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食堂を後にした俺は、仕方なく本来の目的地である寮の自室へと向かっていた。
それにしても、何だったんださっきの政岡は。
嫌がらせにしても、いくらなんでももう少し場所を選んでくれれば……いや別に場所を選んだら喜ぶというわけではないけれど。
だけど、それにしたって、と思い出してしまえば顔がじわじわと熱くなってくる。
やっぱり、生徒会会長やってるだけはある。ろくなやつじゃねぇ。
一人歩いていると、不意に、通路突き当りから一つの影が飛び出してきた。
ぶつかりそうになり、咄嗟に立ち止まったとき、同様相手は「わっ」と慌てて立ち止まる。
「あっ、すみませ……って、あれ?尾張君?」
「……えーと……」
「岡部です!」
すっかり忘れていた。
「ああ、そうそう」と笑って誤魔化す俺。
それにしても、岡部の部屋はこっちではなかったはずだが。
どこか様子のおかしい岡部が気になって「どうしたんだ?」と尋ねてみれば、岡部は僅かに表情を曇らせた。
「いえ、あの岩片君見かけませんでしたか?」
「俺も今日はまだ会ってないけど……」
「……そうですか」
「んで、あいつがどうしたんだ?」
まさかまた悪さでもしでかしたのか。
珍しく歯切れの悪い岡部が気になって、更に突っ込んでみれば岡部は迷ったように視線を泳がせる。
そして。
「いえ、今日ゲーム貸す約束してたんですが朝から教室にもいなかったんで、尾張君も休みだからもしかしてって部屋を訪ねたんですけど……」
その言葉に背筋が薄ら寒くなる。
一言で纏めるならば、嫌な予感。
「部屋にもいないのか?」
「……はい」
その時、なぜか俺の頭の中には昨夜岩片から届いていたメールが浮かび上がった。
『今すぐ戻ってこい』
もしかして、とか色々な可能性について考えるよりも先に、体が動いていた。
「あっ、尾張君!」
自室に向かって駆け出す。
後から岡部がついてくる。
部屋に辿り着くまでの短い時間の中、俺はこの嫌な予感が的中しないことをただ祈っていた。
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