馬鹿ばっか


 49

結論から言おう。俺が想定していた中でも最も最悪な展開であった。


「元……?まさか、尾張はじ……」


め、と言い終わるよりも先に、深い溜め息を着いた五十嵐が俺からブツを引き抜く。萎えたようだ。ずるりと内壁を這うその感覚に腰が震える。失われる熱と質量に一抹のもの寂しさを覚えてしまう自分の体が恐ろしかった。


「……面倒だな」


立ち上がる五十嵐は下着を履き直し、ベルトを締め直すわけでもなくただ野辺にズカズカ歩み寄り、そして。


「タイミングが悪すぎんだよ、お前」

「お……おいっ!その汚い手で触れるな!貴様清廉潔白ですみたいな面してとんでもない性欲猿だったとはな……見損なったぞ五十嵐彩乃!!」

「……いいからちょっと来い」

「離せッ!おい触るな!!ネクタイを引っ張るな!!猥褻物陳列罪及び暴行罪で訴えるぞ貴様!!」


ギャーギャーと暴れる野辺だったが、五十嵐は問答無用でズルズルと引っ張って生徒会室から出ていく。
大丈夫なのかあれはと思ったが他人の心配をしている場合ではない。


「……厄介ではありますが、書記に任せておけば悪いことにはならないでしょう。そう不安にならないでも大丈夫ですよ」


俺の気持ちを察したのか、能義は宥めるように首筋、唇付近に唇を寄せる。五十嵐は萎えていたが、こいつはというと萎えるどころか余計大きくなってる気配すらした。
やめろ、と腰を抱いてくる能義を引き剥がそうとした矢先だった。


「っていうかさぁ……何してるの?二人とも」


いつもの天真爛漫さはない、冷ややかなその言葉に俺はそこでもう一人の闖入者の存在を思い出す。


「か、ぐら……」

「……何してるの、って聞いてるんだけど?」


聞いたことのない、いつもの間延びした声とは違う。明らかに怒気を孕んだその声に、びくりと体が震えた。
神楽と視線がぶつかる。見られている。そう改めて自覚した瞬間、全身が焼けるように熱くなった。
答えられるわけがなかった。俺自身、何してるのか問い質したいぐらいだったのだから。


「見てわかりませんか?……尾張さんがお礼をしたいと言うのでしてもらっていたんですよ」

「っ、な、に……いって……ッ」

「五十嵐がいなくなってここが寂しいのでしょう?……丁度いい、会計。貴方もどうですか?一緒に」


ふざけるな、と俺が声を上げるよりも先に下から腰を突き上げられ、潰れる内臓。強引に押し広げられ、心なしか先程よりも開いた内壁を摩擦するように動かされる性器に息を殺す。声を殺したところで結合部から漏れる濡れた音は隠せない。能義の胸を叩き、動くのをやめさせようとするが、指先から力が抜ける。


「っ、……み、るな……ッ!」


思考がままならない。自分が何を言ってるのかすらわからない。混乱と動揺と強制的に与えられる性的快感とそれに伴う半端ない羞恥。
ただ、絡みつく神楽の視線に堪えられず、顔を隠そうとしたときだった。腕を掴まれる。
え、と思った次の瞬間、体が、腰が浮くのを感じた。


「ぅ、あ……ッ」


音を立て引き抜かれる能義のもの。それを感じる間もなかった。顔を上げればそこには神楽がいて、どうやら俺を無理矢理能義から引き離した神楽に、能義は不愉快そうな顔をした。


「会計、人が気持ちよくなってる最中に横取りなんて真似は紳士的ではありませんね」

「……先に独占しようとしたアンタに言われたくないな」


滴り落ちるものを拭う暇すらなかった。吐き捨てた神楽は、俺を引っ張るように歩き出した。縺れる足。能義は「貴方……」と驚いたような顔をして何かを言いかけていたが、やがてそれも扉とともに遮られる。

生徒会室前。
痺れと熱の残った下腹部ではまともに立つこともできなかった。蹌踉めく俺の肩を抱いた神楽は、何を言うわけでもなく足を進める。


「か、ぐら……ッ!!」


足が縺れ、転ぶ、と思った俺は咄嗟にやつの名前を呼ぶ。生徒会室からそう離れていない階段の踊り場、そこでようやくやつは足を止める。

神楽。何を言えばいいのかわからなかった俺は再びやつの名前を口にしようとして、その先は言葉にならなかった。


「……ッ!!」


掴んでいた神楽の手に引っ張られ、抱き寄せられる。
驚いた。当たり前だ。無言で男に抱きしめられて、しかもあの状況からだ。下腹部にじんと熱が増す。嫌悪感が込み上げ、咄嗟に神楽を引き剥がそうとするが、がっしりと抱き締められた体はちょっとやそっとじゃ離れない。


「は、なせ……」

「どうして副かいちょーたちなの?」

「……っ、へ」

「……どうして副かいちょーたちに股開いてんの?」


「俺にはあんなに嫌がってたくせに、なんで簡単にヤラれてんの?」腹部を抑えられ、全身が強ばる。下着の中、溜まっていた精液が溢れ出し、嫌な感触が下肢を濡らした。
神楽、と再度呼んだ声は掠れて消えた。見たことのない顔に聞いたことのない声。目の前の男があの神楽と同一人物だと俄信じられなかった。

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