3
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気付いた時には魔神がお母さんに取り付いていて、出ていくよう無我夢中で叫んでいた。
それでも尚魔神は強く、お母さんに兄さんと呼ばれた祓魔師でさえ退ける為にはお母さんを犠牲にしなければ助からなかった。


悪魔な姉-3-


「藤本くんがいながらにして、サタンには何も出来なかったとはね」

「…ああ、激しく自分がムカつくよ」

あの後やってきたお母さんのお兄さん…おじさん、でいいか。の仲間だろう人達がやってきて、事後処理をしていた。その間私と燐はおじさんに抱っこして連れ出され、何だか怪しい部屋に連れて来られていた。
おかしい…病院にいたはずなのに、全く別の空間に移動してる。ドアをくぐった時の一瞬感じた違和感、おそらく何かしらの空間変換をしたんだろう。
石作りの壁、見えないけど床もきっと同じだろう部屋の中心に、机があるようで、そこに私達は寝かされた。

「あぅ」
(燐)

同じ状況にある燐が気になって隣を見れば、すやすやと眠る燐の姿に、少なからずほっとしてそのまま見つめた。ふと、今まで気付かなかったが、燐の耳が僅かに形が普通でない事に気付いた。

(えっ…)

それに驚いていると、おじさんが燐の服をはだけさせた。

しゅるん

途端に出てきた細い尾。遊ぶようにおじさんの腕に巻き付いた。

(ええっ、)

何かが可笑しい、そう思っていた。生まれた時の周りの反応を今なら理解できた。

(あれは、きっと悪魔の尻尾)

つまり私達は悪魔と人間の混血なんだ。しかも、魔神がいたって事は、そういう事なんだ…

雪男は、平気だろうか。
ここにいないと言う事は、あの子だけは血を継がなかったんだとは思う。だけど、これから私達は処分されるに違いないから、一人になってしまう雪男が、心配だった。

「では、始めましょうか」

まるでサーカスにでもいそうな顔つきの英国紳士風の男の声に、おじさんは頷いて剣を取り出した。

「…」

おじさんが何かを唱えて燐のお腹の上に剣を翳す。きっと神父さんだから、弔いの永唱何だと思う。

(ああ、ごめんなさい)

悪魔の血を引いてしまってごめんなさい。決して人間に害になるつもりはないの、だから、赦して。生まれたばかりの命をどうか奪わないで。

ぼうっ

一気に吹き出す青い炎。燐から燃え出ている。
ふと、これだけの炎なのに、全く熱くないのに気付く。

ぼわっ

そして一層大きな炎が上がったかと思えば、かしゃんと剣を鞘に収める音が響いた。

はっとして燐を見れば、先程と代わらずすやすやと眠る姿がそこにはあった。ただ、先程まであった尻尾と耳の尖りが無くなっていた。

「流石、藤本くん。見事な封印捌きです」

男がおじさんに賞賛の声をかける。するとおじさんはまだ険しい表情のまま今度は私に向き直る。

「まだ安心するのは早い。本題はこっちだ」

軽い調子の男に対し、おじさんはあくまで冷静を保つ様にして話しを返している様に見える。

ふと燐の時とは違い、刀を二本取り出した。退魔刀、ただでさえそれは強力な物なのに、何故二本なのか?理由は直ぐに行われた封印術で理解した。

ちゃき…
二本の鞘を抜き私にその切っ先を向けて詠唱を始める。

「汝陰陽に使える者なり。陰を陽で制し、また陽を陰で牽制する」

ぼわり

辺りに青と黄の炎が上がる。熱くはない。それらはおじさんが持つ退魔刀にそれぞれ色違いに入って行く。同時に私はだんだんと力が抜ける感覚を覚える。

どくん

と心臓が一瞬妙な鼓動を打った。私はその感覚に覚えがあった。そうだ、あの時、悪魔に殺された時に感じた身体の死ぬ感覚と同じだった。

「うっああああっ」

こわい、こわい、こわいこわい
怖い怖い怖い怖い、恐い

頭の片隅で死ぬことに対する恐怖の、言葉がこだまする。途端に身体に熱が生まれた。炎の出力が上がったのだ。

(あの刀に意識を持ってかれたら終わり)

そう思った私は泣く事で意識を繋いだ。

「おお、藤本くん無理はいけませんよ。それではその娘は死んでしまう」

「途中で止めたらもっと危険だ!このまま行く!何とか堪えろ息吹!」

おじさんの切羽詰まった声が聞こえるけど、私も正直切羽詰まっていた。燐の時よりも盛大な炎に撒かれて熱くはないが、混じりあった炎が刀へ分かたれる様に身体の中でうごめく感覚は身体を裂かれている様な痛みだった。

ただの赤ん坊ならとっくに死んでるだろう。

「あああああっ」

(暴れるな)

炎の何かに訴える様に私は意識的に炎の力をコントロールしようとした。
するとうごめいていた炎がするりと別れ二つにそれぞれ出て行った。

ぼうっ

すると大きな青と黄の炎が舞い上がり刀に収まった。途端に先程までの痛みが無くなり身体が重たくなった。けれど動悸は治まり呼吸も安定した。あった筈の身体の違和感が無くなった。恐らく私にも尻尾があったのかもしれない。

カチン

そうして今の封印の過程で体力を消耗した私は、刀を鞘に収める音と同時に遂に意識を失った。



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