腐敗系男子


 素晴らしき媚薬効果

 始まりは、友人兼ルームメイトである山下のお節介だった。

「高座、これあげる」

 そう、山下は見るからに怪しい小瓶を差し出してくる。

「……なにこれ」
「媚薬だって」
「媚薬?」
「知り合いに何個か貰ったから高座にもお裾分け」
「どんな知り合いだよ」

 確かに山下の友人には様々なタイプがいると思ってはいたが、媚薬をプレゼントする知り合いはどうなんだ。思いながら、受け取ったその小瓶を傾けてみれば中身がゆっくりと瓶に合わせて傾いていく。とろみがあるようだ。

「あ、変なのは入ってなかったから大丈夫だよ」
「しかもお前使ったのかよ」
「いやー盛り上がった盛り上がった。一気にクリアしちゃったよ。エンディングまでに十発イッちゃって、そのまま寝落ちしそうになったからね」

 おまけにエロゲーでの自家発電に媚薬使用とはなんと贅沢な……。
 するのはいいがそのまま寝落ちした場合それを発見するの俺なんだからな。もっと慎重になってもらいたいものだ。
 とはいえ、媚薬を貰ったところで俺には無用の長物である。

「つか媚薬貰ったところで、使い道ねーし」
「ソロプレイも楽しいよ」
「ハマったらヤバそうだから自分で使いたくねえ」

「うわ高座それってわりとゲスじゃない?」とかほざく外野はさておき。

「でも高座媚薬モノ好きじゃん、少しは興味あるんじゃないの?」

 そうにやにやと厭な笑いを浮かべる山下。こいつなんで人の趣味知ってるんだ。と思案し、そして気付く。
 もしやこいつもしかしてベッドの下に隠しておいた媚薬特集アンソロジー勝手に見やがったな。

「いやーまさか高座がこんな涼しい顔してあんなえげつない趣味してるとは思わなかったよ。頑なに嫌がる相手を薬漬けで理性壊させてもうドロドロのぐっちゃぐちゃに犯しまくるなんて……和姦派の僕には理解できないな!ああ!いやらしい!」
「鼻血出てるぞ」
「おっと失礼……」

 なにが和姦派だ、凌辱系のエロゲばっかやってるくせに。この前通販していたゲームも凌辱輪姦ものだっただろうが。……と言いたいところだが、そんな底辺の争いをしたところで争いしか産まない。正直山下の言うとおりではある。本人の意志関係なく快楽へ落とすというシチュエーションはそれはもう大好きだ。普段、性に関して厳格な人間であればあるほどシコリティが高い。……勿論二次元限定の話だが。

「ついでに余ってるからもう一本あげるよ。自家発電用と資料用、これなら困らないでしょ」

 いや使い道に困るわ。
 が、まあ、貰えるものは貰っておくというのが俺の主義だ。
 ひとまず、これから学校があるのでまあ使い道は後々ゆっくりとで考えようということになり、制服のポケットに突っ込むことにした。


 例のごとく山下とともに食堂へと向かう。
 朝は戦争だ。腹を空かせた獣達を飯を奪い合う恒例行事を乗り越え、なんとか自分の分の朝飯をゲットした俺と山下は空いていた席に腰を落ち着けた。
 食堂で飯を食いながら、俺は頭の片隅で例の媚薬の使い道についてまだ考えていた。
 どっか美少年がいれば盛ってやろうかと思ったが、見渡すばかり男臭い連中しかいない。
 そういうやつらに媚薬盛ったところで筋トレで発散するのが目に見えていた。それもそれで面白そうだが無駄遣いこの上ないということで却下。

「山下、はよー」
「あ、おはよー」

 向かい側、座って朝食を食べていた山下に、通りすがる生徒が口々に挨拶をする。
 山下の顔の広さは本当謎だ。まあ確かに悪趣味極まりない性癖を隠せば普通にいいやつだ。あと外面がいい。
 例えば、わかりやすい例でいうと鹿波だ。あんな典型的な不良ですってタイプも山下の友達だったりするのだから分からない。
 思いながら、そのまま隣の空いたテーブルに固まって座る連中を一瞥する。
 ピアスに派手髪、大股開いて大きな声で離し始める連中は正しく鹿波タイプだ。
 あーこういうやつ、そうそうこういうやつだ。苦手なんだよな、と思いながら視線を逸らそうとしたとき、その中に見覚えのある顔を見つけた。
 赤茶髪に短い眉。目付きの悪いその眼は、確かに俺の方を向いていた。鹿波だ。
 噂をすればなんとやら。まさか朝から出会すとは。
 食べていたものが喉に詰まりそうになり、慌てて水を飲んだ。
 恨めしそうな顔をしてこちらをガンたれていた鹿波は、目が合うなりすぐに顔を逸らし、そして隣に座っていた友人らしき生徒と雑談を交わし始めた。

