馬鹿ばっか


 63※


「……ッ、な、んだよ、これ」

「んん?あれぇ?ハジメ君知らないのぉ?」


いや知ってるけども、残念ながら知ってるけれども。
なぜそんなものが俺のケツに練り込まれなければならないのかが理解出来ない。
ローション絡ませた神楽の指にケツの穴拡げられたかと思えば問答無用で入り込んでくる複数の指に、流れ込んでくる生温いそれに、背筋が震えた。


「っ、や、め」

「言ったでしょー?俺、初めての子には優しくする主義だってさぁ」


こんな優しさいらない。
神楽から離れたいのに、ケツを揉んでくるその手を止めるだけでも精一杯で、それすらまともに止めることも出来ない今ポケットの殺人スプレーを取ることすらままならない。

せめて、隙を。そう思うのに、体の中、蠢く複数の指に乱雑に内部を刺激されれば頭の中が真っ白になって、あ、ちょっと待ってまじでやばい。なんか、めっちゃ涎止まらない。


「ッ、指、やめろ……っ」

「いいよぉ、止めてあげる」


耳元、囁かれる予期せぬ言葉にまじで、と動きを止めたとき。
神楽の薄い唇が笑みを浮かべる。


「君が俺と付き合ってくれるんならねえ」


どうせそんなことだろうとは思っていた。
土下座くらいならしてやろうかと思ったが、俺にも事情ってものがあるのだ。
これくらいで屈服したことでネチネチ岩片に詰られるくらいなら、ケツ弄くり回されるくらいどうってこと……あるけど、その言葉にだけは従う気にはなれない。


「い、やだ……ッ」

「あれえ?なんでえ?結構、俺達上手く行くと思うんだけど」


何を根拠に、性生活の擦れ違いから付き合って二日で破綻するのは目に見えているだろう。
そもそも、大前提として俺は男と付き合うつもりはない。
ないのだが、


「っ、は、ァ」

「ほぉら、すごいハジメ君のナカ、俺の指に吸い付いてくるしぃ?ぜーったい相性いいって、俺達」

「……ッ」

「ねえ、ハジメ君?」


耳元、寄せられた唇にそのまま耳朶を舐められればぞわりと全身に鳥肌が立つ。
同時に執拗に中を揉み解してくる神楽の指の感触に、全身の熱が上がるのが分かった。
腹の奥底、不快感とともに競り上がってくるなにかに息が苦しくなって、視界が霞む。サウナに入ったみたいな、あまりの熱で脳味噌茹で上がったんじゃないかと思うほどだ。


「や、めろ……ッ」


ローションを練り込むように動くやつの指先に腰が震えそうになる。
口だけでも、否定しなければそれこそどうにかなってしまいそうだった。
そして、その度に神楽は、


「じゃあさ、付き合ってくれるの?」


耳元で囁かれるその声は酷く甘く響く。
付き合えば、やめてもらえるというのか。
執拗にケツばかりを弄ばれられ、そろそろ肛門の形が変形してきたのではないかと思いはじめていた俺だったが脳裏を掠めるモジャ野郎の顔に慌てて思考を振りはらった。
唇をきつく結び、何も応えない俺に神楽は少しだけむすっとした。それも束の間のことだ。


「……まあいいけどねえ。持久戦は俺、得意だからさぁ」

「っ、ぃ」


指を挿入したまま腰を掴まれたかと思えばそのままぎゅうっと抱き締められる。真正面から抱き締められ、上半身も下半身も密着した状態、下腹部、擦れる嫌なその感触にまるで生きた心地がしない。


「降参したくなったらいつでも言ってよ。止めてあげるからね?」


そういって、もう片方の空いた手、指に舌を這わせた神楽は笑う。
岩片、お前が今まで神楽を嫌っていたわけがわかったぞ。

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