馬鹿ばっか


 11

 本当、世の中には様々な人間がいる。改めてそう思った。
 安治と名乗った銀髪に引っ張られ、というか制服を取られ仕方なく俺は安治の部屋までやってきた。
 変なやつだなとは思ったが、裁縫が不得意な俺からしてみればまあありがたい。予想外の展開に戸惑う反面、手間が省けたとほっとする。

 安治の部屋にて。
 裁縫の道具があるという安治にのこのこついてきた俺はそのまま安治の後を追うように部屋へ上がった。そして目を丸くする。

「……うっわ、すっげーな」

 床を這う大量のコード。大画面テレビの側には据え置きゲーム機が置かれ、テーブルの上にはデスクトップのパソコンが置かれていた。そして山のように積まれたDVDやらゲーム。

「お前結構本読むんだな」

 壁一面敷き詰められた本棚に目を向けた俺はそう感心したように呟く。
 安治の容姿からしてどちらかと言えば文字を読むのすら億劫そうなタイプと思っていただけに意外だった。
 なんとなく興味を抱いた俺は自分の身長から悠々と越える本棚から一冊の本を取り出す。そして、顔をひきつらせた。

「……ってこれ」

 少女漫画とはまた違う、マニアックな衣装の目が大きな女の子がポージングを決めたそのきらびやかなピンクの表紙。萌え、とかいうやつなのだろうか。オタクという三文字が脳裏に浮かぶ。
 まさか安治がこのようなものを好む輩とは思ってもいなかった俺は、もう一方の比較的片付いたスペースに移動する安治に目を向けた。

「俺じゃねえよ、そこら辺全部同室のやつのだから」

「勝手に触るとキレるからちゃんと戻しとけよ」そうため息混じりに続ける安治は言いながらテーブルの上にシャツを置いた。
 なるほど、そういうことか。一冊一冊丁寧にカバーされた本に随分徹底してるなと内心冷や汗を滲ませつつ、俺は本棚に戻した。これならまだ岩片の方がましだな。

「取り敢えず、そこら辺で好きに寛いどけよ。すぐ終わるから」

 安治のルームメイトが気になりつつ、「おー悪いな」と安治に返す。
 お言葉に甘え、俺は適当な椅子に腰をかけ安治を見守ることにした。

 そして数分後。
 正直、油断した。自信満々に「任せろ」なんて言うからてっきり得意なのかと思ったが、全然だ。

「いっつ……」
「おい、大丈夫かよ」
「……大丈夫だ、親指だから」

 ちげーよ制服だよ。いやそっちもだけどさ。
 あまりの不器用っぷりに見てるこっちがはらはらして口を挟まずにはいられなくなる。

「無理すんなよ」
「大丈夫だって言ってんだろ」

 おまけにこの融通の利かなさ。やっぱ返せと言っても「やだ」と聞かない安治はそっぽ向いて作業を続ける。
 危なっかしいものの、俺よりかはましだろう。無理に取り返すのも面倒になってきた俺は大人しく安治を待つことにした。

 そして更に数分後。

「出来た!おい出来たぞ!」

 なにをそんなにはしゃいでいるのか、いきなり立ち上がった安治は言いながらワイシャツを広げた。
 中々雑な結び目だがしっかりと元の位置に付いたボタンに俺は「おお」と拍手してやる。
 そんな俺に対し安治は嬉しそうに頬を緩めた。

「わざわざありがとな」

 そう笑いながらワイシャツを受け取れば、得意気に胸を張る安治は「気にすんな」と笑んだ。
 過程よりも結果だ。
 ボタンがひとつ欠けているが、どうせ第一ボタンは外しているので問題ない。
 なんだか久しぶりに人の優しさに触れたような気がしてちょっと感動した。

 というわけで、安治から制服を受け取った俺はお礼を言い、そのまま部屋を後にする。
 一先ず下着を取り替えるため、廊下に出た俺は同じ階にある自室へと向かった。

 安治の部屋を出て一旦自室へと帰った俺は五条の服から制服に着替え、そのまま自室を出た。
 五条のカメラから俺の写真を取り消したかったが、時間がかかるので教室に持っていって弄ることにする。
 政岡のせいで無駄に時間を喰ってしまった。
 所々制服のシャツに五条の鼻血が着いてて気に入らなかったが洗うのは後ででも出来る。
 一先ず俺は校舎へ向かうため、渡り廊下へと足を進めた。


