その日
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リヴァイが訓練兵団に行って三年が経とうとしていた。
私は初めこそ年上には赤毛を詰られるし、年下には遠巻きにされていたが、最近漸く慣れてくれたか飽きたかで、仲良くとまではいかなくも、普通に接してくれるようになった。

いっそ変化の術を使っても良かったが、チャクラの無駄使いだから施設の外にいる時だけ黒髪に変化させていた。
そのお陰で外での誘拐は回避していた。
前は態と赤毛を晒して、悪巧みをしてくる奴等の財布をスッていたけど、折角此処に入れてくれたリヴァイとエルヴィンさんの為にも犯罪は避けておく。ここは地下街と違って無法ではないからだ。
と言っても以前だって相手の記憶を弄って私の存在を消して来たから結果的に、知ってるのはリヴァイとあの子達位だけど。

そう言えば、あれから何となく見張られてるが、エルヴィンさんは一体何が目的なのだろう。

その日

私からすれば気配が駄々漏れの彼らを撒くなんて簡単で、たまに影分身残して出かけても全く気付かれていない。
仕方なく一般人に変化して近付けば軽く流され逃げられた。

大方地下街出身だから警戒されているんだと思うが、他の三人には悪さしないようにきつく言ってあるし、もう三年だ。いい加減解放して欲しい。
はぁ、と思った所で、突然大きな揺れを感じた。
地震にしては前触れが無さすぎる。
そして感じた気配に外へと飛び出せば、そこには皮膚のない巨大な顔が壁の向こうに見えた。

外に居た人達は、その姿を呆然と見つめた。
私も一瞬、何かの見間違いかと思った程だ…だけど、その後訪れた大きな破壊音に、飛んでくる破片に瞬時に現実だと判断。目の前には壁方向より飛んできた破片が私に直撃したからだ。

「くっ!」

咄嗟に練をしてガードをしたけれど、脚の力が弱くて破片ごと飛ばされた。
前世でならやらなかったようなミスに、勘が鈍ったと内心で舌打ちしながら破片と何処かの家の瓦礫との間から抜け出す。どうやら破片ごと民家に突っ込んだせいで民家を破壊してしまったらしい。幸い気配を探った所留守のようで、押し潰してはいなくて良かったとほっとする。
それにしても、随分居た所から離れてしまったみたいだ。さっきまで居たパン屋は二キロ程先の角にあった。

「壁が破壊された!巨人が入ってくるぞ!」

近くで大人の慌てる声。叫ぶ周りの状況に、私も焦りを覚える。
確かアウルは今日出かけていた。壁よりまだ巨人の姿は見えないが、もしアウルが壁の方まで遊びに行っていたら、大変だ。こんな事なら前世みたいに欠かさず修行しとけば良かったと後悔した所で仕方ない。私は影分身を出してアウルを探しに行かせた。
そうして施設に戻ろうと走ろうとした所で前から来た子供二人にぶつかった。

「エレン!ミカサ!」

壁の方へ遠ざかって行く姿を見た次には、後ろで今の二人を呼ぶような子供の声が聞こえた。
気配が取り乱しているようだったし、恐らくあの子達も家に家族が残っているのだろうと推測した。

「兎に角、今は施設に戻る」

あまり目立ちたくはなかったけど、人混みを逆送するには時間が掛かると思った私は脚力だけで民家の屋根の上に上がるとその上を走って施設へ向かった。
大丈夫。あそこはまだ兵士が監視していたから、何かあっても助けてくれる。巨人の気配だと思うものが施設に段々と近付いているのを感じて不味いと冷や汗をかくのを何とか落ち着かせる。
だけど、施設に近付くにつれて胸騒ぎがした。あれだけの騒ぎがあるにしては、施設の子供を誰一人見掛けない。

(まさか、もう巨人が…)

鈍った勘にまた後悔しつつ走るスピードを上げて二分程で付けば、そこには瓦礫が屋根に当たった後だった。だけど、当たっているのは屋根をかすっただけで中は無事だろう。だけど、その近くには、既に巨人の姿が見えた。

