馬鹿ばっか


 65


「っな、なに、やってんだテメェ……」

「え〜?何って?元君と親睦深め中みたいなぁ?」


政岡が来たというのに手を止めようともしない神楽に心臓が死にそうになる。
ただでさえどうしようもない状況だと言うのに馬鹿力の政岡まで来たらそれこそ突破できる気が出来なくなる。
終わった。
そう、今度こそ確信したときだった。


「……そいつを離せ」

「え?」

「いいから離れろっつってんだよ!」


予想してなかった政岡の反応に、神楽も、舎弟も、そして俺も目を丸くした。


「ちょ、ちょちょちょ、何マジになってんのぉ?……つーか、元君を最初に捕まえたのは俺だからねぇ。横取りはダメでしょ。…………ま、どうしても交ぜて欲しいって言うんなら――ルールに乗っ取ら……」

「ウォルァァ!死ねブタ!!」


神楽が喋ってる側から舎弟を殴り飛ばす政岡。
見事なアッパー。


「ちょっと待ってせめて最後まで言わせて!」

「神楽テメェ何思い上がってんだよ、お前みてーなモヤシが俺に勝てると思ってんのか?あ?!」

「さっすが、空気読まない脳筋かいちょー……」


「でも、会長とタイマンだけはまじで避けたいんだけどな……っ」このままではまずいと思ったのだろう、俺の上から退いた神楽は制服のポケット何かを取り出した。


「っそ、れは……」


神楽が取り出したそれは、俺から奪ったあの殺人スプレーだった。
やばい、駄目だ、そう慌てて止めようとするが、麻痺してきた体は口も例外ではないようだ。上手く言葉が出なくて。


「えーいっ!」


政岡の顔面目掛けて神楽がそれを思いっ切り噴出した。
瞬間、先端部から勢い良く吹き出す霧状の何か。
同時に、爽やかな柑橘の薫りが辺りに広がった。
ん……?柑橘?


「……」

「……」

「……」

「……良い匂いだな」

「……そだね」


流れる沈黙。痛がるどころか反応に困ってる政岡。
頭の中で『僕お気に入りの香水スプレーと間違えました☆』と笑ってる岡部が浮かぶ。
あ、あいつ……!肝心なところでドジやりやがって……!いや良かったけど!何もなくて何よりだけども!


「っ、うわ」

「元君ッ!」


スプレーの中身が殺人スプレーでないことに安堵するも束の間、政岡に乱暴に抱えあげられる。


「会長〜!せっかく俺元君捕まえたのに酷いよ〜っ!」

「うるせぇ!今度飯奢ってやるからいいだろ!」

「焼き肉じゃないとやだからねーー!」


焼き肉で手を打たれてる事実を悔やめばいいのか、問答無用で政岡に連れ出された俺は一先ず神楽から逃げられたことにほっとした。状況が悪化してるとかそういうことは今は考えたくなかった。


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