 校舎内、職員室にて。
 遅刻者として教室入室許可証を貰うため、俺は職員室までやってきた。
 政岡でごたごた、五条でごたごた、安治でごたごたでなんかもういつの間にか昼になっているが今からでも間に合うはずだ。
 まともな生徒がいないこの学校で許可証貰う必要性があるのかはわからなかったが、なにかあったとき役立つ可能性もある。
 いやわからないけどまあそういうわけで俺は職員室に貰いに来ていた。

「ってことで雅己ちゃん、教室許可証ちょうだい」
「なんだそのいい笑顔は」

 そう笑いながら椅子に腰をかける担任の宮藤にねだれば、煙草を咥えていた宮藤は咥えていた煙草を灰皿に押し付け火を消す。
 その姿に教育者らしさは微塵もなく、どうみても水商売の男そのものだ。
 拗ねたような顔をしていた宮藤だったがやがて諦めたように席を立ち、一枚の用紙を取ってくる。

「あんま遅刻は感心しねーけどわざわざ許可証貰いに来ただけましだな。ほら、許可証」
「お、わりーな」
「ありがとうございましただろうが」
「ありがとな!」

 そういいながら許可証を受け取れば、「お前な」と呆れたような顔をする宮藤はすぐに頬を緩ませた。
 本気で怒っているわけではないのだろう。
 そりゃ馬鹿ばっかのこの高校で一人一人口の利き方を一から教え込んでいたら確実に身が持たないだろうし。
「ま、いいか」そう宮藤は笑う。

「あーそうだ。取り敢えず聞いとくけど遅刻の理由は?」
「理由?んーまあ、ちょっと色々」

 まさか生徒会長にケツ弄られた上上級生ボコって知らない不良と仲良くなってましたなんて言えるはずがなく、適当にはしょる俺に宮藤は「色々な」と笑う。

「一番上ボタン取れてる。あとここ、血もついてる」

「お前頭突きしただろ、デコ赤くなってんぞ」ふとそう笑う宮藤に額を撫でられ、目を丸くした俺は思わず後ずさる。

「……やっぱわかる?」
「わかるやつはな。一応湿布貼っとくか」
「いや、いい。そんな痛くねーから」
「そうか。でかい怪我したらいつでも保健室行けよ」
「ご親切にどーも」

 離れる宮藤の手。今はすっかり痛みが引いた自らの額を撫でながらそう答えれば、「おー」と宮藤は笑う。

「あ、そうだ」
「ん?なに?」
「ほら、これやっとくよ」

 そう言いながら机の上に置いてあったそれを手に取った宮藤は俺に手渡してきた。手を広げ、俺は手の中に握らされたそれに目を向ける。
 掌の上には指定のシャツのボタンがちょこんと乗っていた。

「一応服装違反だからな、風紀に見つかる前に直しとけよ」

 そう言う宮藤に酷く感動する俺は「雅己ちゃん……!」と目を輝かせる。
 いままで影で水商売の男とか言ってごめんね雅己ちゃん。
 きっとあんたならNo.1取れるよ。
「だから雅己ちゃんはやめろって」尊敬の眼差しを向ける俺にそう気恥ずかしそうに笑う宮藤。

「ほら、用が済んだらさっさと行け。今の時間なら教室だと思うから」
「りょーかい。ありがとな、先生」
「おー……おおっ?」

 先生と呼ばれたのが意外だったのか目を丸くする宮藤。
 そんなに意外なのかとなんともいえない気分になりつつ俺は宮藤と別れ、貰ったボタンを制服のポケットに仕舞いながら煙が充満した職員室を後にした。

 ◆ ◆ ◆

「おっせーよ」

 校舎内教室にて。
 担当教師に教室入室許可証を手渡し、後列にある自分の机までやってくるなり椅子にふんぞり返って座る岩片はそう文句を言ってくる。
「はいはいすみませんでした」いいながら椅子を引き腰を下ろす。
 すると、岩片を挟んで隣に座る岡部は耳につけたイヤホンを外し「こんにちは」と声をかけてきた。
 おいこいつ普通そうな顔をして授業中に関わらず本格的にゲームしてるぞ。教師止めろよ。

