七人の囚人と学園処刑場


 第五話

 外から聞こえてる物音で目を覚ます。硬いベッド代わりの椅子に埃っぽく湿った空気、目覚めとしては最悪だが寝れただけでもましたのかもしれない。
 目が覚めたら自室のベッドで、なにもかもが夢だというのを期待していたが現実はそう上手く行かないようだ。

「よく眠ってましたね」

 最後寝る前と同じように机に向かっていた篠山が、起きる俺に気付いたようだ。眼球だけこちらを向く。
 時計がないので具体的にどれくらいの時間というのはわからないが、篠山が言うのなら結構寝ていたのかもしれない。伸びをすれば、関節が音を立てる。

「……お前は寝てねえのか」

 篠山は頷き返し、「まあ、襲撃はなかったようですけどね」とジョークかどうかもわからない返事をしてくれる。
 ふと、木賀島を探せば……いた。口を開けて爆睡している。

「あれからどれくらい経った?」

「二時間程度でしょうか。まだ寝てても大丈夫ですよ」

「……いや、もういい。お前も少しは寝たらどうだ」

「……そうですね、君が起きたのなら横になれる今の内になっておきますか」

 そう、小さくアクビを噛み殺した篠山はそのまま机に突っ伏した。少しは信用してくれているということなのだろうか。悪い気はしなかった。

 それから暫く、外ではなにやら話し声が聞こえてきた。揉めてるようには聞こえないから大丈夫だろうが、やはり落ち着かない。
 こんな状況でストレスを感じないわけがないと分かりきっていたが、ずっと監視されてるかもしれないこの状況下、こうしておちおちゆっくり眠れない状況が何よりも腹立たしい。

 何故、こんなところにいるのか。
 改めて考える。心当たりは考えれば考えるほど出てくる。自分は好かれるような人間ではなかったし、俺だって好かれるように動いたこともなかった。
 それに、ここに閉じ込められた顔ぶれからして俺たちをここに連れてきた人間は中学の頃の繋がりで間違いないだろう。
 中学時代、恨みを買った覚えは腐るほどある。そうでなくても直接関わりない連中から因縁をつけられることだってあったのだ。

 けれど、それでいて廃校になった中学校を改造するほどの金を持った人間となるとまるで見当もつかない。
 校内で裕福な人間はいたが、ここまでの規模の悪趣味なゲームを行えるほどの人間は早々いないはずだ。
 となると、個人ではなく組織ぐるみか。けれど、そうなると出てくるのはなんで今更ということだった。
 当時ならまだしも、あれから二年は経っている。
 廃校になって、それから工事に取り掛かって、そして準備が出来たから……と考えると納得できないわけではない。
 そうなると、この学園の権利者を調べ上げれば一発で誰が仕組んだのかわかるはずだ。
 ……勿論、ここから出て、の話にはなるが。

 クラスも委員会も部活もバラバラだった俺たちの母校が同じということ以外の共通点、共通する人物を探す。
 進藤や陽太、周子や木賀島のように面識あるやつもいれば、陣屋や篠山のように直接仲良かったわけでもないやつもいるくらいだ。そうなると、私怨絡みの可能性は高い。
 特に陣屋と篠山のようなタイプとなると敵を作るようには思えない。そこを考えれば少しは絞れるだろうか。

 ……何かを忘れているような気がする。
 考えれば考えるほど頭蓋骨を直接殴られるような鈍い痛みが走った。……頭が働かない。喉が乾いた。

 やめだ、やめ。とにかく、図書室に行けば何かしら仕掛けてるだろう、俺らに恨みがある野郎だ。見せしめのように大きくヒントぶら下げてくれるかもしれない。

 それからどれほどの時間が経ったのだろうか。
 教室の扉が静かに開いた。顔を出したのは、周子と……陽太だ。

「まだ休んでるみたいだね」

「宰様、具合は大丈夫ですか?」

「声がでけぇよ」

 このままでは二人を起こす可能性もある。ピクリと篠山が反応するのを見て、俺は周子たちを教室から追い出すように一度教室外の通路へ出る。
 通路には座り込んだ進藤もいた。……あまり顔色はよくなさそうだ、死にかけたのだから無理もないが。

