと小さく歯噛みした。助ける力が無いほど弱くなった自分が悔しかったからだ。

「?」

私達の掛け合いに意味が分からないと言う気配を出す兵士に急ぎますと声を掛けた。

そうして影分身がスピードをまた上げた。

影分身にやられた巨人が倒れる所を横切り様にちらりと私は横目でそちらに目を向けた。後で影分身からその光景を見せ付けられるけど、どうしても直接見ておきたかった。

「ごめんなさい…」

僅かにまだ息があるだろう下半身を咥えられた人。首のない胴体に、潰れて判別できない身体の一部など、何の意識もない一般人が死ぬのを見つめて僅かに眉を寄せる。

過去では散々人の命を奪った私だけど、それは戦いやその覚悟を持った相手との戦闘だったからだ。里の為に、仲間の為に戦って来たそれは何れも一方的な暴力ではなかった筈だ。

百年の平和の代償で、闘う事を忘れた人には痛々しい死に方だった。

先の兵士に言った言葉が私自身にも言える為に胸が痛い。自己満足だろうが、兎に角誤りたかった。

「うっ…えっ」

後ろで兵士が嘔吐する気配がした。幸い立体機動が巻き取りをしていた所だったので進む事は出来ていたが、次に着地した後に恐らく止まってしまう。
タン、と屋根に飛び写った所で案の定兵士は膝を着いてしまった。

(無理もないか…)

私は影分身に目をやると人を襲っていた巨人を二体ほど既に倒している所だった。だけど私の意図に気付いた様で仕方なく残りの巨人を風遁で切り刻み直ぐに戻ってきた。

「だから見るなと忠告しただろう」

兵士の現状に困った様に言う影分身に私はごめんと返す。

「こうなった以上仕方ない。暫く兵士は自分が連れてく」

危険だけど、このまま置いていく訳にもいかないので了承する。

「捕まれ、もうすぐここに巨人が二体接近してる。兎に角進むぞ」

兵士に声を掛けて背負うと影分身は直ぐに出発した。

「うっ、うっ」

「頼むから今はまだ泣かないでくれ。滲んだ視界じゃ一人でここを通り抜けれないだろ」

ここはもう、戦場になってしまったんだ。

兵士を諭しつつそう漏らした影分身に、私はだんだんと過去の緊張感を取り戻してきていた。

そうして進む中、影分身の先導がなくなったお陰で巨人と直接対面しつつも私は印を組んで切れ味の高い風遁で倒し、影分身は刃をふるって巨人を人を抱えながらも確実に狩って行った。
あまり鍛えて来なかった今生を思うとこのまま行くとチャクラが持たない。

そう思った矢先、漸く門にたどり着き避難する人に追い付いた。

「ルナ、おじさん!見て!門だよ」

「あっ!」
「助かっ…た?」

そこで何とかまだ生きてる人のいる場所まで来れた私達は喜びの声を上げた。だけど、門へと行こうとした瞬間、閉門しろと言う声が聞こえた。

「えっ…?」

きゃああああ

ドォオン、と門の閉まる音とまだ門の外に居た人の叫び声に私達は呆然とした。

「まだ人が残ってるのに…」

ルナの絶望する声が耳元で聞こえる。落ち着いて来ていた兵士の人もガクリと膝を折る。

「な、何だあれは?砲弾が効かない!」

すると門の付近で爆音と共に走る音がしたのでそちらを見ると、他の巨人とはまた違い、筋肉隆々の巨人が門へと突っ込んで行く姿が目に入る。

門の前に居た人はそれに当たられ吹っ飛ぶ。そうして大きな揺れがしたと思えば、またしてもウォール・マリアの門が壊された。

「もっ、門が…」

兵士の唖然とした気配。あの門を閉じる事なら土遁を使えば簡単だ。だけど、あの巨人に破られない程の強度のものを造り出すのは流石に出来ない。

「行け。ここで出来る限り巨人を食い止めるから、内地へ走れ」

すると影分身から肩を叩かれはっとした。

「確かにあの巨人さえ避けて行けば今ならまだ私達だけで行けるけど」

他の人はどうなる…
そう問い掛けをしそうになって影分身だって私自身だから同じ気持ちだと思いやめた。

「ごめん、体力根こそぎ食うかも」
「いい。散々思い知った。だから、逃げるしかない」

既に門前にいた人達は門を破った巨人がいるかもしれないが内地へ向けて走り出していた。
その後ろには、もう何体か巨人が近付いている。

「おじさん、どうしますか?」

「えっ、」

中にいた兵士達は数人だけが避難誘導で残り、他の兵士はどうやら完全に突破されてしまった門を放棄し、それを報せに馬を走らせて行ったみたいだった。
だから、同じ兵士として、どうするか問い掛けた。

「…君の監視がオレの任務、だった。だから、一緒に着いて行く」

「えっ、どういう事ですか!?」
「分かりました。なら、先ず門を通ったら立体機動に移って一キロくらい進みます。それから先は下を走ります。ガスの残りから考えてもうそれで限界でしょう」

兵士の言葉にルナは理由が分からず驚きの声をあげたが、私は時間がないので、ここからのルート確認に説明の時間を使った。

「!分かった。君の言う通りにしよう」

ここまで来たら流石に大人しくなった兵士に私は直ぐに背を向けて走り出した。

「カノンは、どうしてそんなに冷静なの」

「…危険な目になら何度だって合った事があるの。だから、今回もそれと同じだよ」

「…そう。何となく、リヴァイから聞いてたよ。ごめんね、守ってあげられなくて」

この世界に来てから虐待と誘拐程度の危険性だでは流石に苦しいかと思った言い訳だけど、どうやらルナは納得してくれたらしい。

「何言ってるの?お陰で家族を守れてるんだから、私は平気だよ。だから、無事に避難出来たらリヴァイも呼んで、シェイマスの供養してあげよう」

「…うん」

涙を流しているだろうルナに、私は笑って答えると、ルナも気持ち楽になったように返事をしてくれた。



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