馬鹿ばっか


 16※



自慰に夢中になって扉の外に立っていた岡部に気付いていなかった俺は現れた岡部に全身から血の気が引いていくのがわかった。
しかし、どうやら驚いたのは俺だけではないらしく。
「あ、お、尾張君……っ」そうあわわと顔を青くする岡部は慌てて立ち上がった。

そして、


「す、すみません、別に盗み聞きするわけじゃなかったんですが馬喰君が尾張君が遅いってしつこかったんで確認しに来たらなんかちょっと声が聞こえたのでなんだろうかと思って伺っていただけであって別に盗み聞きしたわけじゃないんです。尾張君がオナニーしてたとかほんとそういうの全然知らないし気付いてないんで、あ、終わりましたか?」

「…………終わりました」


聞いてないところまで詳しく且つわかりやすく説明してくれる岡部に突っ込む気にもなれず、なんだか脱力しつつ俺はそう岡部に答える。
そんな俺に対し、ペコペコ謝っていた岡部は「それはよかったです」とほっとしたように微笑んだ。
こいつはあまり仲良くないクラスメートが自分の部屋のトイレでオナってて怒らないのだろうか。
相変わらずよくわからないやつだが詳しく追求されないのはありがたい。

思いながらなんだか気恥ずかしくなってきて、気を紛らすように視線を泳がせた俺は岡部が手に抱えているそれに気付いた。


「なあ、なにそれ」


腕に抱えた薄い本に目を向ければ岡部は「へ?」と驚いたような顔をし、そして自分が抱えているものに気付いたようだ。
すぐに頬を綻ばせる。


「ああ、これはその、どうせ抜くんでしたらオカズがあった方が便利かと思って個人的にオススメを取り揃えたのですが……」


そうちょっと恥ずかしそうに笑う岡部は「もう終わったならいらないですね」と慌ててそれを背後に隠した。
岡部セレクションがどんなものか気になったが、それよりも岡部は気になる発言をする。


「ちょっと待て、お前、気付いてたのか?……俺が、その……抜くためにトイレ借りたって」

「ええ、まあ、その……そういう風な態度取られれば普通誰でも気付くかと……」


なんだか生きた心地がしない俺に対しそう申し訳なさそうな調子で続ける岡部は俺の下半身を一瞥し、そして「馬喰君は気付いてないみたいですが」と苦笑を漏らす。
つられて自分の下腹部に目を向ければ、不自然に膨らんだそこに血の気が引いた。


「っ、うわ、もう最悪……っ」

「あっご、ごめんなさい。まあ、ほら多感な時期ですし勃っちゃうのも仕方ないと思いますよ。元気出してください」


慌ててぐいっと制服の裾を引っ張り下腹部を隠そうとする俺に対し、あわあわと岡部は「あっ、下半身は元気でしたね。……なんちゃって……」と恥ずかしそうになんとも余計なフォローをしてくる。

なんかもう泣きたい。
色々な意味で。


「誰でもそういうことあるので恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ!あの、尾張君が所構わず勃起して挙げ句の果てに人の便所に籠って何発も出してたとか皆にも言いませんし!」


なんかもう穴があったら隠れたくなる俺に対し、慌てて岡部はそう励ましてくる。
人をアグレッシブな変態みたいに言わないでくれ。


「……だから違うんだって。そういうあれじゃないんだ、俺は」


この岡部の口の軽さを考えればいつどこでポロリするかわからない。
岩片が接近している岡部なだけにアグレッシブ変態なイメージを植え付けられるのはまずい。
そう悟った俺は笑みをひきつらせ真面目な感じで岡部に語りかける。

が、半勃ちなだけに決まらない。
神楽まじで覚えとけ。


「尾張君、あの……なにかあったんですか?」


しかし、岡部には通用したようだ。
深刻そうな雰囲気を醸し出す俺から察したらしい岡部は不安そうに眉を下げ、そう恐る恐る尋ねてくる。
そんな岡部に小さく頷き返し、俺は岡部を見据えた。


