馬鹿ばっか


 54

食堂を後にした俺は、仕方なく本来の目的地である寮の自室へと向かっていた。

それにしても、何だったんださっきの政岡は。
嫌がらせにしても、いくらなんでももう少し場所を選んでくれれば……いや別に場所を選んだら喜ぶというわけではないけれど。
だけど、それにしたって、と思い出してしまえば顔がじわじわと熱くなってくる。
やっぱり、生徒会会長やってるだけはある。ろくなやつじゃねぇ。

一人歩いていると、不意に、通路突き当りから一つの影が飛び出してきた。
ぶつかりそうになり、咄嗟に立ち止まったとき、同様相手は「わっ」と慌てて立ち止まる。


「あっ、すみませ……って、あれ?尾張君?」

「……えーと……」

「岡部です!」


すっかり忘れていた。
「ああ、そうそう」と笑って誤魔化す俺。
それにしても、岡部の部屋はこっちではなかったはずだが。
どこか様子のおかしい岡部が気になって「どうしたんだ?」と尋ねてみれば、岡部は僅かに表情を曇らせた。


「いえ、あの岩片君見かけませんでしたか?」

「俺も今日はまだ会ってないけど……」

「……そうですか」

「んで、あいつがどうしたんだ?」


まさかまた悪さでもしでかしたのか。
珍しく歯切れの悪い岡部が気になって、更に突っ込んでみれば岡部は迷ったように視線を泳がせる。
そして。


「いえ、今日ゲーム貸す約束してたんですが朝から教室にもいなかったんで、尾張君も休みだからもしかしてって部屋を訪ねたんですけど……」


その言葉に背筋が薄ら寒くなる。
一言で纏めるならば、嫌な予感。


「部屋にもいないのか?」

「……はい」


その時、なぜか俺の頭の中には昨夜岩片から届いていたメールが浮かび上がった。
『今すぐ戻ってこい』
もしかして、とか色々な可能性について考えるよりも先に、体が動いていた。


「あっ、尾張君!」


自室に向かって駆け出す。
後から岡部がついてくる。
部屋に辿り着くまでの短い時間の中、俺はこの嫌な予感が的中しないことをただ祈っていた。



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