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どうしてこうなったのだろうか。
そう何度も自分に問い掛けてみるが、一向に答えは出てこない。
「……」
「……」
「……」
食堂テラスのとある一席。
成り行きで政岡と飯食うことになったのはまあいいが、さっきから向かい側に座る政岡はこっちを見ようともせず黙々とコーヒーを飲んでるし双子は別の席に座ってるし。
沈黙が流れる中、適当に頼んだパンを食っているとどこか落ち着かない様子の政岡がテーブルの上に乗せてあった胡椒を手に取る。
まさか、と思いきやそのままそれをコーヒーカップにざらざら注ぎ始めたではないか。
「えっ、ちょ、おい、政岡、お前それ胡椒じゃ……」
「はっ?」
慌てて声を掛ければ、自分が手にしているものに気付いたようだ。
どうやら本人も不本意だったようで、うっかりどころかドジっ子も真っ青なミスをかます政岡は慌てて胡椒から手を離した。
そして、
「……なっ、なんだよお前知らねえの?わざとに決まってんだろ何言ってんだよ……!今はな、こういうのが流行ってんだよ!遅れてんな、お前!」
どうやら自分のミスを認めたくないようで、どっからどうみても強がる政岡は慌てて立ち上がろうとする。
「あ、いきなり立ったら……」
危ないぞ、と声を掛けようとした矢先、テーブルが揺れ、胡椒入りコーヒーカップが転がった。
「あっちィ……!」
どうやら拍子にコーヒーが掛かったようだ。
見事なコンボ技に言わんこっちゃないとつい苦笑しそうになりながらも、俺はテーブルに用意されていた布巾を手にとった。
「ったく、何してんだよ」
おっちょこちょいもここまで極まるといっそ清々しい。
溢れたコーヒーを拭き取り、政岡を見た。
「大丈夫か?今掛かったろ」
右手を抑える政岡にナプキンを差し出したとき、硬直した政岡の顔が一瞬で真っ赤になった。
その予想していなかった反応に、なにか照れさせることをしたのだろうかとこちらまで動揺したときだ。
「っふ、フハハハハハッ!」
いきなり高笑いを始める政岡にぎょっとする。
とうとう壊れたのだろうか。
赤くなったり笑い始めたりさっきから挙動不審なやつに「政岡?」と恐る恐る呼びかける。
「別にこれくらいどうってことねえ、なんたって俺は政岡零児なんだからな!」
全く答えになっていないが、本人が元気そうなので深く立ち入らないことにしよう。
「なら良いけど、なるべく早めに冷ましとけよ」
「おう!」
返事だけはしっかりしてるな。
そして、一度席を立った俺は汚れた布巾を食堂へ持っていく。
そのついでに、ドリンクバーでコーラを二つ、トレーに乗せてテラスへ戻った。
椅子に座って待っていたらしい政岡は俺の姿を見るなりまたそわそわとし始める。
前はもっと堂々としてて高圧的なやつだと思っていたのだが、酷くよそよそしいというか落ち着きがないというか。
まさかなにか企んでるのだろうか。
気にはなったが、ここまで調子の狂ってる政岡を怖がる必要はないだろう。
寧ろ、現在の政岡が相手ならばこのまま俺のペースに乗せていくことも容易だろう。
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