馬鹿ばっか


 16

騒ぎ始める五条を黙らせ再び学生寮の自室前へと戻ってきた俺たち。


「じゃあ、一応ここでいいですか?」

「ああ、ありがとな」

「いえ、困ったときはお互い様なので」


そう控えめに微笑む岡部は五条を床の上に転がした。
「ゔっ」と呻く五条。
何度でもいうが五条は岡部の先輩だ。


「頭禿げちゃう……」


そうしくしく泣き真似しつつ起き上がる五条は後頭部を撫でる。
その背後。
忍び寄った岩片は五条の首を掴んだ。


「ほらさっさと入れよ、お前の家だぞ」

「ひいいん!」


そして開いた自室の扉から部屋へ上がった岩片はそのまま例の拷問部屋と化した空き部屋へと押し込む。
素晴らしい早業だった。


「おい岩片、気持ちはわかるけどもうちょっと優しくしてやったらどうだ?岡部のやつビビってたぞ」


玄関の扉を閉め、岩片同様自室へと上がった俺は言いながら空き部屋の扉に鍵を掛ける岩片に声をかける。
元々岡部はぶりっ子した岩片に心開いているわけであってあんな性格の悪い陰険バイオレンス変態臭をぷんぷんさせてたら岡部が距離を置く可能性もある。

あれ、そっちの方が岡部のためのような気がした。


「いいんだよ、喜ぶから」


そんなことを思っているとソファーに腰をかけた岩片は相変わらずの口調で続ける。

そうか、なら大丈夫か。
いや大丈夫じゃない全くなにも解決していない。


「ハジメ、喉渇いた」


こいつは本当もう少しこう飽き性を直した方がいいな。
思いながら飲み物を要求してくる岩片に「はいはいっと」だけ答え、部屋の隅に設置された冷蔵庫へと歩み寄った。
無駄にでかい冷蔵庫の中には飲み物しか入っていない。
その中から岩片のお気に入りの炭酸飲料を取り出す。
ペットボトルのまま出すのもあれだったので優しい俺はグラスに移しかえてやることにした。


「ほら、コーラでいいか?」


グラスを片手に岩片の元へと戻った俺は言いながら岩片の手前のテーブルにそれを置こうと腕を伸ばしたときのことだった。
横から伸びてきた岩片の手に手首を取られ、そのままぐっと強い力で引っ張られる。

引っ張られる体に傾くグラス。
暗転する視界。


「って、おわっ!」


バランスを崩し、引き寄せられた俺はそのまま岩片の膝の上に崩れ落ちる。
ゴトリと鈍い音を立てカーペットの上に落ちるグラスは茶色の染みを作り、足元でぱちぱちと炭酸が弾ける音が聞こえてきた。

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