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「か……神楽……っ」
「ん?どうしたのー?そんなに怖い顔してさぁ?」
まるで何事もなかったかのようにヘラヘラ笑う神楽麻都佳に怒りを通り越して呆れ果てる。
だってそうだろう、あんな真似しておいてこんな態度。……いや、それなら政岡だってそうだ。……俺がおかしいのか?
「そうそう、ご飯食べに行くんだよねぇ。いいねいいねぇ、俺も一緒に行っていい?」
「ダメに決まってんだろうが、先に尾張をさっ、誘ったのは俺だからな!」
「えーいいじゃんそんなのー!かいちょーのケチー!」
それを言い出したら元々は岡部が先約なのだけれど。
突然現れた喧しい生徒会役員二名に隠そうとしないほど嫌な顔をした岡部に、「なんか悪いな」と声を掛ければ岡部は慌てて首を横に振る。
「いえ、俺は別にいいんですけど……尾張君は大丈夫なんですか?」
正直、お断りできるならお断りしたい。特に神楽。
けれど、このまま断ったところでこの二人はついてくるだろうし無駄に騒いで時間の無駄にしては授業に間に合わなくなる。
「俺は別に構わないけど」
「ほら、尾張だっててめぇの顔を見ながら飯食いたくな……え?」
「わーい!さっすが元君!話分かるぅー」
「おっ、おい、いいのか?」
「ああ、どうせどこで食ったって一緒だろ。なら、好きにしろ」
「やった、元君大好きだよそういうところ」
俺は嫌いだけどな。
今は下手に刺激して事をややこしくしたくない。
という一心で行動したつもりだが、政岡にとっても俺の行動は予想外のものだったらしく。
今思えば岩片の目もない状況下、半ばヤケクソになっていたのかもしれない。
という訳で、俺、岡部、政岡、神楽という奇妙なメンツで食卓を囲むことになったわけだけれども。
「おい、尾張、お前全然箸進んでねえじゃねえかよ。ほら、俺のケーキやるよ!」
「元くぅーん、かいちょーのケーキより俺のウインナー上げるよー。ほら、ジューシーだよー美味しいよー」
「……」
「……」
上から政岡、神楽、岡部、俺。
どんどんと寄せられるお供え物もとい貢物に正直食べる気になれない。特に神楽。
「や、俺はいいからさ、自分で食えよ」
「うっわー俺のこと考えてくれるなんて元君すっげー優しい」
「てめぇの箸つけたものなんて食えねえっつってんだよ尾張は、分かれよ!」
「はぁ?かいちょーだってどうせそのイチゴ舐めまくって、それ元君に食べさせる魂胆のくせに!」
「んなわけねえだろ!てめぇと一緒にすんなよ!」
それにしてもこの騒がしさ。
食堂自体、様々な生徒がいるだけあって煩い場所だけれどここの席はその中でも一番だろう。
こんな煩い二人を前にして黙々と食べている岡部の神経の図太さには尊敬せずにはいられない。
と、思いきや箸を置いた岡部。
どうやら全て平らげたようだ。
「岡部、お前もう食い終わったのか?」
「ええ、ご馳走様でした」
「早いな、食うの」
「元々早食いみたいなんですよね、俺。予定がある時とか詰め込んで食うから癖がついちゃって」
岡部の言う予定というのは以前言っていた撮影会がどうたらってやつなのだろうか。
俺としては羨ましい癖だった。特にこの場から逸早く立ち去りたい今とか。
「岡部、これいるか?」
「え?サラダいらないんですか?」
「なんか食欲ねーから」
「それなら頂きますが……ありがとうございます」
「えっ、なにそれ俺も欲しい!元君のサラダ欲しーい!」
「俺は岡部にやったんだよ。それに……お前ら喋ってばっかしてねーでさっさと食えよ。遅刻するぞ」
「遅刻とさぁ、気にしなくていいってここでは。本当元君ってば真面目だよねぇ。ゆっくりでいいんだって。……ね、かいちょ……え?!」
「ほうらな……ほはひほひふほふひは、ひほふはほふはひ」
いつの間にかに全て平らげている(口に詰め込んでる)政岡に俺と神楽は驚愕する。
別にそこまで慌てなくてもいいのだが、というか最早何を言っているのか分からない政岡だがどうやら俺に賛同してくれているようだ、なんかうんうん頷いていた。
というわけで、俺と岡部(と政岡)はまだ食べ終わっていない神楽を置いて食堂を後にした。
その数分後、先程の政岡みたいになった神楽が「はっへー」とか言いながら走ってきたのは言うまでもない。
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