4母親を失った私達はその後おじさんのいる修道院に入る事になった。
悪魔な姉-4-
「お帰り、燐」
「…ただ、いま」
帰ってきた弟の燐にニッコリと笑顔で出迎える。血の臭いがする事からまた喧嘩したのだと気付いたので、私は燐にデコピンをお見舞いする。
「いっ…!でぇっ!?」
あまりの痛さに涙目になりながらうずくまる燐に説教は後にするかと考え取り敢えずお湯で濡らしたホットタオルを頭から被せる。
「ほら、お腹空いたでしょ?顔拭いて、手洗ったら食堂おいで」
ぽんと頭を叩いて燐の腕を引いて立ち上がらせると背後に回って背中を押した。
「お、おう」
何時もの事だからされるがままの燐にクスリと苦笑し、私は洗面所に行った燐を見送る。
「さて」
くるっと振り返ったところで待っていた雪男に私は笑う。
「説教は獅郎さんに任せて雪男は後で手当してあげて」
「仕方ないな」
そう言ってため息を吐いた雪男に、何だかんだ言っても雪男も燐には甘いなと思いつつ私は微笑んだ。
* * *
「おう燐、帰ったか」
燐が食堂にやって来ると直ぐに獅郎さんが燐に声を掛けた。他にも皆がお帰りと言う中、燐は席に座りながら気まずそうにしている。
まあ、自業自得なんだから、仕方ない。大人しく怒られなさい。
「兄さんまたケンカしたんでしょ。ケガしてる」
黙って傍観する私と、獅郎さんが気付かず、燐が何も言えないのに呆れた雪男が告げ口をした。
「なにッ、燐ッ!お前はどーしてそうケンカッ早いんだ!…手ェ出す前にまず考えろって言ってんだろ!!」
すかさず獅郎さんは燐に箸を投げつけ説教を始めた。毎度のことながら燐は本当に獅郎さんに心配されてるなぁ、と思う。原因なら分かってるけど、それは私が教えて良い事じゃない。
「俺には後見人としてお前らを一人前にする責任があるんだ!」
獅郎さんが紹介してきた仕事を拒否する燐に、獅郎さんはついにキレたようだ。だけど、その言葉は私達を気にかける言葉で、私は思わず苦笑する。
やっぱりお父さんみたいだなと嬉しく感じた。
「いずれお前は修道院を出て一人で生きてかなきゃなんねーんだぞ!!」
「…んなことッわかってるよ!!!!」
バガン
「!」
一瞬、何かの力を感じたと思えばストーブが爆発した。
「わっ、だ大丈夫か!?」
「あ〜、鍋が……」
修道院の先輩方は、驚きの声を上げていたけど、そこまで変な勘繰りもせずにそれで収まった。
だけど、その時ちらりと見えた獅郎さんは、何か考え込む表情をしていた。
「雪男、後で燐を手当てしてやれ」
「…はい」
お客さんが来たらしく、呼ばれた獅郎さんは、雪男に燐の手当てをするように声を掛けると部屋を出て行った。
歯切れの悪い雪男の返事にちらりと雪男を見やれば、複雑そうに眉間に皺を寄せている。
やれやれ、本当、真面目君だな、下の弟は。
雪男は幼い頃から燐と私の影響で悪魔が見えていた。それは、見えていた私だから分かった。雪男のびくつくその時は必ず悪魔や、幽霊の類いがいたんだから。それを獅郎さんは気づいてエクソシストになる道を雪男に示した。
強くなるために雪男はその道を迷いなく選んで、頑張っているのを知ってるから、無理し過ぎないように私は気にかけている。真面目だから、力みすぎる癖をどうにか緩ませなきゃならないからだ。
一方で燐は見えてない。おそらく力を封印されてるせいだと予想してる。
だから、悪魔の性質を持つ燐は怪力で、その加減が幼児だった頃は出来なくて、他人を怪我させるなんてしょっちゅうで、困った。今は、喧嘩が多いから、怪我させてはいるだろうけど、昔程の力を使ってる訳じゃないだろう。じゃなければ燐が普通の人相手にあんな怪我を負う筈はない。まぁ、喧嘩は良くないけど、理由なく怒る子じゃない。後で訳は聞いてあげよう。
「燐、雪男、私師匠の所へ出掛けてくるから」
朝食後、私は稽古をつけてもらってる師匠の所に行く為二人に声をかけた。
「いってらっしゃい姉さん」
「ん。気をつけてな」
雪男は燐の手当てをしつつにこやかに。燐は説教が効いてるのだろう、不貞腐れながらも私を心配する気遣いを見せてくれた。
「夕方には帰って来るから、また後でね」
ひらひらと手を振って私は修道院を出た。
「姉さん何で高校行かないのかな。僕より頭いい筈なのに…」
「…そりゃ、俺のせいだろ。雪男と違って手の掛かる俺がいたら、面倒見の良い姉ちゃんの事だから、就職するって言うだろ。ここにだって、ずっと居られる訳じゃないし、資金援助も、15歳になったら切られるんじゃあな」
「兄さんだけじゃないよ。僕もだよ。奨学金で行くから、その分稼ぐって言ってたし…」
はぁ、と二人分のため息が食堂に落ちた。
***
「敵の数は? 」
「右前方に二、左後方に一」
「距離は」
「100強。行きます」
お札の着いたクナイを三つ取り出すと私は先ず接近してきた前方の敵へ投げる。
「グアア」
一体の気配が消えたが、もう一体は前の悪魔を盾にして防がれた。
「加勢するか?」
「まだ大丈夫です」
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