うあぁあ
誰かの叫ぶ声が聞こえた。久しぶりにぞっとする悪寒に、私は助けに行こうと身を乗り出す。
すると腕を引かれ後ろに後退した。
まさか邪魔するとは思ってなかった為油断した。

「邪魔しないで!」

「何言ってるんだ!?死にたいのか!」

私の腕を引いたのは今日監視に着いていた男の兵士だった。上着からして駐屯兵だ。

「あそこに私の家族がいる!今こうしてる間にも死んじゃう!」

「行っても無駄だ!あの中には四体の巨人が入って行った」

黙って見ていたのか…!そう思う怒りが込み上げて来たけど、言葉に出さなかったのは、巨人の間に入って行こうとするアウルの姿を見たからだ。

「アウル!」

「おい待て!嬢ちゃん!」

そう言って兵士が止める声を無視して私はアウルが、巨人に見つかり、捕まる寸前でその身体を引き寄せた。だけど、タイミング悪く巨人の手が当たり壁に叩き付けられる。

「カノン、ちゃ…」
「くっ」

咄嗟に庇ったけど、アウルは頭を打ったらしい。私を呼んだと思えば気を失ってしまった。

「危ない!」

兵士の声が危険を知らせる。分かってるよ。巨人が手を伸ばしてる事位。
代わり身の術でそれを回避すると、巨人は私達の代わりに丸太を掴んでいた。

「おじさん、この子を頼みます」
「へ?あれっ!?」

背後に現れた私に兵士は驚いた声をあげて振り返った。

「診たところ軽い脳震盪です。命に別状はありません」

そう言いながら私は兵士にアウルを持たせて印を組み、結界を張った。

「いいですか、死にたくなければ私が戻るか、救援が来るまでここの半径一メートルから先には出ないで下さい」
「何をするつもりだ…」
「他の家族を助けに行きます。武器を貸して下さい」

そう私が告げれば、兵士はバカなと言う顔をする。

「君みたいな子供が敵う相手じゃない!さっきのはどうやったか知らないが危険過ぎる!」

そう喚く兵士に私は遂に怒りをぶつける。

「ふざけるな!人類に心臓捧げといて、目の前の人間助けるつもりがないなら最初から兵士に何てなるな!」

私の罵声に男は怯んだようで押し黙った。

「闘わないなら、その刃を貸して。後、あいつらの弱点は何処?」

大人しくなった所で私は兵士から武器を借りる。それと、巨人は確か再生能力があると聞いたことがある。だけど、兵士が勝つことが出来る以上弱点があるはずだった。

「項だ…後頭部より下の項にかけての縦1m幅10cmが唯一の弱点で、ここの肉を刃で削いで殺すと習った 」

そう言った兵士に分かった。と言って背を向ける。

「…っすまない」

聞こえた声に、私は振り向かずに答えた。

「…直ぐに逃げずに居てくれた事には感謝します。悪いと思うなら、その子だけは死んでも守って下さい」

そう言うと、私は堅をして施設に群がり始めた巨人へと突っ込んで行った。

先程の12メートル級の巨人が私に気付いた。武器が借りた刃しかない以上無駄に出来ない。延びてきた手を手首から切り落とし、再生する前にその腕を一気に登って後頭部に回り込む。落下しながら周で強化した刃で項を切りつけた。巨人の身体が傾き始めたのを確認して着地、施設の中に走った。
入り口に気配は二つ。入った瞬間背が見えた左の巨人4メートル級の項を削ぐ。
それから地を蹴って天井にチャクラで吸着後、もう一体の位置を把握。瞬身で背後に回ると斬り込む。
シェイマスとルナの気配を探り、寝室にあるのが分かる。どうやらまだ気配があることから無事みたいだ。だけどそこにももう巨人がいる。

音を消して急いで二階に上がって行くと、破壊されたドアの向こうに巨人の腕が見えた。攻撃回避の為に部屋に飛び込むと速攻で腕を切り落とし、振り返って首を跳ねた。
続け様に前から項が損傷するように真っ二つに切る。
後、一体と思った所でシェイマスの気配が突如ぶれる。