「尾張君、いきなりいなくなるからビックリしましたよ」

「もう腰の調子は大丈夫なんですか?」そんな俺の思案を他所に、岡部はそう心配そうな顔をして尋ねてくる。
「え?腰?」なんでいきなり腰の心配をされなきゃならないんだ。
 咄嗟に先程政岡に犯されそうになったことを思い出し、全身になんか変な汗が滲む。

「あれ……?違うんですか?あの、岩片君が『昨日は激しくし過ぎたから腰痛いんじゃないかな』って……」

 すると、顔をしかめる俺に対しあわあわと動揺する岡部はそう口を滑らせる。
 こいつ、さてはまた岡部に余計なこと吹き込みやがったな。
 岡部の口から出た名前に、咄嗟に俺は隣に座る岩片に目を向ける。
 すると、岩片は「おいおいそんな物騒な顔して睨むなよ!」と大きく口を開けて笑った。

「昨日のプロレスごっこのことだろ?プーローレースーごーっこー」

 言いながら岩片はそう笑いかけてくる。
 どうやらプロレスごっこで体壊したと適当な理由つけて岡部にフォロー入れていたようだ。非常に紛らわしい。

「まあ夜のベッドの方のプロレスだけどな」

 と思った矢先、なんでもないようにそんなことを口走る岩片。
 お前は本当に想像通りのやつだな。

「あ、でも元気そうでよかったです。あまり無理はしないでくださいね」

 そんな俺たちのやり取りに苦笑を浮かべる岡部はそう宥めるように声をかけてくる。
 まだなにか勘違いしているようだがわざわざ訂正するのも面倒だったので「ああ、もう大丈夫だから」と笑い返した。

「岡部、ありがとな」

 それにしても本当岡部はいいやつだな、どっかの誰かさんとは大違いだ。
 体調を気遣ってくれる岡部にほっこりしつつ、そうお礼を口にすれば岡部は気恥ずかしそうに俯く。
 間に座る岩片が「あれ?俺にありがとうは?ねえ、俺には?」とかなんか煩かったが無視した。

 ◆ ◆ ◆

 そして授業中。落ち着き、携帯ゲーム機で対戦して遊んでいる岩片と岡部の横で五条から取り上げたデジカメを弄る。

「なにやってんだよ、ちゃんとせんせーの話聞けよな」

 すると、一旦中断したらしい岩片がゲーム機を机の上に置きながらそう手元のカメラを覗き込んできた。
 お前もな。と言い返したくなるのを堪えつつ、俺は「ん、いやちょっと調べもの」と曖昧な返事をする。

「そのカメラがか?」
「ああ、さっき新聞部のやつから取り上げたんだよ」
「なんか撮られたのか?」
「まあ、もう消したけどな」
「チッ、つまんねー。そういうときは俺にも見せろよな」
「見ても面白くねーって」

 それどころか不愉快極まりない。
 岩片に全裸写真見られたときのことを想像し、ぶるりと背筋を震わせる。
「でも、他のは結構面白いの入ってんぞ」そして、気を取り直した俺はそう岩片に五条のカメラを手渡した。
「どれどれ?」言いながらそれを受け取る岩片は、器用にカメラを操作し中のデータ一覧に目を向ける。そして「おおっ」と驚いたような声を上げた。

「イケメンばっかじゃん」
「売り捌いて金にするとか言ってたからな」

 にやにやと口許を緩める岩片は俺の一言に「なるほど」と小さく頷いた。
 それも束の間。データを眺める内に岩片の顔が面白くなさそうなものになる。

「でもさぁ、ハジメが撮られて俺が撮られてないのは可笑しいよな」

 なにか変な写真でも見付けたのかと思ったらこいつは真顔でなにを言い出すんだ。

「寧ろ妥当だろ」
「なんだと、あんま調子乗ってっと朝起きたら知らない場所に全裸放置すんぞ」

 冗談に聞こえない。

「でも、まあおもしれーな」

 そう笑う岩片は「お、零児たちのもあんじゃん」と楽しそうに一枚の写真を選び、大きく表示させた。政岡の写真だ。カメラ目線でポージングを決める政岡の写真がぱっと表示され、他の奴等は皆隠し撮りなのになんでこいつだけカメラ目線なんだよと突っ込まずにはいられない。