「……どうした、何かあったのか?」

「何か、というわけじゃないんだけど……そろそろかなと思って」

「そろそろ?」

「まじで腹が減ってさー、また科学室に飯用意されてねえかなって話てたんだよ」

「……皆起きてから確かめに行こうと思ったんだけど、二人共よく寝てるみたいだね」

「木賀島はずっと寝てる。篠山は……さっき俺と交代して眠ったところだ」

「宰様も休まなくて大丈夫ですか?」

「……こんな場所でゆっくり寝れるわけねえだろ、埃臭えし椅子は硬いし……」

「まあ、そうだろうね」

「……飯か。……確かにそろそろ水がほしいな」

 眠ったから余計水分を持っていかれたのかもしれない、やけに喉がひりつく。
 そんな俺に、進藤は嬉しそうに笑った。

「なあ、右代、俺と一緒に科学室行かねえ?」

「……お前と?」

「ここからそう離れてねーしさ、ただ飯があるかないか確認するだけだって。一人ならおっかねーけど、二人なら何かあっても大丈夫だろ」

「それなら、俺と宰様が見てくる。死に損ないのお前が行ったってもし万が一宰様の身に何かあったとき守れないだろ」

「……勝手に決めてんじゃねえよ」

 正直、空腹を覚えていた俺にとっては悪くない提案だったが見張りが手薄になるのもリスキーなように思えるのだ。

「飯は心配しなくてもあるだろ。……こんな凝った施設作るやつが俺たちを餓死なんてくだらねえことするとは思えねえ。……それと、全員揃って行った方がいい。この状況でバラけるのは得策じゃねえだろ」

「……僕も、右代君の意見に同意かな。下手にバラバラに動いてまた何かがあったとき、助けれなかったときが怖いからね」

「えー、マジかよ……」

「進藤、お前腹減ってんのか?」

「……わりとガチ目に」

「…………はぁ」

 仕方ねえやつ。……けど、まあ、気持ちはわかる。
 進藤くらいになると普段食う量からして足りねえだろうし腹減ったと暴れられるよりはまだマシかもしれない。

 この教室から科学室はそう離れていない。

「……周子、進藤連れて科学室の様子見てきていいか」

「ええっ?どうしたの、急に」

「つ、宰様……!」

「コイツ、腹減るとしつけーから」

「右代ー!流石、持つべきものは物分りのいい友達だな!」

「それなら、もう中の二人も起こして皆で行こう。君たちを疑うわけじゃないけど……特に今は少しの不平不満もなくしていきたい、こういう状況だからね」

「篠山君には悪いけど、また戻ってきて休んでもらえばいいよね」と続ける周子。
 周子らしいと思った。実際に何も細工しなかったとしても何かしらの難癖を着けられれば潔白を証明することもできず亀裂が入るだけだ。
 周子はそういった余計なゴタゴタをなくしたいのだろう。

 俺は、陣屋のことを思い出す。確かにこういうときグループで行動するのは面倒だ。
 それでも、単独行動であるあいつなら不思議と俺たちの飯に細工するような真似をしないだろうと思えるから余計謎だ。けれど、ここにいる連中はそうとはいかない。

「……進藤、それでいいか?」

「俺はいいよ、寧ろ賛成!」

「まあ、宰様とそこのバカが二人きりになるよりかは全然マシだな」

「あ、もしかしてバカって俺のことか?!」

「声がデカイんだよこのバカが……!」

 お前もな、というツッコミはアホらしくてする気もできなかった。それから、自分で言ったものの篠山に対して申し訳なく感じてるらしい周子に代わって教室の中の二人に声を掛ける。篠山はすぐに起きたが、木賀島はなかなか起きなかった。ムカついたので背中を蹴ったらようやく起き出す始末だ。

 それから、俺達はゾロゾロと科学室へと向かうことになった。

「ふぁー、まだ寝たりないなぁ。つうか、背骨痛えー」

「長時間床の上で寝るからですよ」

「せめてふかふかの布団とふかふかの枕があったらよかったんだけどな〜」

「分かる、あとアイマスク」

 呑気にも程がある。マイペース二人組が意気投合してるのを聞き流してると、あっという間に科学室に着いた。

 閉め切られたそこを誰が一番に開けるか、と周子に目配せした横で進藤が「一番乗り〜」なんて言いながら扉を開いた。
 ……こいつの危機感のなさにも呆れたが、やはりというべきか科学室からは食欲を唆られるような匂いが漂ってくる。その匂いに体も安堵したのか、腹の虫が誰にも聞こえないくらいの声で鳴いた。

「よっしゃー!大当たり!飯だ飯ーッ!」

「あ、ちょ……ちょっと進藤君!危ないからもっと慎重に……!」

「二番乗り〜!」

「き、木賀島君まで……!」

 わらわらと飯に駆け寄るマイペースもといバカ二人組に続いて、その後を追いかける周子と辺りを確認して入る篠山、それから俺と陽太は中へと踏み入れた。

 home 
bookmark
←back