「シェイマス!」

ルナの叫ぶ声が聞こえる。しまった!どうやら隣の部屋からだった。部屋を出た所でルナの悲鳴がした。

「ルナ!」

今度は間違えずに部屋へ入れば正にルナが巨人の手に捕まれてる所だった。
次の瞬間私は巨人とルナの間に入って腕を切り落とた。倒れる前にルナを支えると、次いで身体を反転させて項を切る。倒れ始めた巨人を放って私はルナの容態を確認する。

「ルナ!」
「カノン…?」

呼び掛けに反応した事により安堵した。続いて部屋を見回す。

「カノン、シェイマスは、私を庇って…」

ポロポロと涙を流し訴えるルナに、嫌な汗が出る。ルナを一旦離し、私は窓付近に居るシェイマスへと移動した。

「シェイマス…?」

当たりは血の海で、腕のない身体がそこにあった。
(ああ、また私は大切な人の死を見なければいけないのか…)
震えそうになる身体を無視してシェイマスを抱き起こす。すると僅かに息をしているのが分かった。

「はあっ、はっ、だ、れ…?」

朦朧とした意識の中で必死に呼吸を繰り返しているけど、経験上もう助からないと分かってる。念能力に、身体を治す能力者がいるけど、私はそう言う念能力は持ち得ていなかった。
医療忍術だって、失った身体の再生には本人の何らかの身体の一部を使わなければいけない。
だけど、シェイマスは髪が短いし、血だって流し過ぎていた。

「私だよ。カノンだシェイマス」

「カノン、ルナは、」
「無事だよ。アウルもね!」
「そっ、か…よかった。なら、も、逃げろ」

止まらない出血。色を失っていくシェイマスに私は少しでも楽になるようにと幻術で痛みを錯覚させる。

「シェイマスも一緒だからね」

笑い掛ければ、シェイマスも笑い肺の空気を漏らす。

「ボク、の分…まで、…きろ」

そう言った後シェイマスは息をひきとった。
笑って死んだシェイマスに、私は泣きたかった。だけどここで泣いたら怒られるなと、思い、腰にある ポーチから巻物を取り出すと、シェイマスの血をすくい巻物をなぞる。
慣れた手つきで印を組めばポンという音と共にシェイマスの遺体が消える。

暗部をやってた過去、遺体を運ぶ時に自分で改良した術がまさかこの世界でも役に立つだなんてと自嘲する。

「カノン、今何をしたの?」

「シェイマスは安全に連れてく」

まだ混乱から落ち着きを取り戻していないルナに刺激を与えない様に出来るだけ穏やかな声色で話しかける。

「シェイマス、何か言ってた?」

「自分の分まで生きろって…」

私の言葉にルナはシェイマスの死を受け入れているらしく、冷静に話している。
それに対し私はシェイマスの最期の言葉を伝えた。

「うん、分かった。なら、カノンは逃げて」

私の返事にルナは頷くと、真剣な顔をして私に向かって逃げる様に言ってきた。
それに対して私は驚く。それと同時に軽い怒りを覚える。

「ルナ、あなたも一緒だよ。置いてく何てしない」
「ダメ、カノン。お願いだから逃げて」

私が言うと、顔を歪ませてルナは懇願してきたので、私は何かおかしいと感じた。

「…見せて」

「!」

主語も言わずにルナへと手を差し出せば、びくりとするルナ。やはり、先程の巨人によって怪我をしたらしい。
軽く身体に目を通せば、右足を庇っているようだった。
私は無言でルナの前で背を、向けてしゃがむ。

「乗って」

「いや」

「なら、乗るまで私は動かない」

「っ、それじゃ、二人共…」
「大丈夫。外には兵士の人がいるから、助けてくれる」

私の強制の言葉に最初渋っていたが、漸く納得してそろりと背に手を伸ばしてくれたルナに、しっかり捕まってる様に言うと、近くにあったシーツを裂いて私とルナを固定した。

(さて、逃げるか)




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