「……へえ」

 そして、次々と写真を表示させていく岩片はそう意味ありげに呟く。

「なんだよ」
「……いや、すっげーな。よく撮れてるって思って」
「そうか?」

 寧ろただの隠し撮りのようにしか見えないが、もしかしたらその隠し撮りの部分を言っているのかもしれない。
 カメラに目を向けたまま岩片は「そうだよ」と続ける。

「それで?このカメラの持ち主の新聞部はどこにいるんだ」

 ようやくカメラから顔を離しこちらを見たと思えば、岩片はそんなことを尋ねてくる。
「は?」いきなりの問い掛けに思わず俺はそう間抜けな声を漏らした。

「いや、なんでそんなこと聞くんだよ」
「そりゃ興味沸いたからに決まってんだろ。新聞部か?新聞部に行けば会えるのか?」
「いやいやいや、やめといた方がいいって。絶対。お前合わねーから」

 寧ろ意気投合しそうだがそれはそれで厄介極まりない。
 なにをどう血迷ったのかそんなことを尋ねてくる岩片に俺はそう全力で拒否する。

「岡部岡部、新聞部ってどこにあんの?」

 人の話聞けよこいつ。
 俺から聞き出すことは不可能だと悟ったようだ。イヤホンをつけてゲームに熱中している岡部のイヤホンを外し、そう問い掛ける岩片にゲームを中断した岡部は「新聞部ですか?」と目を丸くさせる。

「なにか用でも」
「ん、まあ色々。場所わかる?」
「分かりますが……あんま近寄らない方がいいと思いますよ」

 そう不快そうに眉を寄せる岡部。
 確かに五条が部長をしてる部活という時点でそれは俺も思ったが岡部がこんな顔をするのも珍しい。

「なに、そんなに危ないわけ?」
「危ないというか、個人的に……」
「ほら、岡部もそう言ってんだろうが。潔く諦めろよ」

 岡部の反応が気にかかったのかそう不思議そうにする岩片に、俺はそう畳み掛けるように続ける。しかし、岩片は「んー」となんとなく納得いかなさそうな顔をするばかりで。
「なんだよ、その顔は」と尋ねれば「だってさあ」と岩片は口を開く。

「せっかくそいつのパソコン見たら写真いっぱい見れると思ったのに」
「……パソコン?なんでパソコンだよ」
「あれ?お前気付いてねーの?これ撮影した写真自動でパソコンに送信するやつじゃん」
「ああ、自動で……」

「……は?」ちょっと待て、こいつ今さらりと重大なこと言わなかったか。
 自動で?パソコンに?
 機械・プログラム関係に破壊的に弱い俺だが岩片の言葉の意味を理解した俺はそのまま硬直した。

「ちょっと貸してもらっていいですか?」
「ほい」
「どうも」

 そんな俺を他所に、岩片からカメラを受け取った岡部はそのカメラを弄り「……やっぱり」と小さく呟く。

「これって五条先輩のですよね」

 そう岡部は俺に目を向ける。
 まさかこのタイミングであの変態眼鏡の名前が出てくるとは思ってもいなくて、心臓が僅かにざわつきだすのがわかった。

「……岡部お前、五条のこと知ってんの?」
「俺一応写真部なんですけど、そのとき先輩とは何度か顔を合わせたことがあるんです」

 ドキドキしながら尋ねれば、カメラを弄る岡部はそう小さく笑いながら続ける。
 岡部と五条の接点、これは初耳だ。てっきり帰宅部一直線だと思っていただけに、岡部が写真部だというのに驚いた。言われてみれば、手つきがどこかなれている。
 岡部が写真部だというのに驚いたのは俺だけではないようだ。