「……薬盛られた」

「薬っ?」

「詳しくは言えないけど、取り敢えず、俺には他人の部屋でオナニーして何発も出すような趣味はないからな。誤解すんなよ」


「あと岩片に絶対言うな」そう念を押すように続ければ、目を丸くした岡部は慌てて首を横に振り「い、言いませんよ!そんな!」と否定する。

こいつ、この口の軽さは無自覚か。

そう呆れるのも束の間。
自分の声量に気付いた岡部はハッとし、慌てて口を手で押さえた。
そして、


「それで……その、それも薬の効果なんですか」


そう声を抑え、控えめに尋ねてくる岡部はちらりと人の下腹部に目を向けてくる。
「……っ」その控えめながらも好奇心と興味を孕んだ不躾な視線にぞくりと背筋が震え、顔にじわじわと熱が集まるのがわかった。


「……そうだけど、悪い、あの、すぐ萎えさせてくるからちょっと待っててくれ」


流石に、いくら同性の前だからとは言えどこのままの状態はキツい。主にメンタル面に。
岡部の視線に耐えれず、そう慌てて個室トイレに引っ込もうとしたときだった。
「あっ」と驚いたような声を上げる岡部に腕を掴まれる。
瞬間、岡部の指が皮膚に食い込みその感覚にビクリと身体が跳ねた。


「っんぅ」


うっかり変な声が出そうになり、慌てて口を塞ぐがなんかもう死にたくなった。


「だ、だから触んなって……っ」

「すみません。その、ちょっと気になることがあって……」


そう相変わらずの引け腰の岡部だったが腕に絡み付く手は離れず、その言葉が気になった俺は「……気になること?」と岡部に目を向けた。
瞬間、もう片方の手が胸部に伸びてきたと思えば徐に上着の襟を掴み、剥かれる。


「っぁ、ちょっ、なに、岡部ッ」

「薬って、もしかして会計に貰ったんですか?」

「か……い、けい……?」


シャツの上からに徐に胸をなぞられ、身動ぎさせる。
突然の岡部の行動に一瞬思考回路が乱れたが、その単語につい先程まで一緒にいてついでに玉潰した生徒会会計・神楽麻都佳の顔が過った。
そして、岡部の言葉を理解したとき俺は目を丸くさせる。


「っなんで、知って……っ」

「いえ、この前科学室付近で見掛けたので……。あそこのだったら俺、薬の抜き方わかりますよ」


「抜き、方……?」


そう荒い息を整えるように尋ねれば、岡部は「はい」と弱々しく頷いた。

科学室ってまさか、科学室で媚薬作ってるとかいわないよな。

岡部の言葉が妙に喉に突っ掛かる。
その矢先、制服越しに触れてくる岡部の手が動き全身の筋肉がピクリと反応した。


「っ、あっ、ちょ……っなあ、抜き方って……これ?」

「そんなわけじゃないですか。薬なら時間が経ったら抜けますよ。ですので何度抜いても体力が消費するだけですね」

「っ、じゃあ、なんだよこれ……っ」

「……いえ、その、科学部の薬の効能を知りたかったんでせっかくだし調べさせていただこうかと」


触れられた箇所が疼き、熱くなる。
じんじんと痺れ始める脳味噌を必死に叩き起こしながら俺は目の前の岡部に目を向けた。


「あの、変なところは触らないので少しだけ試させていただいてもいいですか……?ホント、少し参考にさせていただくだけなので」


いつもと変わらない、しょんぼりしたような顔で恐る恐る顔を覗き込んでくる岡部。
ああ、普通だ。
普通だが、この展開は普通ではない。


「っ、つか試すって……」


岡部の言葉の意味は理解出来たが具体的な言葉が出てないだけになにも言えない。
わざわざ相手に聞くような真似をせずさっさと振り払えばいいものを。
それを理解していながら岡部から逃げない自分がおかしくて堪らない。
自虐めいた笑みを浮かべ後ずさるように背後の壁に背中を擦り付けたとき、俺の言葉に岡部は「ああ、そうですね」と少しだけ考えて見せる。
ボタンが外れ開いたシャツの襟の下、素肌を滑るようにするりと岡部の手が滑り込んできた。


