馬鹿ばっか


 43※

「っ、も、やめろ……も、い……から……ッ」


情けない声が出てもいい、懇願せずにはいられなかった。
このままでは、自分が自分でなくなってしまうようで怖くて、不安だった。


「……おれが、悪かった……っ」


あんたに頼った俺が、全部。
なけなしの理性で告げれば、能義は少しだけきょとんとして……そしてその整った顔にいつもと変わらない笑みを貼り付ける。


「おやおや……そんな可愛い顔をして泣かないで下さい。……私は貴方を責めるつもりはないんですから、寧ろ、その逆……」


「助けてあげたい、と思ってるんですよ」細い指が頬を撫でる。なんの気無しに触れる指先は顎先から頬を滑り、能義は涙だか汗だかで濡れた頬に唇を寄せる。
それを避ける暇もなかった。


「……貴方が不安に感じることはありません、大丈夫ですよ。……私達は貴方を助けたいと思ってるだけなので」


ちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスを頬から口元、そして顎へと落とす。擽ったさもあったが、それ以上に、こんな状況で優しく慈しむような口づけは場違いのあまり、背筋が凍り付く。
ゆっくりと顔を上げた能義は俺の目を覗き込み、そして、目を細めて笑う。


「怖いのは最初だけです、次期慣れますよ」


耳を撫でられ、頭を掴まれる。目を伏せた能義は、躊躇なく俺の唇に吸い付いた。
有無を言わせない強引な口づけに、酸素ごと奪われる。唇の熱に嫌悪する暇も余裕もない。


「ッ、ぅ、ん、ふ……ッ!」

「っ、分かりますか……尾張さん、貴方の声も、体も……この唇も、甘くなってきてるのが」

「っ、や、め……ッ、ん、ぅ……ッ」

「……貴方は男を煽るのが上手ですねぇ……初々しい尾張さんも素敵ですが、男を知ってから……ここまで色気が増すなんて」


ねっとりと腰から背筋を撫で上げられる。
耳元で囁きかけられる言葉は到底シラフでは聞くに耐えない言葉ばかりだ。蕩けた能義の声は甘く、ねっとりと絡みつく。
言い返してやる気力も、唇を甘く噛まれ、舌を捩じ込まれれば何も考えられなくなった。


「……おい、能義」

「悪いですね、一番始めは私が貰いますよ。……先程から尾張さんを見てると……ここが痛くて仕方ないんです」


止める五十嵐の言葉も聞かず、そう能義は自分の下腹部を撫でる。
……見たくもない。どこでどうやったらそこまで勃起することができるのか、張り詰めた下半身は俺から見てもキツそうだと思うくらいだが……その先の展開を考えるのならば、冗談ではないという感想が真っ先に来る。流石に、血の気が引く。
昨夜の岩片とのあれこれを思い出し、血の気が引いた。
またあんなことを、それもこいつらにされると思うと生きた心地がしない。


「っ、ふざ、けんな……っ!一人でやれ……っ!」

「……ふふ、威勢が戻ってきたようですね……いいですよ、貴方のような方が啼く姿は何よりも唆られますからね」


腿を掴まれ、強引にソファーの上に仰向けにされる。
意図せず五十嵐に膝枕されるような体勢になり、慌てて起き上がろうとするものの、太腿を掴まれ、敵わなかった。


「っ、や、めろ……ッ」


腰を上げさせられるかのように、腿を掴まれた。イッたばかりの性器を持ち上げられ、その奥、隠されているそこを明るい部屋の中で晒される。
やつらの視線が突き刺さるのを感じ、羞恥のあまりに息を飲む。

昨日はまだ、部屋が暗かった。
岩片に見られただけでも死にたくなるほどだったのにも関わらず、能義は、この男は、人のケツの穴を見て「これはこれは」と笑うのだ。


「……随分と激しかったようですね。……ぷっくりと腫れてるじゃありませんか。一晩でここまで使い込まされるのも中々ないですよ」


笑う能義に、舌を噛み切って死にたくなる。
カッと顔が熱くなり、やつの顔をろくに見ることができなかった。腕で覆い隠したとき、晒されたそこにぬるりとした感触が触れ、ぎょっとする。


「っ、な、に……やめろ、やめろ能義……ッ!」

「……っ、ふふ、少しでも貴方が痛くないようにと労ってるんですよ……なんせ尾張さんは二回目ですからね、優しく……愛してあげなければ」

「っ、この、やろ……ッ!!」


足をバタつかせるが、開脚させられる形で腹まで折られたそこはちょっとやそっとじゃビクともしない。

……っ、こいつ、見かけによらずなんて馬鹿力だ。
暴れる俺をなんともなしに能義は押さえ込んだまま、閉じたそこに舌を這わせる。
周囲の皺をなぞるように這わせたと思いきや、尖らせた舌先を窄みに押し付けた。


「っ、ぅ……ッく、ふ……ッ!」


他人の熱を持った肉が、入ってくる。
昨夜の熱が、感覚が、全身に蘇るようだった。身を固くし、息を飲む俺に下腹部の能義は小さく笑い、そして、躊躇いなく顔を寄せ、更に舌を奥へと押し進めるのだ。


「ぁ、い、やめ……や……ッ!……ッ、い、がらし……ッ!」


濡れた舌が別の生き物みたいに中に入り込み、中に唾液を流し込むかのように舌を這わせる。
濡れた音が響き、堪らず、俺は頭上の五十嵐の腕にしがみついた。五十嵐は相変わらず何を考えてるかわからない目で俺を見下ろし、そして、慰めるように俺の髪を撫でる。

瞬間、ぐちゅ、と濡れた音を立て、能義の舌はねっとりと内壁を舐め回した。指とも、性器とも違う、生々しいその肉の感触に脳が赤く染まるような幻覚を覚えた。息が浅くなる。やつが動く度に髪が下半身をかすめ、息遣いすらもそこに鮮明に伝わるのだ。


「っ、く、ふ……ッ、ぅ、……ッ!」


腰が揺れる。嫌なのに、気持ち悪いだけのはずなのに、体の中が焼けるように熱くなって、性器に血が集まるのを感じ、絶望した。
逃げる腰を掴まえ、能義は悶える人の顔を一瞥し、それからまた深く舌を挿入させた。腿ごと腰を抱かれ、深く挿入されるその異物から滲む唾液は、摩擦とともに丹念に肉癖へと塗り込まれる。
ぐちゅ、ぐぷ、と時折空気が入ったような粘着音が腹の中で響き、恥ずかしさと死にたさでぐっちゃぐちゃになった頭の中では何も考えられなくなって、俺は、わけもわからず五十嵐の腕にしがみついた。


「っ、ぅ、く……ッ、ぅ……んん……ッ!」


五十嵐は、爪を立てる俺の手を振り払うわけでもなく、ただ好きなようにさせた。腰が揺れる。味わい尽くすように執拗に嬲るその能義の舌に耐えられず、俺は息を押し殺してイッた。……精液は出ない、先走りのような半透明の液体が先端からどろりと溢れるだけだった。

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