「写真部?お前写真撮んの?」

 椅子から腰を上げ、作業する岡部の手元を覗き込む岩片はそう興味津々になって尋ねた。

「はい、よくカメラ持参でイベントとかに行きますよ」

 イベントと言われ、町内コンクールに出展する岡部が浮かぶ。
 ああ、それっぽい。それにしても、意外だ。もしかして口が軽い五条が岡部になにか吹き込んでないかと心配になったが、岡部の言葉を聞く限りあまり仲がいいわけではなさそうだ。
 それに、初めて五条と会ったときも写真部は幽霊部員みたいなことを言っていた。その心配は無用だろう。

「あ、多分これ転送先は写真部の方のパソコンだと思いますよ。あともう一つ転送先がありますが、恐らく五条先輩のパソコンですね」

「岩片君たちはパソコンのカメラのデータ見たいんでしたっけ」どうやら画像の自動転送先を調べてくれたようだ。
 作業していた手を止め、散々弄くり回したそれを岩片に渡す岡部。それを受け取りながら岩片は「俺はな」と続けた。

「でしたら放課後写真部まで案内しますよ。五条先輩のパソコンの方は無理でも写真部の方なら多分大丈夫です」
「つーかなんで二つも転送先あるんだよ、可笑しいだろ」
「写真部の方は写真を加工する機材やプログラムが揃っているからでしょうね。自分のパソコンに送るよう設定してあるのは俺には分かりませんが、強いていうならなにかあったときの予備かプライベート用ですかね」

 まさかデータがまだ残っていると思ってもおらず、内心動揺する俺に対し岡部は「俺ならそうします」と真剣な顔で小さく頷く。サラリと変なこと言わなかったかこいつ。

「まあ、現役写真部の岡部がいるんなら安心っぽいな!」
「大船に乗ったつもりでとは言いませんが、少しは期待してくれても構いませんよ」
「おー言うじゃねえの」

 くそ、どんだけ乗り気なんだこのもじゃ片は。
 岩片に褒められて嬉しいのかはにかむ岡部には岩片を止めるという選択肢はないようだ。
 こうなったら放課後岩片たちと写真部に行く前になんとかして岡部に頼み込んで写真部のパソコンの俺のデータだけでも削除させるしかない。そう冷静に考えたときだ。

「じゃ、早速行くか!」
「ああそうだよな、今は授業中だからちゃんと放課後になってから…………は?」
「だーかーらー写真部だよ、写真部。さっさと行くぞ」

 なにを言い出すんだこいつは、冗談はその顔だけにしろ。
 あまりにも突拍子のない岩片に「いや、今授業中なんだけど」と今更なことを口にすれば、黒板を一瞥した岩片は「ここ知ってるからいいんだよ」と笑う。
 そういやこいつ頭だけはよかったんだよないやふざけんな。

「俺は知らねえよ」
「なら後で俺が手取り足取り教えてやる」

 渋る俺に対し、そう下ネタで交わす岩片は「ほらハジメ、直人、さっさと行くぞ」と普通に席を立つ。しかし、やはりまともな岡部には常識というものがあるようだ。

「お……俺もですか?」
「あったりまえだろ!お前が居なきゃはじまんねーって」

 渋る岡部に対しそう励ますように岡部の背中を軽く叩く岩片。おい嬉しそうにするな岡部、利用されてるぞお前。
 結局岩片にほだされた岡部は慌ててゲームを仕舞う。そして、岡部を味方に付けやがった岩片はこちらを見た。

「んだよハジメ、ノリ悪いな。お前がそんなに行きたくねーなら俺らだけで行くか」

 もしかしたら「ハジメがいかないなら俺もいかない!」と言って写真部特攻を諦めてくれるかもしれない。
 そう思っていたが、どうやらその望みは薄いようだ。
 このまま渋ったところで岩片たちに俺の写真を見付かってしまうだろうし、こうなったら俺が直接出向いて岩片たちの隙を狙って写真を削除するしかない。

「……わかった、行くって、行けばいいんだろ」

 そう諦めたように続ければ、岩片は嬉しそうに唇の両端を吊り上げ笑みを浮かべた。

「そうだよ、最初からそう素直になればいいんだよ」

 本当にこいつは余計な一言が多いな。

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