「例えばこういう風に」


シャツに突っ込まれ這わされる骨っぽい手に硬直した瞬間、探るように胸元を撫でる指に乳首の輪郭をそっとなぞられ、そしてぎゅっと摘ままれる。


「ぅ、く……っ!!」


主に背筋と下腹部がぞくりと打ち震え、襲い掛かってくる快感を耐えるように歯を食いしばる。
「反応を見てみるだけですよ」そんな俺を見る岡部は控え目に微笑み、血が集まり硬く尖ったそこを遠慮なく指の腹で押し潰した。


「ひ、っぅ、んんっ!……っ、待っ、おまえ、変なところ触ってんじゃん……っ!」

「え?乳首って変なところなんですか?水着とか着るとき普通に出しますし別に変なところじゃないですよ」

「っ、そう……なの?」

「はい」

「なら……」


って全然よくねえよ。
コリコリと押し潰したり指の腹で摘まんだまま引っ張ったり揉んだりと好き勝手弄りながらそう適当なことを言う岡部に流されそうになった俺はなんとか理性を取り留める。
しかしいくら理性を持ちこたえたところでどうにでもなるようなものではないらしく、岡部の指責めになんか口の中の唾液がハンパないことになっていた。
声を堪えるだけで精一杯で、熱に当てられた意識は次第に朦朧になっていき、体だけが別のなにかのようにピクピクと反応してしまう。ああ、もう逸そ理性だけ分離して逃げ出したい。


「っ、んぅ……ッ、んんっ」

「なるほど、ここまで硬くなるとは。……指で潰してもすぐ勃起しますね。普段ここは弄ってるんですか?」


なにを聞いてくるんだこいつも。
人畜無害みたいな顔してセクハラ染みた質問をしてくる岡部に乳輪ごと突起を揉まれ、顔に熱が集まるのを感じながら俺は首を横に振った。
その俺の反応に岡部は「では未開発でここまで気持ちよくなると」と感心したように頷く。
邪気のない岡部だから余計、目の前でちんこと乳首勃してるの見られてると思ったらなんだかもう泣きたくて堪らない。
若干こいつのせいでもあるのだが。


「なかなか良さそうですね。値段ぼったくり価格だったのでなかなか手は出せなかったんですが尾張君がここまで喜ぶなんてよっぽどいいんでしょう」


「今度買ってみようと思います」そうなにかぶつぶつ言って、岡部は胸から手を離しそのままシャツから出した。
そう、岡部はあっさりと退いた。

普通に、約束した通りそう当たり前のように止める岡部に思わず「っえ?」と素っ頓狂な声が漏れる。


「ん?どうかしましたか?」

「も、……いいのか?」

「ええ、一応よくわかりましたので」


そして岡部は「お手伝いありがとうございました」とにこりと柔らかく微笑む。


「じゃあそろそろ馬喰君が騒ぎ出しそうなので戻りましょうか」


まじでここで終わりかよ。
好きに弄ったくせに、こんな、中途半端な。
変に昂ってしまい抑えが利かなくなったせいかあっさりと背を向ける岡部になんとも言い表し難い不満が募り、それ以上に今以上のなにかを期待している自分が気持ち悪くて仕方がない。

おい、俺、なにを考えてるんだ。落ち着け。
そう必死に自身へと呼び掛けるが意思とは別に体は動く。


「……っ」

「尾張君?」


気が付いたら、岡部の腕を引っ張っていた。
不思議そうな顔をしてこちらを見る岡部と目が合い、ごくりと喉が鳴る。
ああ、俺なにやってんだ俺の馬鹿が、糞。
自制が利かない状態のままゆっくりと唇は開く。

