日常の最期
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「行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」

リヴァイを勧誘してきた兵士はエルヴィン・スミスと言って、本日リヴァイを訓練兵団に入団させる為に迎えに来た。それと一緒に、私達の上に出る許可まで出してくれたようだ。
今、私達はウォール・マリア、シガンシナ区にある孤児施設の前でリヴァイの見送りだ。

リヴァイが兵士になると言った時、やっぱり皆驚いて、泣きそうになったけど、でもリヴァイの考えと、私との約束を皆ともして今日に至った。

日常の最期

「エルヴィンさん、ちょっと」

皆がリヴァイに抱き付いている時に、私はリヴァイの上司になるだろうエルヴィンさんを呼び出す。

「君は確か…」
「カノンです」

私の頭を見て目を見開いたエルヴィンさん。さっきまでフードを被っていたから仕方ないかと思い、直ぐに名乗った。

「見ての通り、私は恐らくあの子達以外馴染めない。だけど、此処に連れて来て頂けて感謝してます」

私の言葉に顔を曇らせたエルヴィンさんだけど、私は地下街よりも快適になった暮らしを考えれば些細な事だから礼を言えば、遠慮がちに笑ってくれた。

「地下街は君たちのような子供には辛い環境だ。本来こういった施設にすぐに入って貰うんだが、憲兵もあそこには近寄らないからね。遅くなってすまなかった」

何故か謝るエルヴィンさんに、私は首を傾けた。

「仕方ないですよ。人は皆平等なんかじゃないんですから。生まれと出会いで環境なんて変わるんです。貧富の差は文明の、国のある証拠ですよ。だから私達は与えられ、得られる最大限の物で生活してきたんです。だからその事について謝らないで下さい。まあ、でも…」

私達の暮らしを援助する代わりにリヴァイの兵団入りを取り付けた事に対して謝っているなら、聞き入れなくはないですけど。

にっこりそう言えば、エルヴィンさんは固まってしまった。

「あはは、冗談ですよ!そんな事しなくたっていずれリヴァイは巨人を絶滅させるって言い出してたんです。だから、今のはそれをちょっと早めた貴方に対する八つ当たりって奴です」

笑い声を上げた私にエルヴィンさんは虚をつかれたみたいで呆けてしまった。
うん。暫くリヴァイに会えないんだからこれくらい許して欲しい。

「おいおい、大人をからかうな…」

復活したエルヴィンさんに私はすみませんと軽く笑う。さて、和んだ所で本題を言わないと。

「…リヴァイは血の繋がりはなくても私達にとって家族です。それを託すんですから本人は良くても周りはそうじゃないって頭の片隅にでも良いので覚えておいて下さい。只でさえ今の調査兵団は敵を作りやすいんですから…」

そう言えばエルヴィンさんは私の変化に驚いたようだけど、今度は真剣だと伝わったみたいで真顔になり、頷いてくれた。

「分かった。良く心しておこう」

そろそろ戻らないとリヴァイ達も変に思うだろう。 そう言ってリヴァイ達の所に戻る途中で、私はエルヴィンさんに聞こえる位の音で声をかけた。

「さっきの言葉、貴方にもですよ?例え家族でなくとも人一人の命です。死んで良い命なんてないので無事で居て下さい。知り合いが死ぬのだって気持ち良いものではないんですから」

そう伝えると、私はエルヴィンさんを追い越して見えたリヴァイ達に抱き付きに行った。

* * *

「妙に大人びた子だな」

「あいつの事か…」

訓練兵団宿舎に向かいながら、エルヴィンと慣れてないからと馬を一緒に乗ったリヴァイ。
そんな道の途中エルヴィンは先程のカノンとのやり取りを思い出し、リヴァイに話し掛けていた。
リヴァイは直ぐにエルヴィンの言う子が誰だか察しがつき何時もの無表情で相槌をした。

「カノンと言ったかな。君を探す上で彼女の事は何も出て来なかったが、あれは目立っただろう?」

調査兵団と憲兵団の間に生まれた子息が地下街で有名なゴロツキになっていると噂を手にしたのは一月前の事だ。それからリヴァイと言う少年が今どう生活しているか探った時に、年の近い子供達といるのは分かったが、あんな赤毛の少女が居ると言う報告は受けなかった。
あれ程までの存在感に、恐らく頭の回転だって良いだろう少女。
リヴァイとつるんで居る子供達の情報の中に赤毛なんて目立つ特徴が漏れるなんて妙だと感じた。

「カノンは俺達の中でも一番ろくな目にあってない。だから頭もキレるし、妙に鋭い。ケンカしてるとこは見たことねぇが、身のこなしは軽い。普段はフード被って男物の服着てるし気配に鋭いからな。あんたの部下って奴、撒かれたんじゃねぇか?」

そう淡々としたリヴァイの説明に、エルヴィンは驚き、次いで息を飲む。そんな子供がいたと言う事実に僅かに高揚するエルヴィン。

(まさか、こんな所で良い人材がこんなにいたとは)

「ダメだぞ」

早速帰ってから新たにカノンについて調べる算段をしようと考えたエルヴィンだが、突如掛かったリヴァイの静止の声に思考を中断させられた。

「そいつはやれない。仲間(地下街)はいくらでもくれてやるが、家族(四人)は巨人の餌にはさせねぇ」

そう言い切ったリヴァイに、エルヴィンは四人と別れる時のリヴァイの顔を思い出す。
無愛想で目付きの悪いリヴァイしか見たことのないエルヴィンが初めて見たリヴァイの他の表情は愛しい者を見る優しい表情だったのだ。

"血の繋がりはなくても私達は家族です"

そう言ったカノンの表情もまた、リヴァイと同じ顔をしていた。

「そうガツガツしなくても、俺がどの兵士より良い働きしてやる。だから、カノンの事は忘れとけ」

そう言って不敵に笑うリヴァイの手が僅かに震えてるのは、やはり未知のものに対する恐怖故になのだろう。
大人でさえ命懸けなんて躊躇する調査兵団に、リヴァイはもう所属が決まっているのだ。
自分で引き抜いて来たとは言え、まだ子供と言える年齢のリヴァイにかなりの期待を掛けすぎているのは理解している。だけど、だからと言って優しくしようとする位なら最初から止めておけば良かった訳だ。
だから、少年には悪いが、エルヴィンはその震えは見なかった事にした。


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