馬鹿ばっか


 64※

「っ、く、ふ……ッ」

「可愛いねえ、ハジメ君。声我慢しなくていいのにさぁ?」


ねちねちねちと下半身主にケツに絡み付いてくる神楽の細い指が鬱陶しくて堪らない。
振れられれば触れられるほど焼けたように熱くなるケツの穴に下半身まで痺れが回り、神楽が支えてくれなければとっくに崩れ落ちていたかもしれない。
そんな、この状況がただ不快で、それでもまだ頭の中は靄がかったままで。
正直、長時間この体制のお陰で自分の中のあらゆるものが決壊し始めていた。
このままではまずい。
なけなしの理性で踏ん張りつつ、俺は状況打破のため視線を動かした。
取り巻き含め四対一。まともじゃない今、神楽一人相手にすることすらままならないだろう。
ならば、と俺は決心する。整復のポケット、封印していた岡部特製唐辛子スプレーを取り出そうと手を伸ばした時だった。


「っ、ぁ……?!」


体内奥深く、複数の指に同時に一点を抉られ、ほんの一瞬、全身の筋肉の機能が停止する。
そして、そうとなれば掴みかけていた殺人スプレーは俺の指から擦り抜けるわけで。

カラン、と軽快な音を立て足元に落ちるそれを神楽が見逃すはずがなかった。


「ん?……何これ」

「っそ、れは……」


やばい、これはやばい。
加速する脈。毛穴から汗が噴き出す。
慌てて拾おうとするも、しゃがむことすら許してもらえないこの体制じゃ叶わぬ夢で。
そんな俺の代わり、何気ない顔をしてスプレーを拾った神楽は不思議そうに指で弄び、そして、蒼白な俺を見る。


「なんだろうねえ、これ。ハジメ君で試してみようか?」

「やめろッ!」


しまった、と思ったのは神楽の嫌な笑顔を見てからだ。
自分の失言に気付いたところで何もかもが遅い。


「なるほどねぇ、ろくなもんじゃないと」


確かに、ろくでもないけど。そりゃもう想像つくくらい。


「そんな危ないものはぁ、没収でーす!」

「ぁ……ッ!」

「ハジメ君はぁ、俺のことだけを考えてたらいいんですうー」


拗ねた子供のような口調でそうダダ捏ねる神楽。
一気に指を引き抜けれ、腹の中の異物感がなくなると同時に微かに湧き上がる喪失感にも似た感覚に苛まれる。
これで終わり、なのだろうか。こいつに限ってそんなわけないのだろうが。
そして、案の定、


「……っ!」


ソファーの上、押し倒されるように寝かされ、頭の中がぐわんと揺れる。
浮遊感、というかまだ夢を見ているようで。
覆い被さってくる神楽の手に腿を掴まれ、全身が緊張した。



「っ、ぅ……ッ」

「こうやったらハジメ君の恥ずかしいところ丸見えだねぇ」

「言うな、ってば……ッ」

「アハハっ!だってほら、指だって……すんなり入っちゃうし」


腰を上げさせるよう抑え付けられた両足の間、剥き出しになってあるでろうそこにずぷりと音を立て捩じ込まれる神楽の指に背筋に寒気にも似たものが走る。
体制もあり、息苦しい。
それ以上に、顔を覗き込まれるこの体制が、予想以上にキツイ。


「っ、ん、ぅ、うぅ……ッ」

「ハジメ君が挿れて下さいーって可愛くお願いしてくれたらもーっと気持ちよくさせてあげるよぉ?」


ローションでぐちゃぐちゃになったそこはすんなりと神楽の指を受け容れる。そりゃあもう、俺の意思も無視して。
体内、円を描くよう掻き混ぜてくる神楽の指に落ち着きかけていた呼吸が浅くなり、視界が、霞む。


「もっと太いの挿れて欲しくて堪らないんじゃない?」

「んなわけ……っ」

「本当に?」


「少し撫でただけでもすごいヒクヒクしてるよ?」そう無邪気な顔をして躊躇いもなく品の欠片もないことを口にする神楽。
同時に、肛門付近を親指でなぞられ、顔がカッと熱くなる。


「……ッ」

「指だけじゃ物足りないでしょ?」


物足りない、なんて思うわけがない。
なのに、何故だろうか。神楽の甘い言葉に、神楽に挿入される自分を想像したら酷く気分が滅入って、それ以上に焼けるように胸の奥が熱くなって。
恐らく、これも神楽の妙な薬のせいだろう。
そう、思いたい。


「そんな目で見たってダメだよ。……ちゃーんと言ってよ、ハジメ君の口から」


「直接」と唇を甘く噛まれ、身が竦む。
弄ばれ続け、ジンジンと疼く下半身に力が入るのが自分でも分かって、それが余計恥ずかしくてたまらない。


「っ、か、ぐら」

「んー?」


霞む、視界の中、無意識に神楽の名前を呟いていた。無意識に神楽の服を掴んでいた。
俺は、何をしているのだろうか。何をしようとしているのだろうか。落ち着け、落ち着け。けれどどうせ開放されてもらえるのならばケツの一つや二つ神楽に……いや、落ち着け俺。


「……」


頭とは裏腹に、体の方は限界を感じているようで。
自分の口が、次の言葉を発しようと動いた、その時だった。


「神楽ァ!!此処か!!」


遠くから聞こえてくる、聞き覚えのある喧しい声。
あれ、確か、前にもこんなことがあったような気が。
熱に当てられた脳味噌で、ぼんやりと考えながら声のする方を向けば、そこには政岡がいた。


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