2親友であった彼の子が生まれた時、魔神を憎まずにはいられなかった。
悪魔な姉-2-
魔神に憑依されたあいつとの子を妊娠した。
あいつの妻になった、ゆりからそう連絡がきたのはあいつが亡くなってから二ヶ月が経った頃だった。
「普通の妊娠じゃない。危険過ぎる」
「…それでも、あの人が遺してくれた絆を、私は手放せないの。分かって?―――兄さん」
そう言ったゆりは、昔から変わらない頑固さで、堕胎する事を拒んだ。
「大丈夫、きっといい子に育ってくれるから」
そう言って笑ったゆりにオレはそれ以上反対は出来なかった。
それなら、万一危険な物になった時直ぐに始末してしまえばいい。そう思ったからだ。
* * *
「女の子が息吹、上の男の子が燐、下の男の子が雪男よ」
にこにこ、そう効果音がつくように笑うゆりにオレはつい苦笑いだ。こっちの苦労も知らないで…。
「ゆり、燐と息吹を貸せ。そいつらの力を封印する」
「えっ」
楽しそうに笑っていた顔が一瞬曇る。
「人間として育てる為だ。燐は降魔剣、息吹は退魔刀にその炎を封印する」
手に入れる為に苦労した。息吹のは二刀になるが、力の気配が違うからそれでいい。
「っ、わかりました。お願いします。兄さん」
理解したのかゆりは真面目な顔つきになり頭を下げてきた。
「雪男だけはどうやら未熟児だったおかげでサタンの力は受け継がなかった様だ。だが、二人の魔障を受けているから、返って二人より苦労するだろうな…」
悔やむ様にそう伝えればゆりは微笑む。
「大丈夫。三人で支え合って強く生きていくわ」
そうして二人を預かろうとした時、ゆりの気配が変わった。
『寄越せ、お前達にそいつはやらん』
目は充血し、コールタールが一気に群がり腐敗臭が漂う。
「まさか、魔神っ…!」
いきなり現れた魔神に、オレは身構える。だが近くには、赤子がいて攻撃ができない。果たして、赤子に攻撃がきかないなんて保証はない。しかし、魔神に取り憑かれてしまえば、肉体が壊れてしまう。
「っ、汝人にあらず汝神に属する者であった…」
『ぶはっ、効かんぞ祓魔師、そいつらは虚無界へ連れていく』
永唱を開始したところで魔神は笑い出す。それもそうだ。魔神を倒した事のある祓魔師などいないのだから、何が効くかなんて分かる者はいない。どうするか…
「おぎゃぁああ」
すると突然、眠っていた筈の息吹が泣き出した。魔神の血をひく赤子の一人。
『っち…またしても、邪魔するつもりかイヴ…』
「息吹?」
息吹が泣いた途端に緩む魔神の気配。そしてゆりの意識が僅か戻ってきた。
「ゆり!」
『くくっ、益々その力興味深いな…「っ、兄さん!私を殺して」
魔神が話す中にゆりが支配されながらも言葉を発してきた。だが、その内容にオレは凍りついた。
「ゆりっ、お前何を言って…」
「おっ…、願いします!この子達を魔神には、渡したくないの…」
必死に意識を保って言葉をかわそうとするゆりに、オレはぐっとキリクを握り締めゆりに狙いをつける。
『ゆりめっ、オレを抑えようなんて猪口才な…祓魔師め…迷っているようだな?なら虚無界門、開かせて貰うぜ』
魔神とゆりの意識が混濁する中、オレは決心が着かずに動きが止まっていた。どうやらそれを魔神に見抜かれ一気に危険が高まってしまった。
ぶぢっ、ぶしっ
ゆりを乗っ取っていた魔神はその手の指を片方の手で引き契り出した。
「…っ!やめろっ!!」
どんっ
その瞬間体は動き出し、思い切りオレは胸にキリクを突き刺していた。
『「ああぁあっ」』
肉体の急所を刺され、その命が終わりを迎えた。叫ばれた悲鳴はゆりの物か、魔神の物か、もはや判断できない。
「兄、さん…あ…子達、よ…しく…願い、ます」
最期にゆりはそう笑って息を絶やした。
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