 鹿波とまともに顔を合わせたのは俺が入院時、やつが見舞いにやってきたとき以来だろう。
 とはいっても鹿波が俺を病院送りにした張本人で、見舞いというよりも教師に引き摺られて嫌々やってきただけだが。
 おのれ、ここであったが百年目!……と言うわけではないが、『鹿波てめえこの野郎』という気持ちでいっぱいになる。殴られたのも病院送りにされたもの、そこで更なる危害を加えられたのも山下曰く自業自得らしいがそんなの知ったこっちゃねえ。あいつは俺の敵だ。

「鹿波、おはよう」

 そんな俺の気持ちなんて他所に、山下は離れた位置に座る鹿波に声をかける。
 急に名前を呼ばれ、鹿波は少しだけ狼狽えた……ように見えた。
 かくいう山下も、先日俺と一緒に鹿波に病院送りされたやつの一人なのだから。もしかしたら鹿波の中で元友達に降格されてる可能性だってあるわけだ。やーい無視されろ無視されろもしくは蹴りを入れられろ、と、思ったが。

「……はよ」

 そう小さく呟けば、鹿波はすぐに山下から顔を逸らす。
 ……なんだそのちょっと嬉し恥ずかしの初夜を迎えた翌日、顔を合わせるのはちょっと恥ずかしいみたいなそんな挨拶は。俺が挨拶したら問答無用で殴りかかってくるくせにこいつなんだ。

「やったー、仲直りしちゃった。高座悪いね」
「どこがだよ」
「わかってないなぁ高座、あれは鹿波なりの仲直りだよ」

 鹿波を売ったやつが友情を語るなとつい熱くなってしまいそうになるが、ここで討論をしても仕方ない。
 もしかしたら、人前だから仕方なくというあれという可能性もある。そうに違いない。そうだと言ってくれ。

「……よう、鹿波」

 というわけで山下に倣って俺も爽やかな笑みで鹿波に挨拶をすることにした。

「話し掛けんじゃねぇ、糞が!」

 やった!鹿波様に糞って言われた!
 と、喜ぶほどマゾヒストではない俺は、もちろんあからさまな山下との差別に不満を覚えないはずがない。ぷいと顔を逸らす鹿波。糞もとい俺は向かい側で噴き出す山下の脛を蹴り上げた。

 ◆ ◆ ◆

「鹿波の野郎、ぜってー泣かす!」
「高座、雑魚キャラみたいだよ」
「なんでお前がよくて俺がダメなんだよ。差別だろ!おかしいだろ!」
「寧ろ妥当と思うけどね」
「なんだと!!」
「ほらほら、高座早く行かないと遅刻しちゃうよ」

 そう、山下は逃げるように先を歩いていく。その後を追おうとしたときだった。
 廊下の奥から馬鹿でかい笑い声に混じって騒がしい声が聞こえてくる。
 聞き覚えのあるその声は間違えない、先ほど食堂で隣のテーブルを占拠していた不良集団のものだ。

「つかあれ、鹿波どこ行った?」
「便所便所、先行っとけって」
「まじで?それ長くなるって言ってるようなもんじゃん」
「覗いてく?」
「ばーか食後に便所の話で盛り上がんなっての」

 よくもまあ他人の排泄事情でそんなに盛り上がれるものだ。正直、うるさい声といいその内容といいあまり気がいいものではなかった。
 ……ん?鹿波がトイレということは……今はやつは一人ということか。そこで、俺はポケットの中の小瓶に触れる。
 これはチャンスなのかもしれない。
 緩む口元を抑えながら、俺は最寄りの男子便所へと向かうことにした。

