馬鹿ばっか


 41※

見られた、それもしっかりと。
隠すことも出来ず、逃げることもできず、嫌な汗が流れ落ちる。


「……何やってんだ、お前ら」


呆れたような、興味なさそうな、そんな顔でこちらを見てくる五十嵐に正直、生きた心地がしなかった。
最悪だ、最悪である。「これは能義が」なんて言ったところでもう遅い。


「見ての通り、尾張さんが『お礼をしたい』なんて言うので付き合ってもらってたんですよ。……ねえ?」

「なに言って……ッんん゛!」


反論のため、口を開けた瞬間舌を掴まれる。
「そうですよね、尾張さん」なんてニコニコ笑いながら舌の肉を指の腹で擦り上げられ、開きっぱなしになる口内から涎が溢れた。不可抗力だった。


「よろしければ貴方も混ざりますか、書記」


こいつ何を余計なことを言ってるんだ。涼しい顔してとんでもないことを言い出す能義にせめてもの抵抗として思いっきり指に噛み付くが、やつにぐっと舌を引っ張られてしまえば「ぁえ」っと間抜けな声とともに力が抜けそうになる。


「っ、ひ、はは……ひゃへほ……っ」

「大丈夫ですよ、書記は口が硬い男なので、きっと貴方に悪いようにはしない」


「そうでしょう、彩乃」名前を呼ばれた五十嵐は相変わらず仏頂面だった。やめろ、違う、というか助けてくれ、そんな念を五十嵐に送るが、届いてるかどうかはわからない。
そして、暫しの沈黙の末、五十嵐は「そうだな」と袖口を捲りあげる。


「この間は抱き損ねたからな、丁度いい」


耳を疑う。いっそのこと、聞き間違えであればよかった。
近付いてきたやつに全身が竦み、咄嗟に逃げようとしたところを「おっと」と能義に抱き止められる。


「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、貴方が痛がるような真似はしないので。……まあ、書記はどうかは知りませんが」


ソファーの上、俺の隣にどかりと腰を下ろした五十嵐は躊躇なく俺の腰を抱く。太い筋肉質な腕に掴まれれば逃れられない。逃げようとする俺の耳元、唇を押し付けるように顔を寄せた五十嵐に、その吐息に全身が強張ったとき。


「……少し我慢しろ」


そう、五十嵐は確かに口にした。
どういう意味だ、と思わず聞き返そうとしたときだった。
体を抱き抱えられ、力ずくでやつの膝の上に座らせられる。
先程よりも高くなる視界。
先程よりもより近い位置にくる能義の下腹部にぎょっとしたときだった。

口内の能義の指に思いっきり口を開かされる。無防備に舌を突き出すような形になってしまい、嫌な予感に慌てて口を閉じようとするも、開きっぱなしだった顎にはうまく力が入らない。
瞬間、目を細めた能義は躊躇なく口内に再度勃起し始めてるそれを捩じ込む。


「っ、ん゛……ッ、ぅ、ぷ……!」


吐き出したいのに舌の上、滑るように喉の奥まで咥えさせられるそれは吐き出すことができない。
顎が外れそうなほど開かされたそこにただでさえ苦しいのにそれどころか後頭部をがっしりと抑えられ、口蓋垂を掠めるその肉の感触に吐き気を覚える。苦しい、それ以上に、耐えられないほどの異物感と吐き気に視界が霞む。


「っ、尾張さんの口の中、すごい熱いですね……苦しいですか?喉の奥、必死に私のことを締め付けてきてますよ」


「愛らしい」とうっとりした顔で呟く能義は言うなりゆっくりと動き始める。固定された顔、咥内、その喉全体を性器に見立てて内部を摩擦される度に瞼の裏が点滅し、頭の中がどろどろに溶けていくような錯覚を覚える。
身をよじらせ、少しでも離れようとするものの背後の五十嵐の腕が邪魔で動けない。
先走りと唾液、そして先程の射精で残っていた精液が口の中で混ざり合い、能義のものを濡らしていく。口の中で響く粘った水音に、酷く恥ずかしくなった。


