馬鹿ばっか


 42※

吐き出せることができるのなら今すぐ吐き出して口を濯ぎたいし、何ならうがいしたいくらいだ。
けれど、拒むこともできずに流し込まれたそれは確かに喉奥へと落ちていく。


「ふふ、ちゃんと残らずごっくんできましたね。……偉いですよ、尾張さん」


そっと頬から耳の付け根までを撫でられ、震える。
羽のような柔らかな声が余計耳障りで、癪で、見下ろすその目を睨み返せば、能義は満足げに笑った。
何が偉いだ、本当に飲ませるやつがいるか。
文句の一つでも言ってやりたかったが、それよりも口の中の違和感諸々が半端なくて、まともに口を閉じることができなかった。ずっとえずいてる俺の顎を捕らえ、能義は躊躇なく唇を重ねてくる。


「っ、ん……ッ」


何度も角度を変え、まだ精液が残ってる口の中を舐め回す能義。それを見て、背後の五十嵐は「変態が」と呆れたように吐き捨てる。


「どの口で言いますか。愛らしい尾張さんに反応してる貴方も同罪ですよ」

「……よくわかったな」


そう言って、腰の違和感もとい五十嵐のブツを押し付けられ、震える。「やめろ」と、なるべく口で息をしないように歯向かうが、それでやめてくれるような聞き分けのいい連中ならごっくんさせられることもなかったはずだ。


「い、がらし……」


なるべく感触を感じないように必死に腰を浮かせようとするが、虚しい抵抗だった。


「能義にしゃぶらされただけで興奮したのか」

「っ、違……」

「違わないだろ」


傍目でも分かるほど盛り上がった下腹部をスラックス越しに撫でられ、息が漏れる。
囁かれる低い声に、吹きかかる吐息に、その熱に、全身に感じる五十嵐という存在を知らしめられてるようで。


「そんな隙ばかり見せるからこうなるんだ」


「……ッ」


それは、能義に聞こえないほどの声量だった。
咄嗟に五十嵐の方を振り返ろうとしたとき、やつと目が合い、息を飲む。相変わらず何を考えてるのか読みにくい仏頂面だが、こちらを見据えるその目には確かに『あのとき』と同じ色が滲んでいて。
視線がぶつかったとき、唇に噛み付くようなキスをされる。躊躇なく唇の甘皮ごと噛まれ、舌で嬲られ、歯列をなぞられる。


「っ、ぅ、ん、う、んんッ」


呼吸も儘ならない。器用に緩められるウエスト、その中、下着越しに触れてくる無骨な掌の感触に全身が反応する。ただでさえパンパンになっててキツイのに、それをほぼ直接触れられ、死ぬほど恥ずかしくなる。
萎えてなければならないのに、萎えるどころか先程以上に固くなってるのは事実だ。そのことに何よりも自己嫌悪した。先走りの滲む下着、その上から複数の指で弄られ、先端を捏ねるように揉まれれば恐ろしいほど腰が蕩けそうになる。


「尾張さんは感じやすいようですね。……この男は私よりも性格が悪いのであまりそんな可愛い反応しない方がいいですよ、しつこいですからね」

「放っておけ」

「図星指されても否定しないところが恐ろしいですよね、ああ、可哀想な尾張さん。このはち切れんばかりの胸、私が慰めて差し上げますからね」


なにを言い出すんだこいつは、と青褪めるよりも先に、襟を開くように上着を脱がされる。舌なめずりする能義が視界に入り、デジャヴ。血の気が引いた。
胸に這わされる掌から逃れようと背を反らすが、背後の五十嵐に凭れるような形になる。あ、と思ったときにはもう遅い、離れたばかりの唇に再度唇を塞がれる。
胸と下腹部、両方を別の手に弄られ、思考があっちこっちに飛んでは何も考えられなくなる。


「っ、ふ、ぅ、んん……ッ!」


濡れた下着の中、グチャグチャと絡みつく水音は増すばかりで。心臓の音が加速する。汗が溢れる。
肌に張り付くワイシャツ越しに胸に顔を埋めた能義はごく自然な動作でシャツに浮き出た突起物を舐めるのだ。布越しとはいえ、まさか舐められるとは思わなくて体が、声帯が、震えた。


「っ、ぅ、ん、ん……ッ!」


身を捩れば捩るほど拘束は強まるばかりで、息が浅くなる。腰が痙攣する。触れられる箇所が甘く痺れる。
岩片に触れられた場所を上書きされるみたいで、嫌だった。そう思った瞬間、自分の思考を疑った。

なんだよ、なんだよそれ、それじゃあ、まるで俺は――……。


「んんぅ……ッ!!」


五十嵐の指に尿道口部分を縦にツブされた瞬間だった、辛うじて均衡を保っていたそれは呆気なくぶっ壊される。焼けるように熱い下腹部。溢れ出す熱を止めることはできなかった。下着の中、気持ち悪い感触が広がる。正直、死にたさの方が強い。
俺はなにをさせられているのか。
溢れる精液に、二人は顔色を変えるわけでもなく、愛撫する手を止めることはなかった。


「っ、ぅ、ん、ッふ、ぅ……ッ!」


出したばかりのそれでどろどろに汚れた下着を擦り付けるようにそこを擦られる。射精したばかりにも関わらず、 芯を持ち始める自分のそれに死にたさしかない。


「っ、尾張さんはイクときは目を瞑るんですね、可愛いですよ、そういうところも」

「っ、も、や、め……ッ」

「ここでやめたところで貴方も不完全燃焼でしょう。……それに、貴方がなにもかも忘れるまで付き合うと約束したじゃありませんか」


「ねえ?」と、片方の乳首をシャツの上から摘まれ、仰け反る。「やめろ」と言ったところでこいつらが聞かないことはわかっていたが、それでも懇願せずにはいられなかった。
唾液をたっぷり含んだ舌シャツの上から濡らされ、浮き上がるそこを口に含まれる。血が集まり、凝り始めるそこを甘噛みされるだけで息が止まりそうだった。
胸に埋めるやつの頭部が視界に入るのが嫌で嫌でたまらなく嫌で俺は目を瞑る、息を殺す、声を抑える。けれど、五十嵐に下着をずり下げられ、勃起したそれを取り出された瞬間「ぁ」と間抜けな声が漏れてしまう。
顔中にカッと熱が集まった。


「やめ……っ」

「このままじゃ辛いだろ」

「っ、辛くない、こんなの、全然……」

「そうですか?私にはもっと弄ってくださいって涎垂らしてるようにしか見えませんが」

「珍しく同意見だ、能義」 

「ひ、ぃ、あ、嫌だ、やめろ……ッ嫌だ、いがらし……」 


言いかけた瞬間、亀頭部分に五十嵐の太い指先が充てがわれる。凹凸部分を指の腹で擦られ、電流が走ったみたいに全身が痙攣した。


「ッ、ぁ、嫌、だッ、やめ、ッや、ぁ、あ!」


自分のものとは思えないほどのでかい声が喉から溢れる。止めることはできなかった。
逃げる腰を捕まえられ、根本から全体を鷲掴むように握り込まれ、そのまま執拗に亀頭を重点的に責められる。
開きっぱなしの口から唾液が溢れ、たまらず、俺は能義の頭を抱き締めていた。舌に、指に、両方同時に責められ、逃げる場所もない。抑え込まれた体は行き場を失い、ぐるぐると全身を駆け巡った。
二発目の射精は一回目よりも呆気ないものだった。直接的な愛撫に耐えられず、呆気なく俺は再び五十嵐の掌で果てた。

 home 
bookmark
←back