 ◆ ◆ ◆

 校舎、男子便所にて。
 先ほどの集団の言う通り、鹿波はそこにいた。
 洗面台の前、手を洗っていた鹿波は便所の入り口に立っている俺に気付いていない。
 どうしてやろうか。なんて、この後のことを想像しながら手の中の小瓶を弄ぶ。
 ハンカチで手を拭う鹿波は、そのままこちらへと向かってくる。
 その瓶を開け、息を潜める。そして、何も考えなしに男子便所から出てきた鹿波がそのまま俺に気付かず背中を向けた瞬間、やつを羽交い締めにする。

「な……っ!」

 思いの外すんなりやつの動きを封じることができたのは、無防備だったからこそだろう。
 いきなり背後から伸びてきた手に驚いた鹿波。その顎を掴めば、やつと目があった。そして、その目が丸くなるのを見て、ゾクゾクと背筋に電流が走る。
 不意討ちも悪くない。見たことのない鹿波の表情に胸が高鳴る。が、このまま楽しむ余裕もない。
 俺は鹿波に振りほどかれるよりも先に、その開いた口の中に例の小瓶の先端をねじ込む。

「んんっ」

 そのまま小瓶の尻を持ち上げ、中の液体を鹿波の喉に流し込ませた。暫く嫌々としていた鹿波だったが、その喉仏がごくりと上下するのを見て、釣られて固唾を飲む。
 ……飲んだ、飲みやがった、こいつ、媚薬とも知らずに。
 笑いが込み上げてくる。これから鹿波に襲い掛かる異常を思うと、全身が熱くなった。
 それもつかの間、鹿波は大きく顔を逸す。落ちる小瓶。しかしもう中身は空だ。鹿波の中にへと浸透していってるはずだ。
 そしてこれ幸い、俺の手元にはもう一本媚薬が残されている。

「てめぇ、また……ッ」

 妙な真似を、と激しく咳き込む鹿波は、こちらを振り向こうとした。
 このまま反撃を食らうわけにはいかない。俺は制服の中から小瓶を取り出し、口でそのキャップを外し、口に含む。シロップに似た味がふわりと広がる。
 そして、口許を拭おうとする鹿波の手首を掴み、罵るためだろうその開いた口を己の唇で塞いだ。

「ふ、んっ……む……っ」

 恐らく、今度は意地でも飲まないとしてくるはずだと思い、舌で抉じ開けた咥内にぬめる媚薬を押し流す。嫌だと首動かすやつの頭を後頭部掴んで固定し、粘膜に直接塗り込むように舌を這わせれば、やつの舌がビクビクと震え始めた。

「ッ、ふ、……ぅ……んん……ッ!!!」

 ぐちゅぐちゅと絡み合う粘膜。甘さにこちらまで頭がクラクラしてくるが、これが媚薬の効果だというのだろうか。よくわからないが、鹿波の咥内は酷く、溢れてくる唾液の量も尋常ではないように思えた。
 上顎に舌を滑らせた瞬間、鹿波の目がとろけたように揺れる。お、と思った次の瞬間だった。思いっきり、舌を噛まれる。

「ッ、い゛……ッ!!」

 慌てて顔を離したときだ、鹿波に胸ぐらを掴まれた。

「テメ、一体なに飲ませやがった!」

 すっごく怒ってる。
 唇を濡らし、真っ赤になった鹿波は今にも殴りかかってきそうな気迫すらあった。
 あれ、まだ効いてないのか?
 てっきり飲ませたらすぐに「高座君抱いて!」となると思っていただけに、正直強気に出てしまったことに後悔していた。
 両手を上げ降参のポーズを取る。が、勿論鹿波の腹の虫が納まるはずもない。
 鹿波に両頬を殴打されたのちに倒れ込んだところを頭を踏まれながら、そう今度はちゃんと計画立てようと思った。