「っ、ふ、ぅ……ぐ……ん゛ん゛……ッ!!」


我慢しろ、って言ったって。
今すぐ諸々吐き出して口を濯ぎたい衝動に駆られる。
髪を掬うように指の腹で頭を撫でられる。喉の奥、内壁を掠める度に吐き気が込み上げ、えづいた。それが能義は酷く気持ちいいらしい、腰を動かし、その度に恍惚とした表情で息を吐く能義に殺意を覚える。動くな、やめろ、死ね、糞、この変態野郎。
色んな罵倒で思考が塗る潰されるが、それもすぐに掻き乱される。

腰に回されていた五十嵐の手に膝小僧を掴まれる。
え、と思った矢先、大きく脚を開かされ、心臓が跳ね上がりそうになった。


「っ、ん゛ッ、ぅ、う゛ゥ!!」


おい、話が違うだろ、我慢しろって言ったのはそっちのくせに、なんで。
こんがらがる思考の中、脚を閉じようとしたところに五十嵐の脚が、膝が、股の間に割って入る。五十嵐の膝が邪魔で閉じるにも閉じれず、無防備に晒されるそこにやつの手が伸びてきて、体が震えた。
心臓が破裂しそうなほど煩い。
五十嵐がどういうつもりかわからない、わかりたくもない、どちらにせよ間違いないのは今この展開はとてもよろしくないということだ。


「っ、……いいですよ、尾張さん、そんなに恥ずかしがらなくとも私と書記しかいないんですから……人のものしゃぶらされて顔射されて手を握られただけで勃起してようが今更引きませんよ」


ゆるく腰を動かしながら俺の下腹部に目を向けた能義は喉を鳴らして笑う。指摘されて酷く恥ずかしくなる。それ以上に、誰のせいだという憤りすら覚えた。
条件反射、だと思いたい。芯を持ち始めていたそこを五十嵐に握られたと思いきや、制服越しに揉まれる。
大きな掌に全体を柔らかく包み込まれ、やんわりと押し潰すように動くその手に腰が震えた。
嫌だ、と腰を浮かせそうになるが、片方の腕で腰を抱かれ、頭を能義に掴まれてるせいか動くことも儘ならない。


少しでも助けてくれるのだろうかと期待した俺が馬鹿だったのか。
全く遠慮のないその手の動きに、全身の体温がより増す。思わず体に力が入り、能義は息を漏らす。後頭部を掴む手に力が籠もり、口の中のそれは更に大きくなる。上顎を強引に開けられるような内側からの圧迫感。
まじで、口が壊れる。絶対おかしくなってる。今度からちゃんと閉じられるのだろうか。そんな不安とは裏腹に能義は楽しそうで。


「……ッ尾張さん、もう一踏ん張りですよ」


舌の感触を味わうように丹念に裏スジを擦りつけられ、奥を何度も小刻みに突き上げられる。溺れる。水に浸かってるわけでもないが、まさにそんな状況だった。
能義の腰を離そうとやつの細い腰を掴むが、力が入らない。それどころか、下腹部を弄られ、何も考えられなくなる。


「ぅ゛ッ、んお゛、ぶッ」

「……ッ貴方のその可愛い舌で、根本まで可愛がってください。そして早く私をイかせて下さい……あぁ、貴方の喉に、体の奥に、私をいっぱい注ぎたい、この舌に何を食べても私の味以外感じなくなるようにしたい」

「ん゛ゥ゛ッ、」


後頭部に回された両手にガッチリ固定された咥内、何度も出し入れを繰り返されるそれは確実に絶頂に近付いている。
脈打つ性器は限界まで張り詰め、いつも涼しい顔した能義の顔に汗が流れ落ちた。紅潮した頬、血迷いごと、知能指数が下がってるやつの発言にいちいち突っ込む気にもなれなかった。今はバカみたいなピストンを受け止めるので精一杯で、体が引き攣る。五十嵐の腕を掴んでいた手に力が籠もる。喉が乾いた、なんて考える余裕もない。口の中のそれが微かに反応した。くる、と身構えた瞬間、喉の最奥まで捩じ込まれたそこで熱が弾けた。焼けるような喉、絡みつくその独特の匂いのそれを吐き出すことも許されなかった。
直接喉の奥へと注ぎ込まれたそれは俺のなす術なく腹の奥へと流れ込む。

 home 
bookmark
←back