それと、居間へ続く扉が開くのはほぼ同時だった。


「おーいたいた!」


静まり返った便所前廊下に響くは聞き慣れた煩い声。
その声に、ビクンと全身が跳ねる。
なんで、こいつがいるんだ。

咄嗟に岡部から手を離し恐る恐る開いた扉に目を向ければ、そこにはご主人様もとい岩片凪沙がいた。


「もう来たんですか?」

「そりゃ俺のハジメが迷惑掛けてるみたいだしさ、久し振りに走っちゃったわ」


驚いたような顔をする岡部に相変わらず口許に軽薄な笑みを張り付けた岩片はそうわざとらしく肩を竦めた。
そう言うわりに息切れをしていない。
無駄に運動神経がいい岩片は知っていたので特に疑問は持たないが。

それに、疑問を持つべき場所は他にもある。


「なっなんで……岩片が」

「一応、その、岩片君には預かってると伝えといた方がいいと思いまして……」


眠っていたところに水をぶっかけられたみたいに青ざめる俺に対しそう答えてくれたのは岡部だった。
そう申し訳なさそうな顔をする岡部に余計なことしやがってと思わずにはいられない。
そして丁度そのときだ。


「おい、お粥出来たぞ!」


今度はなんだ。
岩片によって開きっぱなしになった扉からお玉を手にした安治が飛び出してきた。
しかもなんかよくわからない子供向けのキャラクターのイラストが描かれたポップなエプロンを着用している。
自前のようだ。
エプロンが可愛すぎて似合わない。


「いつまで便所の前でだべってんだよ。さっさと来い、冷めちゃうだろうが」


そして、どこからどう突っ込めばいいのかわからず硬直していると構わず安治はそんなことを言ってきた。
「は?え、お粥?」わけがわからない。そう軽い混乱に陥っていると、ずかずかと歩み寄ってきた安治に背中を押され無理矢理部屋へと連れていかれる。
居間へと近付けば近付くほど鼻孔を刺激するような嫌な匂いがし、自然と興奮諸々が萎えていくのがわかった。
そして、料理というか皿に盛られたなにかが載ったテーブルまで引き摺られた俺はなんかもう生きた心地がしなかった。


「…………」

「食え」


まじですか。
このどろどろに液状化した謎の白いスライムをですか。

抜いてきたばかりなせいか皿に盛られた白いそれ(安治曰くお粥)が精液にしか見えないと思ったら更に気分が悪くなってきた。


「……あの、馬喰君、尾張君は具合が悪いんですよ?いくら馬喰君がそういう性癖の人だとしてもそんな堂々と精子食べさせちゃダメですよ。入れるときは隠し味程度にコッソリ混ぜ本人が気付かないようにしなきゃ駄目じゃないですか、……そんなあからさまにザーメン盛りだなんて」

「ああ?!どこが精液だよ!喧嘩売ってんのかテメェ!」


あまりの言いように切れる安治に「精子じゃないですかどうみても」と即答する岡部。
取り敢えず精子精子連呼しないでくれ。
それにしてもこの二人、あまり仲がよくないらしい。
心配そうな顔をしてボロクソ言う岡部に安治も慣れているようだ。
それでも若干傷付いたらしく、「エロ本の見すぎなんだよ」と吐き捨てる安治はぷいっと岡部から顔を逸らしこちらに目を向ける。


「ほら尾張、ちゃんと匙持てって。ふーってした方がいいのか?」


言いながらレンゲを握らせてくる安治はそう尋ねてくる。
拒否権はないということなのかこれは。
全力で面倒を見たがる安治にだらだらと冷や汗が滲む。


「いや、つーか俺弁当買ってきたからいらないっていうか……」

「……食べないのか?」


そうなるべく波を立てないように断れば、不安そうに顔を歪める安治は横から俺の顔を覗いてくる。
しょんぼりとする安治になにも悪いことをしてないはずの俺は多大な罪悪感に飲み込まれた。
これは試練なのか。

なんか変な匂いがする精子もといお粥にコメカミをヒクつかせる俺はなんとも言えない気分になる。
そんな中、葛藤する俺の向かい側、岩片は当たり前のように空いた椅子に腰を掛けた。