 殴られて蹴られて罵られて。
 ローアングルから見下され口汚く罵られたのは正直まあちょっと興奮したが、それどころではない。
 ブチ切れた鹿波に気絶するまで殴られた俺が次に目を覚ましたとき、そこは保健室のベッドの上だった。
 どうやら誰かが見つけて運んでくれたのだろう。
 養護教諭から手当てを受けたおかげか、不思議と体は痛まなかった。養護教諭にお礼を言い、取り敢えず俺は教室棟へと向かうことにする。
 鹿波の様子も気になったが、残念ながら俺はやつのクラスもなにも知らない。
 俺がこうでもしているうちに媚薬で感じやすくなった鹿波が不良仲間に悪戯されてたら、と考えると正直わりと勃起案件なのだが鹿波で興奮してしまうのが癪である俺もいるので複雑だ。思考を振り払い、俺は自分の教室まで向かった。
 このとき、俺はまさか自分の妄想が実現してるとは汁ほど思ってもいなかった。


「んだよ、鹿波今日テンション低くね?なんかあった?」

 教室へ戻る途中、階段の側を通りがかったときだった。
 下の階の踊り場からどっかで聞いたことがある名前が聞こえてきて、思わず立ち止まる。
 うちの学校で鹿波という珍しい名前の生徒は一人しかいない。そっと立ち止まり、俺は下の階を見下ろす。
 授業が数人の生徒が溜まっていて、その中には見覚えのある赤茶髪の生徒もいた。間違いない鹿波だ。

「……なんもねぇよ。元からだっての」
「そうだっけ?今日はなんか一段とあれだよな、しお……しお……」
「しおらしい」
「そう、それ。しおらしいんだよなー、お前。変なもの食った?」
「……別に」

 大人しい鹿波に心配そうな顔をする不良仲間たち。
 そして、連中に絡まれる鹿波の異変は一目瞭然だった。離れてる俺から見てもわかるほど、顔は赤い。恐らく息も上がってるのだろう。傍目に見りゃ体調不良にしか見えないだろうが、事情を知ってる俺からしてみれば『出来上がってる』。

「……俺、ちょっと便所」
「便所って、またかよ、どうした?下痢かー?」

 そういって、ゲラゲラと笑う周りだが本人はまるで相手にしていない。そのまま背中を向け、階段を降りていく。
 階段を降りていくときも不自然に腰を引いてる鹿波からして、勃起してるのだろう。そしてどうやら、そんな鹿波の異変に気付いたのは俺だけではなかったようだ。
 鹿波の姿を見てにやにやと笑う一人の生徒は、隣にいた生徒になにかを耳打ちをする。
 可笑しそうに笑いあった二人は、立ち上がる鹿波に続くようにして立ち上がった。

「鹿波くーん、便所にナニしにいくんだよ」

 そう鹿波の下腹部に手を伸ばした一人の不良は、徐に鹿波の股間をスラックスの上から揉みしだく。
 きっとちょっとからかうつもりだったのだろう。ただでさえ媚薬を過剰摂取している鹿波にとって、そのからかいは酷なものだった。

「んぁっ、あ、や……ッ!」

 背後から抱きすくめるように強い力で股間を揉みしごかれた鹿波の口からはやけに生々しい喘ぎ声が漏れる。
 ノリで鹿波のを揉んでいた不良は、まさかまじで感じられるとは思わなかったようだ。静まり返る踊り場の空気に、顔を真っ赤に鹿波は慌てて自分の口を塞ぐ。

「わ……悪ぃ」

 釣られて真っ赤になる不良に、それとは比にならないほど鹿波の顔は赤くなった。
 無理もない。赤の他人にやられて感じるのとはわけが違う。媚薬の効果に対する動揺と、友人の手で感じてしまった自己嫌悪。そのせいで凍り付いた空気に堪えられなくなった鹿波はおずおずと不良から離れる。

「わ、いや、その……気のせいだから。これは、まじで気のせいだからな」

 そう鹿波はその場から逃げるように階段を降りていった。
 その足取りでさえあまり早いとは言えない。恐らく、エロ漫画的に言うなれば何かしらに触れる全身至るところが疼いて仕方ないという状況だろう。
 そんな鹿波を放置してるほど、俺も鬼ではない。なんともいえない空気だけが残った踊り場へと降り、俺は鹿波の後を追った。

