馬鹿ばっか


 2

「それにしても岩片君、どこに行ってるんですかね」

「さぁ?あいつのことだからその辺ほっつき歩いてんじゃねえのかな」

「だと良いんですが……」

「……」


通常ならば、岡部の反応が正常なのだろう。
けれど俺にとって今、岩片がいないことが助けだった。
あいつを前にしたとき、どういう顔をしたらいいのかわからない。
いつも通りでいいと分かってるけれど、いつもがどういう風だったのか分からなくなるのだ。


「尾張君?」

「へ?」

「……どうかしたんですか?さっきから元気なさそうですけど」


岡部に勘付かれるとは、相当分かりやすかったのだろう。
上手く取り繕うことすら出来ない自分が情けなくなると同時に、岡部にまで気を遣わせてしまうことに申し訳なくなる。


「いや……ちょっと疲れが溜まってるみたいでさ、悪い、気にしないでくれ」

「ですが……」

「それより岡部、お前もう飯食ったのか?」

「いえ、俺はまだですが……」

「そっか、なら食い行くか」

「……そうですね、行きましょう」


変に空振っていないか気が気ではないが、岡部は何も言わずに俺についてきてくれてる。
つくづく格好悪い自分がイヤになってくる。
歩いている間、せめて岡部に気を遣わせないようにこっちからあれやこれや話題を振ってみるが喋れば喋るほど中身がなくなっていく感じがした。

そしてやってきた食堂前。

飯を食えばこの気分もいくらかマシになるのだろうか、そんなことを思いながら入り口を潜った時だった。


「お……おい!尾張元!」


突然、呼び止められた。
大きな声、その微かに震えてる気がしないでもないその声には心当たりがあった。
声のする方を振り返れば、案の定そこにはやつがいた。


「お……おはよう!」

「……政岡」


まさかこんなところで出会うとは。
怒ってるのかと思いきやそうではないらしい政岡に、つい釣られて笑いそうになってしまう。


「あぁ、おはよう」

「なんだお前、一人か?」

「いや、一人じゃないけど」


「こいつも一緒だ」と、隣の岡部を振り返る。
歩み寄ってくる政岡に思いっきり顔を顰めていた岡部は、俺に示されると慌てて「どうも」と頭を下げる。
岡部から嫌って程感じる警戒心に政岡も気付いたようだ。


「へぇ、誰、こいつ」

「クラスメートの友達」

「へぇえ?」


至近距離からジロジロと岡部を睨む政岡。
そんなんだから岡部に警戒されるのではないだろうかと思わずにはいられなかったが、このまま無視するわけにもいかない。


「政岡、お前、食堂行くんじゃないのか?」

「あぁ、そーだけど」

「早く入らねーと食べる時間無くなるぞ」


と、遠回しに岡部を庇ってみる。
一旦岡部から離れた政岡だったが、今度は何やら言いたそうにもじもじし始めた。


「なぁ……尾張」

「何んだよ」

「良かったら、俺と一緒に……」


一緒に?
ご飯を食べようと言うことだろうか。と、政岡の言葉の続きを待った時だった。


「あーーー!!かいちょーが抜け駆けしてるー!!」


緊張感のない、この脱力するような声は、まさか。
全身から変な汗が溢れ、恐る恐る振り返ろうとした矢先。
ずどん、と主に上半身に衝撃が走る。


「お、尾張君……」

「やだやだやだー!俺もっ、俺も元君と抜け駆けしたいー!」


衝撃の発生源もとい抱きついて来た神楽に、恐らくこの時の俺は魂が半分ほど口から飛び出していたに違いない。


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