「弁当なら気にすんなよ。部屋に一人腹減らしたやつがいるからな、ハジメの分ちゃんと食ってやるから」


腹減らしたやつというのは言わずもがな五条のことだろう。
笑いながらそう、岩片はレンゲを片手に硬直した俺に声をかけてきた。
この野郎楽しんでやがる。


「一応胃に負担が掛からないようヘルシーなものにしたんだけど、やっぱり無理そうか?」


どうやら、もしかしたらと思っていたがやっぱりこれはお粥らしく、そう遠慮がちにこちらを見てくる安治になんかもう罪悪感で死にそうになった。
相手が岩片や能義や五条ならまだしも、相手は安治だ。
不器用なりに自分を心配してくれている安治の気遣いを無下にできるほど俺も鬼ではない。


「わかった、食べるから」


だから、そんな目で見ないでくれ。
結局耐えきれずそう言えば、安治はぱあっと表情を明るくした。
「無理するなよ」そう言いながらも嬉しそうに頬を緩める安治に俺は「大丈夫大丈夫」と宥め、安治お手製お粥を掬う。
息を止め俺はぱくりと一口お粥を口にした。
そのまま味わうことなく一気に飲み込んで、そして、二口三口とそれを食べ物を認識しない内に喉へ流し込もうと皿ごと口をつけ空にさせようとしたが間に合わなかった。
半分くらいを喉奥へと流し込んだとき、皿を持った手が不自然に震え始め気が付く。
そして、そのまま指から力が抜けそこからはもうよく覚えてない。
真っ青になった安治と岡部、にやにやする岩片の顔が視界に入り、気付いたら俺は再び便所へと舞い戻っていた。


<エチケットタイム>


「尾張、ごめんな、本当にごめんな」

「いや、……こっちこそ悪い」

「今度はもっと美味しく作るから」


そこか。
せめてその努力は別のものに活かしてくれと念じつつ、俺は安治に笑い返す。
つい、ぎこちなくなってしまった。

結局、完食することはできなかったが安治もどうやらあの後味見したようだ。ずっと『無理させてごめん』と謝ってばっかりだった。
確かに酷い味だったが、それに耐えきれず便所に駆け込んだお陰で媚薬が抜けたようだ。
異常な高揚感も勃起も治まり、寧ろ不自然なまで頭は冴え渡っていた。


「んじゃそろそろ行くか」


そして、全くの他人事・岩片はさっき買った弁当が詰まった袋を片手にそう声をかけてくる。
それに対し、「ああ」とだけ頷き返した俺は岡部たちに別れを告げ、先に出ていった岩片を追いかけるように部屋を出た。


「それにしても、早速ハジメが親衛隊集め精を出してくれるとはな」


学生寮、廊下。
自室へと帰る途中、隣に並ぶ岩片はそう笑った。
「は?親衛隊?」岡部のことだろうか。そう思ったがどうやら違うようだ。



「馬喰安治、親衛隊候補の一人だろ」


まじか、あいつ候補だったのか。
初めて知ったと目を丸くする俺に岩片は「まさかハジメ、知らなくて近付いてたのかよ」と呆れたような顔をした。


「いや、なんつーか成り行きで。……なるほど、通りでどっかであの銀髪見たことあると思ったらそうだ、五十嵐からもらった資料だ」

「だからちゃんと資料暗記しろって言っただろ」


岩片に言われるとちょっとくるものがある。
それにしてもまさかこんな簡単に接触していたとは。
多少見た目があれと言えど、馬喰安治のようなお節介の塊が生徒会候補に上げられていたという事実に驚いた。
でもまあ、親衛隊候補が安治みたいなやつでよかった。
あれなら力ずくなんて荒っぽいことをしなくても話が通じそうだ。

そんな感じにだらだら話をしているとあっという間に自室に辿り着き、「んじゃ、腹ペコ野郎に餌でも食わせてくるか」と笑いながら自室の扉を開いた岩片。

そんな岩片の笑顔が凍り付くまで然程時間はかからなかった。

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