 最寄りの男子便所、先程の宣言通り、鹿波はそこにいた。
 丁度閉まろうとしていた扉を見つけ、俺はそこに指を入れれば強引に扉を開く。予想通り、そこには鹿波がいた。

「……媚薬、すげー効き目だろ」

 何食わぬ顔をして中へと入ってくる俺に、鹿波はなんでここにいるんだと言いたそうな口をパクパクさせる。

「……なんで、お前……っ」

 すかさず個室の鍵を掛ける。
 胸ぐらを掴んでくる鹿波だが、その拳にいつものような馬力はない。

「辛いだろうなぁって思って会いに来てやったんだよ。お友だち相手にあんあん言っちゃうくらいだもんな、辛かっただろ?」
「……てめぇ、仕組みやがったな」

 睨みつけてくる鹿波に、「可愛かったぞ」と笑いかければ、鹿波は俺をキッと睨みつける。

「クソ……お前死ね……っ、最悪だ……、お前まじで……ッ」

 ……それを、熱で潤んだ瞳と、紅潮した顔で言われてもなんとも説得力がない。寧ろ、今の俺にとっては逆効果もいいところだ。

「いいのかよ、俺が死んだら……お前の熱収めてやるやついねーぞ」
「ふざけ……」 

 口で言ったところで耳を貸さないだろう。ならば、と鹿波の下腹部、その不自然な膨みに手を這わせれば、びくりと鹿波の体が揺れる。

「やっ、め……触るな……ッ!」

 手の甲で、それもスラックスの上から撫で上げただけにも関わらず、鹿波の腰は面白いほど揺れる。引き腰になる鹿波を壁へと押し付ければ、その衝撃にすら仰け反り、声を漏らした。

「や、めろ……まじでぶっ殺すからな……!」
「こんなに勃起してるやつに言われても説得力ねーんだよなぁ……」
「っ、ぁ、や、ッ、離せ……ぇ……」

 股の間に指を差し込み、やわやわと衣類越しにそこを揉みしだけば、先程までの威勢はどこにいったのやら、鹿波の体はビクビクと震える。

「……このまま仲間のところ戻るつもりかよ」

「また揉まれんぞ」と、浮かび上がったそこを上下に擦れば、「ぁ」と鹿波の口から甘い声が漏れる。それも束の間、真っ赤になった鹿波は「いい加減にしろ」と俺の胸を思いっきり叩く。が、まるで力の入ってないパンチは痛くも痒くもない。

「ぃッ、ぁ、や……ッ、やめろ……めろってば……ッ」

 スラックスを緩め、下着をずり下ろせば、中から勃起した性器が頭を出す。その先端はカウパーで厭らしく濡れ、今にもはち切れんばかりに脈打つそれを握れば、鹿波が大人しくなる。

「っ、触んな……」

 弱々しい声。そんな顔をされたところではいそうですかとやめるほど俺も善人ではない。
 唾液を垂らし鈴口に指の腹を這わせる。そのまま穿るように指先を動かせば、鹿波の腰が揺れた。

「っ、や、ぁ、やめろ、馬鹿……ッ!変態眼鏡……!!」
「ここで止めても余計辛いだけだろ」
「っぁ、ひ……ッ!」

 刺激すればするほど、どんどん溢れてくる先走りも混ざって手の中ではぐちゅぐちゅとなんとも品のない水音が響いた。壁に凭れ掛かり、腰を震わせる鹿波。相変わらず口は悪いが、その罵倒すら声が蕩けてるため迫力がない。
 亀頭部分の窪みに親指を這わせたときだ、鹿波は背筋をぴんと伸ばし、大きく震えた。握ったそこが大きく脈打ち、その先端から勢いよく溢れる精液が溢れる。

「は……っぁ、……や……」

 乱れた呼吸。力なくずるずると落ちていく鹿波の体を捕まえ、俺は再度性器を握り込んだ。
「も、やめろ」と、濡れた目の鹿波が訴えてくるが、2本分の媚薬を飲んだ鹿波の方が自分の体のことを分かってるだろう。
 こんなもので収まるはずがない。現に、握り込んだそこはすぐに芯を持ち始めている。

「こんなんじゃ、全然足んねーだろ」

 鹿波の恥態を見せつけられ、どうやら俺にもその熱に充てられたらしい。窮屈になる下腹部、ベルトを緩めれば、鹿波の視線が俺の下腹部に向かい、そして真っ赤になった。

「っ、ふざけ……んな……!やめ……んんッ!」

 ろ、という前に、うるさい口を塞ぐ。舌を噛まれたのでディープなやつはやめておくが、唇を押し付け、その薄皮に舌を這わせれば、みるみるうちに鹿波の威勢がなくなっていく。そしてあのときの、目だ。細められる、蕩けたようなその目にゾクゾクと背筋が震える。
 大人しくなってる隙に、鹿波の腰を抱き寄せ、そのケツを思いっきり掴んだ。

「っ、ふ、ぅ、んん……ッ、んむ……」

 最初はびくっと反応していたが、角度を変え、何度も深く口付ければ、次第に俺の体へともたれ掛かってくる鹿波。くたりとし、肩で呼吸をする鹿波は正直、認めたくはないが、まあ、可愛くないでもない。
 いつもならここで腹を蹴られるなり唇に噛み付かれるなりしていたのだが、流石媚薬というわけだろう。無防備な鹿波に、堪らず俺はその臀部を揉みしだいていた。

「っ、ん……ッや、め……っ、んん……」

 鹿波の体のどこもかしこが焼けるように熱い。
 割れ目を押し開き、人差し指で最奥の窄みをくすぐれば、鹿波の唇がきゅっと締まる。
 まだ意地を張るつもりか、一回イってるくせに、本当強情なやつだな。高座様、早くそのチンポを突っ込んでくださいくらい言ってくれりゃあ可愛いのに。
 そっちがそのつもりなら、と、肛門から指を離す。そのまま、引き締まった尻たぶを揉めば、鹿波がこちらを見た。なんで、という色を滲ませた目に、思わず笑ってしまいそうになる。
 こいつ、本当……。

「……っ、……」

 どくり、と心臓が脈打つ。変な汗が一気に溢れ出した。やけに、熱い。ああ、もしかして、今頃俺にも効いてきたのか。口に含んだ分の媚薬が。
 焦らして焦らして挿入してくださいって泣かせるまで焦らそうと思ったのに、これではまるで、計画もクソもない。
 鹿波のシャツをまくり上げる。現れた腰は、外で遊んでる運動部よりかはよっぽど白い。それが余計厭らしくも思えるのだ。

「っ、た、かく……ら……?」

 ひくひくと微かに開閉するそこに、取り出した性器を押し付ければ、鹿波は顔色を変えた。

「待っ、待て、いきなり、それは、む……」

 震えた声すら誘っているようにしか思えない。考えるよりも先に、体が動いていた。逃げる鹿波の体を押さえつけ、指で無理矢理開いたそこに、亀頭をねじ込む。

「――ッ、ひィ……ッ!!」

 声にならない、鹿波の声が腰に響く。相変わらずキツイ、狭いそこは俺を受け入れないようにとするが、絡みつくようにうねる内壁が余計気持ちよくて、腰が止まらなかった。

「っ、あ゛っ、や、め、抜け……ッ抜けぇ……ッ!!」

 鹿波の目に滲む涙。けれど、その悲鳴すら甘いのだから、救いようがない。チンポに吸い付くような肉の感触は正直、油断すればすぐに持ってかれそうなほどだった。
 中を擦る度に色気のない声が漏れる、足をばたつかせていた鹿波だったが、根本まで一気に腰を打ち付ければ、声にならない声をあげ、二度目の精液を飛ばした。やつが、自分の腹部にかかる精液を拭う暇すら与えるつもりはなかった。
 カリ部分まで腰を引いたあと、一気に腰を打ち付ける。それを繰り返すと、面白いほど鹿波は大人しくなっていた。紅潮した頬、浅い息。言葉を交わす余裕なんて今の俺に残されていなくて、とにかく、こいつの体をしゃぶり尽くしたい。そんな欲が芽生えてしまうのだ。我ながら、獣じみていると思う。それも媚薬のせいだというのだから恐ろしいものだ。

「ぁ……っ、は……ッ、ひ、ぁ……」

 小刻みに痙攣する鹿波の体を抱き抱えるように挿入を繰り返す。やつの体を壁に押し付け、下から突き上げるように腰を動かす度にビクビクと震えた。やつの勃起した性器から透明の液体が溢れる。それを亀頭に塗り込むように触れれば、「嫌だ」と鹿波は首を振った。それに構わず全体へと裏スジまでしっかり塗り込めば、俺のを咥え込んだ内部が恐ろしいほどぎゅっと締め付けてくるのだ。本当に、油断したらもってかれそうだ。魂ごと。

「っ、や、めろ、無理、も、出な……」
「っ、嘘付け、まだ、ここパンパンになってんぞ」
「んんぅッ!」

 軽く、引っ張られる玉を指先でつついたときだ。鹿波が大きく仰け反った。天を仰ぐ性器からは濁った精液が溢れ出す。つられて、中を締め付けられ、堪らず射精してしまう。

「っ、死ね……っ」

 相変わらずの口の悪さだが、股から人の精液垂らしながら言われたところで興奮しかしない。

「うるせえな、俺が死ぬときは、お前も一緒だッ!」
「ん、ぎ、ぃ、待っ、動いちゃ、だめ、や 、ぁ、あぁあッ!!」

 腰を進めれば、中で自分の精液が絡みついてくる。シラフなら気持ち悪くて仕方ないのだろうが、今は、何よりも嫌だやめてくれと涙目になる鹿波を犯したいという思考で一色だった。

「ぁっ、やっ、高座、たかく……ンんっ!」

 舌を捩じ込み、窄まったやつの舌を根本から絡め取る。ぐちゅぐちゅと響く音が結合部からか口内からか最早判断つかなかったが、そんなことどうでもよかった。

「ん゛っ、ん、ぅん゛ッ!んんッ!」

 腰が止まらない。縮こまる鹿波を抱き締め、抑え込み、ひたすら犯す。ガタガタと音が出てようが、トイレの外に人がいようが、今だけはどうでも良かった。目の前のこいつをやすやすと逃がすよりは、断然。

「っ、は、んぶ、ッ、ぅ、んん」

 俺のピストンに合わせて、鹿波の腰が揺れる。舌先でやつの舌を擦れば、唾液が溢れ出すのだ。気持ちいい。気持ちいい。ぬるぬるして、熱くて、鹿波に触れてる箇所が全部溶けてしまいそうだ。
 ずっとキスをしていたせいか、口元はどちらのものかもわからない唾液で濡れていた。息苦しさすら心地よくて、顔を逸らそうとする鹿波を捕まえて、また再度深く口をつける。奥を何度も突けば突くほど、鹿波は痙攣し、俺にしがみついてくるのだ。……まじですげーな媚薬。ちゅ、ちゅ、と、控えめながらもキスを返してくる鹿波に、俺は頭のどこかでなにかがブチ切れるのを感じながら、鹿波の中で二度目の射精した。

 ◆ ◆ ◆

「高座ー、媚薬どうだっ……うわ、どうしたの。その顔」
「まあ、色々あってな」
「あ、なんか大体わかったから言わなくていいよ」
「聞いてくれよ……」
「血生臭い話聞きたくないもん。んで、はい。プレゼント」
「またか。って、なにこれバイブ?」
「例の知り合いに会ってからさ、貰ったんだけど僕アナル開発する趣味もさせる相手もいないから高座にあげる」
「俺にケツ突っ込めっていうのか」
「いや、資料になるかなって思ったんだけど……そっか、高座そっちもイケたんだね……」
「例えばだろ、げんなりするのやめろ地味に傷つくわ」
「ふふ、まあ使い方は高座に任せるよ」
「おー、ありがとな」
「あっ、そういえば僕鹿波から高座と話すなって言われてたんだった。ってことで僕に話しかけないでね」
「え」
「冗談だよ、冗談」
「まじで言いそうなんだけど、あいつ」
「まあ九割まじだね」
「どっちだよ」
「冗談ってのが冗談」
「なんだよお前……」
「ってかさ、高座も鹿波と仲直りすればいいじゃん。ごめんなさいって」
「んなこと簡単に言うけどな、あいつ俺を見るたびに親の仇みたいに殴りかかってくるんだぞ。手に追えるかあんな凶暴なやつ」
「それは高座の態度が悪いからだと思うよ。誠意を持って謝ったら大丈夫!」
「誠意?」
「例えば……プレゼントとか?」
「……なるほど、プレゼントか。……ん?」
「そうそうプレゼント……って、ちょっと待って高座。それはダメだと思うよ、高座!待って高座!早まらないで!高座!高座ぁ!!」

 END


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